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第62話 交戦


「くそ、はじまりやがった!」


 リーガドゥで丘陵を下りながらガイが悪態をつく。

 単身突っ込んできた青い鎧の騎士は矢の雨を物ともせず、人とは思えぬ速度で防衛陣に突っ込むと、担いでいた帝国軍旗を足場に空に舞いそのまま防衛陣の真ん中に飛び込んだ。

 何事か理解できなかったアウルスタリア軍の防衛陣から悲鳴とぶつかる金属音、動揺の叫び声が上がり始める。


「単騎突入なんてイカれすぎだろ!!」


 ガイはリーガドゥを急かすように胴に喝を入れる。


「彼らしい、と言えますが……同感です」


 ギーヴ・フォン・カリシュラムが第二師団にいることは分かっていたが、槍が飛んでくるまでその傍若無人ぶりは考慮に入れていなかった。


「目的はなんだ?単騎で落とす気とかじゃあねーだろーな!!」


「流石にそこまでは考えてないでしょう。撹乱と士気の低下、指揮系統の分断といったところですか。現にかなりの混乱が見られる。急ぎましょう」


 ルゥトたちは第二防衛陣を抜け、さらに加速して第一陣に向けて駆け下りる。

 第一陣と第二陣の半ばに差し掛かった時


「まずい!帝国軍が動き始めたぞ!」


 ガイの言う通り、停止していた帝国軍の横陣が前進を始める。

アウルスタリア軍は縦横無尽に暴れ回るギーヴ一人にかき回され乱れている。

 そんな中、ルゥトたちが通過した第二陣から帝国軍に向けて矢が放たれる。

だが重装歩兵を前面に敷いた帝国軍の足を止めることはできそうもない。

 混乱する第一陣の中で槍を振り回すギーヴを視界にとらえたルゥトはリーガドゥに乗せてきた小型の弓を手に取り矢を番える。

ガイはさらにリーガドゥに鞭打ち加速して突っ込んでいく。

 ルゥトは狙いを定め、槍を振り回して周りに鮮血を撒き散らすギーヴに向けて矢を放った。

強烈な矢はギーヴの兜の隙間、視界を確保するための目を寸分狂いなく狙って飛んでいく。

だが、その矢はギーヴの手によりはたき落とされた。

 ギーヴの動きが一瞬止まり、矢を放ったルゥトを見る。ルゥトはリーガドゥの腹を蹴り速度を上げて一直線に駆けていく。

 ギーヴが持っていた槍をルゥトに向かって投擲しようとした時、側面からガイの大剣が襲い掛かる。だが、渾身の一撃は投げようとした槍をクルリと翻して防がれる。


「敵がくるぞ!! コイツは引き受ける!! 目の前の敵軍に集中しろ!!」


 ガイは周りの恐怖で浮き足立っている兵士たちに向けて大声で叫ぶ。

その声で我に帰ったこの場の指揮官らしき男、が進軍してくる帝国軍に目を向けて慌てて


「全隊、盾を並べて敵に備え……」


指揮官の喉を槍が貫き、指揮官が崩れ落ちる。

持っていた槍を失ったギーヴは落ちている剣を拾って次の獲物へと素早く襲い掛かっていく。


「くそっ!!」


 下がる兵士の背後から斬りつけるギーヴにガイが背後から斬りかかるが、倒れる兵士の槍を手に取り、ガイの方を見ることもなくカウンターで槍を繰り出してくる。

 態勢が甘い、ガイはそのままさらに踏み込み、勢いがつく前に鎧で受けきるつもりだったが、


「ぐっ!!」


 槍の一撃は思った以上に重くガイの前進は阻まれる。足の止ったガイの喉元を狙うようにギーヴの剣が迫る。だが、またしてもギーヴの目を狙う矢に邪魔をされて、剣を引き払い落とす。


 矢を払い落としたところにガイが踏み込み一撃を加えるも、ギーヴはなんなく躱す。ルゥトも接近戦に切り替えガイと2人がかりでギーヴを足止めする。

 ガイの強烈な攻撃の隙をルゥトがサポートするように攻撃を挟む形でギーヴにプレッシャーを与えていくが、まったく動じることなく2人の攻撃を捌く青い騎士。

 

「うぉぉぉぉぉぉぁぉ!!」


と言う雄叫びを上げながら防衛陣の中に帝国軍がなだれ込んでくる。

 ガイやルゥトを押しのけ、ギーヴを囲むように青で統一された重装歩兵が三人の戦いに割り込む。

その中に女性が一人、ギーヴに寄り添うように立ち


「お怪我はありませんか?ギーヴ様」


 兜の面当てを上げてギーヴに声をかけるミーニャ。

兜を外し素顔を晒すギーヴ。さすがに汗にまみれ赤毛がべっとりと頬に張り付いていた。


「うん。特にないね。しかし最後は気持ち良くなかったなぁ」


 帝国軍がなだれ込んだせいで乱戦になり青い重装歩兵の周りは剣戟と叫び声で埋め尽くされているが、彼の周りにいる兵士たちは微動だにせずギーヴとミーニャを守っている。


「ここはもう落ちるでしょう。我々は後退しましょう」


「そうだね。ここまで押し込めばあとは僕じゃなくても大丈夫だね。みんな強いもん。でも敵にもまだまだ手練れがいるから引き締めるように伝えてね」


ギーヴはなかなかの好敵手だった2人が乱戦に飲まれた方角を見ながら呟いた。



 乱戦に完全に巻き込まれたルゥトとガイは無理矢理敵を押し退け、味方の防衛隊と入れ替わる。

 ルゥトもガイも騎乗用の軽装であったため混戦には向かなかった。

少し後方まで下がり戦況を見る。

完全に敵に楔を打ち込まれた形となっていた。

 防御陣地の内側に帝国軍が雪崩れ込んでどんどんと制圧していく。こうなると兵力的にも戦力的にも完全に不利であった。


「くそ!!なんてやつだ。、常識を疑うぜ」


 ガイは憎々しげに悪態をつく。


「……第一陣はもう無理ですね。兵力の消耗は避けたい。ガイは本陣に戻り、自分の隊を率いて遊撃を。あと、本部に撤退の指示を出してもらってください」


「……おめーはどうする?」


ガイが口笛を吹くと後方から彼のリーガドゥが駆けてくる。


「僕はここで敵の足止めと殿を務める隊と合流します」


「おめぇ、ただの客扱いなんだろ?」


「やむ追えぬ事情、と言うやつですよ」


ルゥトは本陣に目を向ける。


「けっ、そんなロマンチストだとは知らなかったぜ」


悪態をつきながらニヤけるガイはリーガドゥに飛び乗り、馬首を翻す。


「死ぬなよ」


そう言って走り去るガイ


「そちらこそ」


ルゥトは荒れる混戦の中に戻っていった。

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