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第8話 志願準備

「んじゃ、とりあえず、乾杯と行こうか」


ガイは上機嫌に酒の入ったジョッキを掲げる。

ルゥトもにこやかにジョッキを掲げ、お互いのジョッキをぶつける。2人は一気に神の水を飲み干しダンッとテーブルに打ち付ける。


「ぷぅー。最っ高にうめーっ」


 ガイは今にも鼻歌でも歌いだしそうな勢いだった。

ルゥトも適度にジョッキを開けつつ一旦テーブルに盃を置き


「で?ガイは軍へ志願するのですか?気楽な冒険者家業をやめて?」


 テーブルに置いてあるナッツの盛り合わせから一粒手に取り、口へ運びながらルゥトは問う。

まだ酔ってはいなはずだがすでにニコニコ顔の尽きないガイは答える。


「ああ、やはり冒険者は切った張ったがすぎて先が不安だ。その点、帝国軍は飛ぶ鳥を落とす勢いだからな。報酬もしっかりしてるし腕自慢ならドラゴン相手に剣を振るより飛竜に跨って駆けるのを夢見る方がいいってことさ」


 そう上機嫌で答える。周りの冒険者たちがピクリと動く。ドラゴンなんて滅多に戦わないでしょうに。

それにワイバーン隊は軍の精鋭。一兵卒から駆け上がるのは至難の業ですよ。ルゥトは心の中でのみ突っ込んでおいた。


「では私と同期ということになりそうですね」


 ルゥトがさらりとそう言うと、ガイの煽りかけたジョッキがピタリと止まり


「……お前も軍に入るのか?」


 驚いた顔でルゥトの顔をまじまじと見ながら質問してきた。

ルゥトは今度は干し肉盛り合わせの中からベーコン炙りを摘まみながら


「ええ、私には軍にいるであろう兄を探す目的がありまして、今回の募兵に志願しようと考えてます」


 テーブルにジョッキと肘を置き


「…へー。そうなんだな。そいつは奇遇だな。なるほど。うん、こりゃ強力なライバルが出てきたわけだ」


 さっきまでのテンションはどこへやら急に冷たい目で見るガイ。


「そんな目で見ずとも出世したいと思って入るわけではないので敵視するのはやめてくださいね」


 さすがのルゥトもせっかくできた知り合いと揉めたくはなかったので両手を挙げて降参のポーズを取る。ガイはすぐににかっと笑い


「冗談だよ。とりあえず新人訓練所を出るまではお互い助け合っていこうや」


 そう言いながらテーブルの呼び鈴をチンと鳴らす。ジョッキが空になっていたようだ。


「そうだ、お前志願手続きは詳しいか?俺いまいち理解してねーんだわ。とりあえず推薦状はもらえたんでこれを提出しとけばいいんだよな?」


 ガイは注文を取りに来たウェイトレスにビールの追加を2つ頼みルゥトに質問をする。

ルゥトはとりあえず飲みかけのジョッキを空けるとやれやれといった感じで説明をする。


「そうですね。来週頭に軍の士官候補を募る受付が始まります。これは一般募兵と違い、士官候補生を広く集めるのが目的の募兵で

冒険者ギルドの推薦状、

貴族による紹介状、

商会などからの推薦状

のいずれかを持って受付をすませるだけです。その時に簡単な健康診断を受けて問題がなければ翌週からの士官候補生訓練所での強化訓練に参加することになります」


 そこまで話したところで酒の追加が届く。

二人でもう一度乾杯ジョッキをぶつける。


「そこから約半年、鍛えた冒険者ですら音を上げると言われる帝国軍名物の新人潰し「新人強化訓練」が行われます。

これは最長半年ということですが卒業までに志願者は10%以下まで減るそうです。

リタイア、もしくは見込みなしとなれば即一般兵と同じ扱いで配属されます。

その中でも能力次第では一ヶ月で正式に軍へ士官として配属が決まるケースもあるとか。

実力主義をうたう帝国らしいシステムですね」


 どこか他人事のように説明するルゥト。


「そして面白いのがこの「士官候補生訓練所」が皇帝陛下の直轄の教育機関だということ。これにより貴族だろうが平民だろうが乞食だろうがこの門をくぐった者は俗世の地位に左右されることが絶対にない。ということですね」


 そこでガイが力強くテーブルを叩き立ち上がる


「そこだよっ!!俺が惹かれたのは。この国では貴族様だろうが士官になって軍務に着くには必ずその訓練所を出なきゃいけねぇ。その訓練所出れるのは貴族でもほんの一握り。これにより軍は貴族どもの私物化ができないってのがいいよなっ!!」


だいぶん酔ってきているようだ。上機嫌である。

しかしこれにはルゥトも同意して


「そうですね。このシステムはすごくいいと思います。本当に強い者が指揮する軍隊。帝国の強さを象徴していると思います」


 ガイはルゥトの肩に抱き着き嬉しそうに


「だろぅ!!一緒に頑張って軍の中枢へ入り込み肩を並べて戦場で武勲を挙げてぇなぁ」


 そう言いながらジョッキを空ける。弱いわりに飲むのは好きなタイプだなとルゥトはガイの酒量を理解した。

そこからはガイの武勇譚(予定)が彼が飲み潰れるまで続き、日が暮れる頃にガイを近くの安宿に放り込むまで拘束が続いた。

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