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第64話 王女キュリエ 再起

 キュリエが目覚めたのは1日目の夜半であった。

目覚めた当初キュリエは自分の状況が分からず、パメエラと共に飛行中に墜落したと聞くと慌ててベッドから飛び起きてパメエラの所に行こうとするキュリエを世話係の者たちが必死に止めた。

 パメエラとルゥト・デュナンの無事を聞いて安堵したキュリエはそのまままた意識を失った。


 明け方に再び意識を取り戻す。

体を強く打ち付けたため動かすだけで体中が悲鳴を上げていたが、骨折や大きな外傷はないため、安静にしていればすぐ動けるだろうと容態を見てくれた軍医はキュリエに告げた。

 あの高さから落ちて怪我がないことは奇跡だと皆が喜んだが、キュリエだけはリーエントが助けてくれたからだと確信していた。

 陽が昇り始め、テント内で動けぬキュリエにも外が慌ただしくなってきたのがわかる。

遠くで戦闘の続く音が聞こえていている。

まだ身体を起こすのもやっとのキュリエが世話係に戦況を聞いても誰も教えてくれない。


「今は安静にしてください。戦況はジンゴッド将軍が後で報告にこられるので」


 検診にきた軍医はそれだけを告げ、慌ただしくキュリエの前を辞していった。

逸る気持ちを抑えつつ、動けない以上自分にできることはないとキュリエは休むことに専念する。

何度か眠て食事を取り、陽が落ちるころには身体を起こすくらいはできるようになっていた。


 状況報告にジンゴッド将軍が現れたのはだいぶん暗くなった後のことであった。


「キュリエ様、なかなか顔が出せずもう仕分けありませぬ。取り急ぎ報告のみになりますが……誠に残念ながら我が軍の第一陣が敵の手に落ちました」


 ジンゴッドは頭を垂れてそう報告をする。

報告を聞いたキュリエは胸が締め付けられるようであった


「……わたくしがパメエラと共に戦場に出れなかったばかりに……皆には申し訳なく思ってます……」


「い、いえ、そのようなことはっ!キュリエ様の身を案じ、兵たちは一層励んでおりましたが……敵が一枚上手でございました。奮闘はしたのですが善戦虚しく敵の猛攻を食い止めれませなんだ……。兵の温存を最優先と考えた結果、第一陣は早々に放棄とすることで犠牲は最小限に抑えられたと思っております」


 ジンゴッドは血を吐くような思いで報告をした。

キュリエもまた、自分の失態を責めずにはいられなかったが落ち込むのは今ではないと顔を上げて


「わかりました。明日は私も陣頭へ赴くつもりです。パメエラはまだ無理でしょうが私だけでも兵の元で共に戦いましょう」


 そう告げる。

するとジンゴッドはさらに深く頭を下げて


「御心はご立派ですが、何卒この本陣にお残り頂きとうございます。明日以降はさらに敵の攻撃が激しくなるでしょう。キュリエ様の身が危険に晒されれば、兵たちも安心して戦えませぬゆえ」


「ですがっ!!」


「キュリエ様っ!!……何卒ご理解くだされ」


 キュリエの講義の声をジンゴッドは声を大にして有無を言わさず遮った。

相当切羽詰まっているのがキュリエにも感じられた。状況は思った以上によくないのだろう。

作戦ではあと3日はもたさねば北上してくるミレニアの軍は合流できないはず。

状況は瀬戸際のようであった。


「……わかりました。皆の尽力に期待しております」


 キュリエはそう答えるしかなかった。

ジンゴッドが退出して軍医が現れる。

なんとか身体を起こして動かすことくらいはできた。軍医には特に異常は見られないができれば王都に戻ってほしいと懇願されたが、それは断固拒否をした。


 皆が退出した夜半すぎ、キュリエはこっそりとテントを抜け出す。

動くたびに身体中が痛み、何度か足を止めてその場に蹲ってしまったがなんとか目的の場所にたどり着く。


 周りに誰もいない。

 神聖な空気が人を寄せ付けないのだ。兵士たちも無意識にこの場より離れた場所で警護をしていたので侵入するのは容易かった。

テントの中に入るとそこには淡く輝く白き天馬、パメエラがうずくまっていた。


「パメエラ!!」


 キュリエは彼女の名を呼び駆け寄る。

 天馬はゆっくり頭を上げキュリエを見る。

飛びつくような勢いで駆け寄ったが怪我の度合いが分からず、パメエラの前で失速して座り込み顔色を伺う。


《大丈夫だよ。まだ飛べやしないけどね。泣き虫さんは大丈夫かい?》


 パメエラは優しい眼差しでポロポロと泣くキュリエを見る。


「ごめんなさい。パメエラ、私がしっかりしてなかったばかりに……」


 キュリエはそっとパメエラの鼻先を撫でる。


《あんな無茶苦茶な攻撃、誰のせいでもないよ。お前が無事なことですら奇跡みたいなもんなんだから》


「……そうね。そうだね。パメエラも無事でよかった」


 キュリエはそう言ってそっとパメエラの首に手を回す。パメエラの暖かさはいつもキュリエの心に安らぎと勇気を分けてくれた。


「……明日、戦場の陣頭に行って皆を励ましにでます。パメエラがいなくても少しでも助けになると思うの」


キュリエは決意した胸の内を語る。

パメエラはジッとキュリエを見て


《危険なことを……でも決意は固いんだね。でもそのまま戦場に出たところでたいした励ましにもならない、むしろ危険なだけだよ?》


 厳しい口調で言われてキュリエは一瞬押し黙る。反論を口にしようとした時


《危険度はさらに上がるけど効果のある方法がある。……少し宿を共にした奴がいてね。そいつの力を借りようじゃないか》


 パメエラは暗いテントの反対側に視線を送る。その視線を追ってキュリエが振り返る。


 そこには黒い大きな何かが丸くなっていた。

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