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第61話 一騎当千

「ふぅ……」


  僕は自分のために用意された青い鎧を着込んで一息つく。

 ちょっと体を動かしてみるがやはり鎧は嫌いだ。身体を動かすのには向いていない。

 でも今回は仕方ないか。


「ギーヴさまぁ、準備ができまし……うわぁ!ギーヴさま、かっこいいですぅ」


「もう、アマーリアったら勝手に……ギーヴさまぁ、素敵……」


「置いてかないでよー、ああ、ギーヴ様だー」


「こらっ!みんな勝手に、ギーヴ様、お忙しいところすいません」


 次々に4人の少女が僕のテントに飛び込んできた。

 やれやれ、みんなやかましいなぁ。

 彼女たちは縁あって僕が助けた少女たちだ。なんだか僕に恩義を感じて、こんな戦場までついてきている。


「ギーヴさま、とてもかっこいいですぅ」


「ほんと、惚れ直しちゃいますぅ」


 そう言いながら僕の腕にまとわりついてくる2人は双子のアマーリアとラニー。

どちらも可愛いがまだまだお子ちゃまだ。


「こら、ギーヴ様はこれから御出陣なされるのよ。邪魔するとミーニャ様におこられるわよ!」


 一番年長の少し大人びた少女、メニラが頬を膨らませながら双子を嗜める。

双子がしゅんとして俺から離れたので俺は二人の頭を撫でてやり


「帰ったらまた遊んであげるからさ」


「ほんと?エッチな遊び?」


「な、なんだよそれは。そんなことしないよ」


「ぶー!!」

「ぶー」


 双子がぶーを垂れる。

そんなことしたことないのに。

 僕は呆れながら剣を取り腰に差す。愛用の名剣だ。でも今回はこれは使いたくないな。

ついでにその辺の剣をもう2本ほど手に取り腰に差す。


「さ、僕は行くよ。みんな、仲良くお留守番をしててくれ」


 そう4人を見渡して声をかけた。


 女の子たちは急に静かになり


「気をつけてね」


「怪我しちゃやだよ?」


「……早く帰ってきてくださいね」


「ご武運を」


「うん。いってくる」


 僕は机の上に置いておいた兜を手に取り、彼女たちに笑顔を向けてからテントを出る。

テントを出た先にはミーニャが膨れっ面で立っていた。


「……あの子たちったら……私もギーヴ様とイチャイチャしたかったのにぃ……」


 何やらブツブツ言っていた。


「ミーニャ、彼女たちを頼むよ」


「……わたくしもギーヴ様と一緒に行ってはダメですか?」


「ダメダメ、今回は俺一人で行くから意味があるんだから」



「うう……」


 ミーニャは肩を落としメソメソし始める。


「心配性だなぁ。大丈夫、僕はミーニャほど強くないから無理はしないよ」


 そう言ってミーニャの頬に触れてあげる。

 するとミーニャは潤んだ瞳で頬を染めて


「ぁぁ、ギーヴ様、約束ですよ」


そう言って頬を染めたまま、大きな帝国の旗を手渡してくれる。


「うん、無理をしてみんなを悲しませたくないからね。ほどほどで帰ってくるよ」


「ご武運を」


 ミーニャが畏まって見送ってくれた。

僕はゆっくりと走り出す。

 すでに僕の軍の先陣は配置に着こうとしている。口笛を吹くと愛馬のラインフィットが並走する。

 ヒョイと飛び乗り、先陣まで一走りする。

すでに軍は整列を終了し、僕の進む道を開けて待っていた。

僕はラインフィットから飛び降りて、ゆっくりと皆が開いてくれた道を進む。

 これから僕は単騎で敵陣に突っ込む。

味方の損害を出さずに勝利するにはそれが一番だからだ。


 僕一人ならなんとかなるしね。


 道を進むとみんなが僕のために剣を捧げてくれる。なんか小っ恥ずかしい。

父上が辺境伯で今の軍の最高司令官だからみんな僕を讃えてくれている。

地位もこの間、少将というのになったのもある。


「一軍の将として恥じぬ戰をするのだ」


 そう父上に釘を刺されている。

 無能な僕を心配して叱責してくれた父上に報いるためにも、敵陣をたった一人で切り拓かねば。

 昨日は槍を投げたら天馬が落ちた。誰でもできるだろうけどみんな褒めてくれた。

今日も上手く目的を果たしてみんなに褒めてもらえるといいんだが……。


 そうこう考えてたら軍の先頭に出る。

僕は一度旗をまっすぐ立て、石突部分を持って高く掲げる。


「うおおおおおおおおお!!」


 後ろの全兵士が咆哮を上げる。僕は旗を持ち直し


「さて、行くか」


 ゆっくりと走りはじめる。

軽く流しの助走を入れてから本腰を入れて加速する。すぐに敵の矢の射程に入ったが矢は飛んでこない。


「ん?矢の間合いなのに敵は気づいてないのかな?」


 僕はさらに加速する。

すでに敵までの距離は半分詰めた。

加速した向かい風で旗が重くなってるが気にせず走る。

やっと敵陣から大量の矢が放たれた。


「遅いよ」


 ギリギリまで引きつけて持っていた旗をブンと横薙ぎに振っただけで僕を狙った矢は落ちる。敵陣地まであと数百歩。


 次の矢は来ない。


 僕は旗を持ち直して、勢いよく旗の石突を地面突き立てその反動を利用して天に舞う。目の前は敵陣の真っ只中。

唖然と空を見上げる敵軍の兵士たち。

 僕は口元が綻ぶのが止めれず、にやけながら持っていた旗を敵の一人に投げつける。

旗はそのまま敵兵士を貫き、地面に突き刺さった。


「帝国軍第二師団副師団長、ギーヴ・フォン・カリシュラム。参上!」


 着地場所がないため仕方なくその辺の兵士の頭を踏みつけて口上を告げる。

ミーニャがそうした方がいいって言ってたからな。

 敵の兵士たちは何が起こってるのかわからない、といった顔で呆然と僕を見上げている。

僕は踏みつけた兵士の頭を足場にもう一度飛び上がる。その際にこう、上手く兵士の首をへし折っとくのがコツだ。

 次の目標は槍を持って口を開けて立っている、僕と目の合った兵士。

その槍を掴んで胸を蹴り付けてやる。

すると、派手に吹っ飛んで周りの兵士をバタバタと巻き込みながら倒れる。

 当然、思いっきり蹴ったので兵士の胸部に大きな陥没ができている。


 蹴り飛ばした兵士が将棋倒しに倒れて開けた場所に着地する、

ついでにその場に落ちていた敵兵の槍を足で踏んで空へ跳ね上げて受け取り、クルリと振り回し周りの敵の喉元を引き裂く。

 周りに鮮血と悲鳴が飛び散る。

 さぁて忙しくなってきた。僕は兜の中でぺろりと唇を舐める。

 

 僕の獅子奮迅が始まる。

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