第79話 新たなる辺境伯、そして約束は果たされた
帝国飛竜軍総司令官ミレリアは旧ヴァッシュ王国首都マッケル再攻略の全権を自身の配下でるルゥト・デュナン大佐に一任して帝都への帰路を急いだ。
同じ頃、
帝都では皇帝と皇太子アーヴァンドの死、及び第三皇子ゾルディスとカリシュラム辺境伯による謀反があったことが発表。
カリシュラム辺境伯は遠くアウルストリアの地で戦死。伯爵号のはく奪が発表され、ゾルディスは拘束、収監されいずれ処刑されることになるだろう。
新皇帝にはたった一人残った男子、第二皇子リーンハイドが帝位を継ぐことを自身が公表。これにより第三皇子ゾルディスを推していた政治を担う文官たちは大きく反発したが、鎖に繋がれたゾルディスが自ら彼らを説得、帝都内で大きな暴動が起こったものの鎮圧されて内乱は徐々に収まっていった。
旧ヴァッシュ王国首都マッケルを占拠した反乱軍はその堅牢な都市を利用して徹底抗戦の構えを見せたが、ルゥト・デュナン自らがマッケル市内に潜入して彼らを説得。無血開城に成功した。
この後、ヴァッシュ領内各地で散発的な暴動、反乱が起きるものの、駐留部隊として残ったルゥト・デュナンの精鋭部隊がこれを時に鎮圧し、時に説得して大事に至らず、半年後には旧ヴァッシュ国内落ち着きを取り戻していった。
カリシュラム辺境伯の謀反に加担したガターヌ共和国は帝国によるナスクア領制圧を抗議、停戦には同意したものの帝国との溝は埋まることなく、ナスクア領境沿いのハリス国は臨戦体制を敷いてガターヌ軍が集結しつつある状況であった。
アウルスタリア王国とガターヌとのの関係修復も頓挫しておりガターヌ、帝国、アウルスタリアの3国を結ぶナスケア領は緊張感漂う領地となった。
アウルスタリアと帝国の関係は改善されたわけでなく、皇女ミレリアが結んだ不可侵条約、戦争賠償と補給物資の返還が未だ行われておらず、ルゥト・デュナンの独断で一部物資が返還されただけに留まっている。
これは皇帝が未だ即位しておらず、帝国の方針が決められないことであったためであった。
帝国内のゴタゴタが落ち着き始めた翌年初頭。第3代皇帝、リーンハイド・ファルエ・ブッシュデインが即位。
軍の最高司令官にミレリアが付き、内政は帝国最大の領土を持つ穏健派のマウアー侯爵が舵を取る新体制が確立された。
それと同時に帝国の新領土となった旧ガターヌ共和国ナスクア領、旧ヴァッシュ王国領を併合して新たな辺境伯爵領として今回のアウルスタリア戦役、ヴァッシュ王国の鎮圧に多大な勲功を挙げたルゥト・デュナン少将に伯爵号を授ける旨が公表された。
ルゥト・フォン・ヴァッシュアナ辺境伯の誕生であった。
帝国軍に入隊後わずか4年で将軍の地位、さらに伯爵位まで上り詰めた若き英雄の話は帝国内外でもちきりとなり、帝国軍新人訓練校の門を叩く強者たちが多く増えてリメリアの頭を悩ますこととなったのは別の話。
時を同じくしてアウルスタリア王国にも幸せの報が訪れた。
その年の春、アウルスタリア王国、次期女王となる王女キュリエの結婚であった。
相手は長年の彼女の専属執事であったリーエント・ヴァナンデュラル。
現女王アンリエッタの亡くなった夫も元執事とあり執事業に若いアウルストリア男子が憧れたのは無理もない話であった。
多くのアウルスタリアの民が祝福し、ただ一度しか彼のその姿を見られない次期女王の入婿を一目拝もうと多くの民が結婚式のパレードに参列をした。
高身長、均衡の取れた長身、灰色がかった髪を後ろになでつけ立派な燕尾服の青年は多くの女性が惚けるほどの色男ぶりであった。
共に並ぶ我らがキュリエ王女も幸せそうな笑顔がよく似合い、可憐さと儚さ、なにより戦場で負った頬の傷を隠そうともしないその潔さに多くの国民は温かく喝采の拍手を送った。
後に、アウルスタリア兵たちの酒の席でまことしやかに囁かれた話が上がった。
「キュリエ様の旦那ってのは実は前の戦の時の帝国将校だって噂だぜ。あの将校殿は今や帝国の辺境伯さま。さらにアウルスタリアの入り婿になってこの大陸全土を姫様に捧げるのが目的だって話さ」
そんな与太話を肴に兵士たちの楽しい夜はバカ騒ぎに吞まれていった。