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第73話 至福の瞬間

「グググっ」


 ガイが全体重を乗せて大剣でギーヴをねじ伏せようと試みるがピクリとも動かない。

それを軽々と受けているギーヴの余裕の表情に苛立ちを覚えて、剣に力を入れるのを緩めギーヴの腹めがけて蹴りを繰り出すが、悠々と受け止められてしまう。


「くそっ!」


 足を取られて不格好になったガイが片足で足掻くがガッチリと掴んだ手はまるで岩のような硬さで離れない。


「不用意に蹴りなんて使うっちゃいけないよ、おじさん」


 忠告してニヤリと笑ったギーヴはガイの足を軽々と引っ張って移動する。


「大将!!」


「このガキ!!」


 ガイを助けるために彼の部下が少年に容赦なく斬りかかる。


「馬鹿野郎!!こいつは危険だっ!!」


 片足を掴まれケンケンをする形にされたガイが叫んだのとほぼ同時に、斬りかかった二人の首筋を狙ってギーヴの剣が閃き、鮮血が飛び散る。

飛び散った鮮血を目くらましにして、細い短剣がギーヴの目を狙って飛んでくる。


「ちっ」


 忌々し気な表情がギーヴの顔に浮かぶ。掴んでいたガイの足を離し、飛んできた短剣を指で掴む。解放されたガイは素早く転がって距離を取る。


「ガイ、無事ですか?」


膝をついた状態のガイに近寄り、剣を構えたルゥトが声をかける。

ガイは倒れた部下の死骸を苦々しい顔で見て


「くそっ」


と悪態をついた。すぐに立ち上がりいつでも飛びかかれる態勢を取る。


「これ投げたのは……また君か。この間からチクチクと僕の邪魔ばかりをしてくれるよね?」


 飛んできた短剣を指でクルクルと回しながらこちらを見てるギーヴが、ふとまじまじとルゥトを見て


「あれ?どこかで会ったことある?」


 そう言って小首を傾げる。


「ええ、過去に何度か」


 ルゥトはそう告げると身を屈めて走り出して剣の間合いに入り、素早く赤毛の少年の胴体を狙って剣を横薙ぎに振る。

 少年は特に焦ることもなくむしろ何かを思い出そうと空を見上げながら、ルゥトの剣を簡単に叩き落す。

 そのまま続けて剣を撥ね上げて連続攻撃を繰り出すが、その剣は悉くギーヴの剣に軽々と遮られた。


「だーめだ、思い出せないや。ま、いっか」


 考えるのをやめたギーヴは、一瞬棒立ちになった後、ゆらりと動き攻勢にでる。

ゆっくりした動きとは裏腹に鋭い連続した剣閃がルゥトを襲う。

だがルゥトもまた難なく叩き落していく。


「おらぁぁぁ!!!」


 二人の打ち合いが苛烈になっていく中に雄叫びを上げながらガイが側面から大ぶりの一撃で助太刀に入る。ギーヴはそれをかろやかに後ろに飛んで躱す。

双方の距離が一旦開いた。


「……この間からさ、君たちなぁんかむかつくなー。いくら僕が弱いからって2人がかりで邪魔ばかりしてさ」


先ほどまで子供が遊び場で楽しんでるような顔をしていたギーヴの表情に怒りという陰りが映る。


「けっ、そういう頭の悪い言い草は健在かよ。気持ちわりぃ」


 ガイがその場に唾を吐きながら嫌悪感をむき出しにする。


「……ガイ、少し本気でかかります。隙があれば加勢を」


このままではらちが明かぬと腹を括ったのだろう、ガイが今までに見たこともない怖い表情でゆっくりと剣を構えてルゥトは呼吸を整える。

こりゃあ本気だな。ガイもまた腰を落として剣を構える。


 次の瞬間、まるで瞬間移動でもしたかのように一瞬でギーヴとの間合いを詰めたルゥトの鋭い一撃がギーヴに襲い掛かる。

だがこれにやすやすと剣を合わせていく赤髪の少年。

人間と思えぬ速度で剣を打ち合う2人。

剣と剣がぶつかるたびに火花散り、剣風が起こる勢いであった。


「馬鹿野郎。こんなのに加勢できるか」


 それを見ていたガイが苦い顔でぼやく。

それでも一瞬の隙を見落とさぬように、ガイは神経を研ぎ澄ませて事の成り行きを見守る。

人離れした激しい剣戟のぶつかり合いが続く。

ルゥト鋭く強烈な攻撃、そしてギーヴの強烈な攻撃をを回避し撃ち落とす様を見て、赤毛の少年は驚きと好奇の表情を浮かべ、だんだんとその顔が喜びに満ち溢れていく。


「あははははは、楽しいよ!!ここまで僕と打ち合える人がミーニャ以外にいるとはね!!」


 少年は興奮して戦いに没頭していく。それに合わせて一撃一撃が雑で強力な攻撃に変わっていいく。速度もさらに上がり、徐々に戦いの天秤はギーヴの方に傾き始め、ルゥトの身体に剣がかすめて小さな剣傷が増えて徐々に鮮血が飛び散り始める。


 そして最後の時が訪れる。

ギーヴの強烈な上段からの一撃を受け流したルゥトの剣が根元から砕ける。

飛び散る剣の破片。

絶望がルゥトの顔に浮かび、それを見たギーヴの中の歓喜は最高潮に達する。


 ああ、楽しかった。


 至福の中でギーヴは相手の牙を叩き折った剣を切り返す。

その一撃は最高の速度と軌道でスルリと空を割く。

そのままルゥトの首を跳ね飛ばすために。


「こんな出鱈目な戦いに水を刺せるわけがねぇと思ってたんだがな」


 喜びに水を差すような声が聞こえて、ギロリとギーヴの怒りの目線がやや斜め後ろの声のした方に向けられる。


そこには手に持った大剣を渾身の力で横に大振りしようとする大男の姿が映る。


「うおおおおおお!!」


力任せの横振りにルゥトの首を切り落とさんと風を斬って走っていた剣が反応する。身体を捻じり、無茶な軌道を描いてぶん回される大剣を絶妙なタイミングでシャットアウトする。だが、名剣だったギーヴの剣も激しい打ち合いによって流石にこれ以上は耐えきれなかった。、

ガイの一撃を受けてギーヴの剣は粉々に砕かれ、ドゴっ!! と嫌な音を立てて大剣は少年の胴にめり込んだ。


「ギーヴ様っ!!」


 レノアとやり合っていたミーニャの目に攻撃が当たって九の字に曲がる少年の姿が映り、悲痛な叫びを上げる。


「ああ、ミーニャ……君の言う通り、鎧はきちんと着けとくんだったな」


 叫ぶミーニャが視界に映り、ギーヴはそんなことを考えながら強烈な剣の一撃で吹っ飛ばされる。


そうだ、受け身を。


とギーヴが考えた時、そこに突撃してくる騎馬の群れが。


グシャリ


という嫌な音が騎馬の群れにかき消された。

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