第65話 3日目、激戦
「敵の側面から仕掛けるぞ! 隊列を崩すなよ!!行くぞ!!」
「おお!!」
ガイの号令で巧みにリーガドゥを操って勾配を降り、防衛陣に肉薄する帝国軍の側背から彼の部隊、傭兵で構成されるリーガドゥ二千騎が突撃する。基本戦術は一撃離脱。敵を翻弄して味方が立て直す時間を作るのだ。
3日目、第二陣への帝国の攻めはさらに苛烈さを増し、どんどんと押し寄せる帝国軍になんとか抵抗しているような状況であった。
崩れれば第一陣と同じような結果になりかねないため、アウルストリア軍は第二陣の動員数を一万まで増やして対応していたが、如何せん士気が上がらず今にも崩壊しそうな状況であった。
そんな中、ガイの遊撃部隊は敵陣を翻弄してなんとか戦線を支えていた。
共に行動していたルゥトはガイの指揮官としての適正に驚いていた。
なかなかの戦況眼の持ち主だったようで的確なタイミングでの突撃、撤退を繰り返して友軍が崩壊しないように支えていく。
「よし、引くぞ!!敵を引きつけながら撤退だ!!」
ガイの指示でリーガドゥ部隊は踵を返す。
少しもたついた印象を与えて頭に血が上った帝国軍はそれを追撃しようと動き出す。
その隙をついてアウルスタリアの防衛陣は体制を立て直した。
次の瞬間、さらなる指示で撤退していたリーガドゥ部隊が反転して攻勢に移り、釣られるように追撃をする帝国軍の鼻っ柱に強烈な一撃を与えてから迅速にその場から撤退した。
「こりゃあ骨が折れるぜ。練度もだが士気が明らかに違う」
後退しながらガイがぼやく。
「第一陣が落ちたのが響いてますね。なんとか立て直したいところですが……」
ルゥトは思案する。本来なら天馬の加護のあるアウルスタリアの軍に士気の心配はないはずであったが予想外の方法で天馬が落とされたのは痛かった。
「おいルゥト、今度はあっちがだめだ。東側の中央、加勢に行くぜ。あのままだとあそこが崩れる」
本陣との間の高台から戦況を見ていたガイが次の加勢ポイントを見つけたようだった。
「わかりました。行きましょう」
ルゥトは乗っていたリーガドゥの首元を撫でてやり、更なる戦場へと駆け出した。
東側の手薄な場所を開いて自陣から飛び出し、敵軍の後方から突撃するガイの傭兵部隊。
崩れかけていた友軍をカバーするように帝国軍を翻弄する。
ルゥトも共に突撃して敵中で右に左に獅子奮迅の戦いを繰り広げる。
この間に味方の立て直しを図るが、なかなか立て直せないでもたついていた。
「まずいな」
ここが抜けられれば昨日と同じように押し込まれる。
ルゥトは馬首を返して防衛陣の方へ駆け寄る。
柵周りで押し合っている敵兵を後ろから切り捨てて
「早く立て直しを、前線が持たない」
中級指揮官の兜を付けた男にルゥトが叫ぶ。
「す、すまん、俺はここの部隊の人間じゃない。昨日ここに引き上げてきたんだ。ここの指揮官は先程死んでしまって……」
男は混乱してオロオロしながら泣きそうな顔で答える。
「ならば君がここの指揮を取るべきだろう!!すぐに隊を纏めて敵を押し返せ。防御柵を立て直して味方の再編成を。敵は待ってくれないぞ!」
ルゥトの叱責でオロオロしていた男は怯んで後ずさりをしたものの
「わ、わかった!!」
そう応えてすぐに周りの兵達に声をかけて指示を出す。
それを横目にルゥトは襲ってきた敵兵を返り討ちにしてその場を守る。
相当まずい状況であった。次々と襲ってくる帝国兵を切り捨て、押し返しリーガドゥをぶつける。それでも一人では限界に近かった。
その時、ルゥトの上空に大きな影が差す。
その場で争っていた兵士たちは敵も味方も異変に気づき、上空を見上げる。
同じように天を見上げたルゥトは驚きで目を見開く。
黒い影が大きな翼を命一杯に広げ、晴天に大きな影を創り出す。
そして翼をバサリと一度羽ばたかせるその背後に白い光を纏う人影が立ち上がり
「アウルスタリアの兵達よ!!臆せず剣を取り闘うのです!!」
少女の凛々しい大声が激しい戦闘音の中にたしかに鳴り響いた。