第7話 返済
とりあえずルゥトは配達ルートを変更し、バロック商会への届け物をしてから冒険者ギルドでガイと合流するということでいったん別れる。
滞りなくパロック商会への荷物を下ろし、次の注文を受けて商会を後にする。
残りの荷物を下ろすために冒険者ギルドへと足を運ぶ。
ギルドの建物は街の北側入り口近くの広場に面した位置にある。ここらは下町であり歓楽街であるため基本的収入も住居も安定しない冒険者が集まりやすい場所だった。
建築物も古いもの、後から増築されたりしたものが多く、少し変わった街並みなのも特徴的であった。
その中に大きな酒場、といった雰囲気の建物、それが冒険者ギルドであった。
夜中でも開いているのが特徴で入り口には扉がない。常に冒険者と呼ばれるならず者たちが屯している場所なので揉め事があってもここだけで解決することが多い。
建物内もただっ広い酒場、といった感じで昼間だというのに飲んだくれがたくさんくだをまいている。それでも酒場と違うのは店の中にちょっとした武器防具を展示してあったり簡易道具屋があったり持ち込みの鑑定買取のカウンターがあったりとギルドらしい部分もちらほら散見される。
ルゥトは店内を見渡し、ガイの姿を確認する。カウンターでなにやら年配の女性と話込んでいるのが見えた。とりあえずルゥトは買取カウンターに向かう。
「あの、「小人工房」の者ですが、頼まれていた痛み止めポーションを納品にきたのですが」
そうカウンターで暇そうにしてたケバイ女の子に声をかける。
だるそうに顔を上げた女の子はルゥトを見て一瞬惚けたあと、シャキッと座り直し
「あ、ハ、ハイ、私ミレームと言います、彼氏は募集中です」
そう立ち上がりお辞儀をする。
ルゥトは苦笑しながら
「いえ、ポーションの受け取りと受領のサインをもらえますか?」
そういって紙を渡す。ミレームは惚けたままそれを見ずにハンコを押す。
ルゥトは商品の確認をしなくていいのか?と聞こうと思ったが面倒なことになりそうな気がしたのでお辞儀をして
「ありがとうございます。「小人工房」をまたご贔屓に」
と伝えてその場を去る。ミレームはそのあともずっとルゥトの姿を目で追うことになる。
やるべき作業を終えてルゥトはガイと合流する。
ガイは年配の女性とああでもない、こうでもないと何やら揉めているようだった。
「だからこないだは今回の件を片付けたら推薦状書いてくれるっていったじゃねーか。話が違いすぎやしねーか?」
そうガイは女性に食ってかかる。
それを別の作業をしながらてきとーにあしらうように
「だから金を払えば書いてやるって言ってんだろ。出すもん出さなきゃ書くに書けないって何度も言ってんだろ。それにそんなに高額を言ってんじゃないんだ。こないだの件の報酬にたった銀貨3枚追加すりゃいいだけだっていってんのに」
どうも金で揉めてるようだった。
「どうかしたんですか?」
ルゥトは話の切れ目に入り込むようにガイに訊ねる。
「あ、ああ。にーちゃん、来たのか。すまねぇちょっと揉めててな」
少し落ち込んだ顔をしていた。
「……いくら足りないのです」
ルゥトはスッと近づき、小さな声でガイに問いかける。
ガイは苦虫をつぶしたような顔をして天井に視線を送り
「…銀貨が1枚足りねぇ。今回を逃すと軍への入隊申請がまた半年後になっちまう」
そう深刻な顔で落ち込む。冒険者の稼ぎというのはだいたい仕事をこなしてからもらう後払い制である。額は太きいが時間がかかるものが多い。
かといって金銭の貸し借りは基本ご法度。これは揉め事が多いせいであり明日死ぬ可能性がある冒険者に金を貸す人はまずいない。
困っているガイにルゥトは小さな小袋を手渡す。
「いったん預かっていたもの、あなたにお返ししますよ。いまはこれが必要でしょう?」
ガイはその子袋を受け取り渋い顔をする
「いや、こいつには銅貨しか入ってなかっ……」
ガイが小袋の中身を確認すると銀貨が2枚入っていた。
ガイは我が目を疑い驚く。そしてルゥトを見て
「いや、おれは確かに確認したぞ。お前、まさか・・・」
ガイは腹立たしげにルゥイに抗議しようとしたが
ルゥトはそれを手で遮り
「いま、必要なのはなんですか?それにこれは助けたあの老婆の感謝ですよ」
ルゥトはそう言ってガイの顔を真面目な顔で見返す。
さすがのガイもこれ以上は追及せず
「…わりぃ。感謝するぜ。この恩は必ず返す」
そう言ってカウンターの女性に向き直り
「おい、ばーさん、これ、銀貨3枚追加だ。これで文句ねーんだろ?」
と銀貨をテーブルにバンと置く。次の瞬間、その手の上にギラリと閃光が襲い掛かる。ナイフを持った女性の手が勢いよく落ちてくる。
ガイは素早く手を引く。銀貨が軽くジャンプしてガイの手があった位置にナイフが突き刺さる。
「誰がばーさんだっ!!!」
すごい剣幕で怒りを表す女性。
ガイもさすがにこれにはたじろぎ
「・・・すいません、おねーさん」
そう言った。
ルゥトはそれが面白く、つい吹き出して笑った。