第6話 ガイ・フレアリザード
「にーちゃん、ちょっと待ちなよ」
少し通りから外れた小道に追跡を振り切るために曲がったところで、先ほどの大男が追い付いてルゥトに声をかける。ルゥトは気づかない振りをして立ち去ろうかとも思ったが
「なんか用でしょうか?行商人ではないので物を売ることはできませんよ?」
そう言いながらニコニコして振り返る。
大男はルゥトの顔をまじまじと見る。そして全身を確認して
「ふぅん。思ったより若いな。さっきは小石投げてくれて助かったぜ。そのお礼を言いたかったのさ。なんならこれやるよ。お礼だ」
そう言ってさっきのゴロツキ達を物色して手に入れてた小袋を放り投げてくる。
ルゥトはそれを受け取るが
「こんなものはもらえませんよ。いらぬお世話だった可能性の方が大きいと思ってますので」
そうニコニコ笑いながら小袋をポンと放り返す。
大男はそれを受け取りニヤッと笑って
「ふん、そんなことねーさ、あの場にあんたがいたせいで背後の注意をあんたに向けてたもんでね。危うくあの小物に出し抜かれるとこだったんだからな。しかし、ナニモンだ?あんた。俺はあんたに注意を払ってたのにも関わらず、小石を投げられたのが当たるまで気づかなかったぜ?」
大男はまた小袋を投げてよこす。今度は勢いよく。
当たれば痛いであろう速度で飛んできた小袋を、フワリと勢いを殺して受け取り
「お金で遊んではいけませんよ。気づかなかったのはそちらの落ち度でしょう。僕はたいしたことはしてません。ふつうに投げただけですから」
小袋つまんで持ち上げ困った顔をしてルゥトは大男を見る。
大男は手を上げてもう受け取らないというジェスチャーをする。
ルゥトはため息をついて
「じゃあこれはいったん預かりますね。では私は急ぎの配達があるので」
そういって小袋を懐にしまうと振り返って歩き始める。
「おいおい、つれねーじゃねーか。せっかく知り合ったんだし親交でも深めようぜ。俺はおめーに興味が湧いたんだ。一杯付き合えよ」
そう言いながらダッシュで走り寄り、肩を引っ張る。
ルゥトは少し不審者を見る目で
「……あっちの趣味の方ですか?」
「ちっげーよっ!!!!」
ルゥトの質問に被せるように大男は全力で否定する。
ルゥトはわざと少し後ずさる。
「あ、てめぇ違うっていってんだろ!!!ふざけんなよっ!!」
大男はさすがに顔を真っ赤にして怒り、ついに剣にまで手をかける始末。
ルゥトは少し笑って
「すいません。ほんの冗談ですよ。……僕は仕事中でして、配達後でよければお付き合いしましょう」
ルゥトは少し思案してからそう答えた。
大男は剣から手を離し
「ちっ。最初からそう言えっての。で?仕事ってのはなんだ?その荷物を持っていくことか?」
後ろの荷物を見ながら大男が尋ねる。
「ええ、これを冒険者ギルドに届けてもう一軒寄るんですが。そのあとでよければ」
そう言いながらルゥトは歩き出す。
大男はそれについていきながら
「そいつはちょうどよかったぜ。俺も冒険者ギルドに用があるんだ。そうだ、俺はガイ、ガイ・フレアリザードってんだ。あんたは?」
大男、ガイは俺の前に出て握手を求める。
ルゥトは進行ルートを塞がれたことに呆れながら足を止めて、少し手を見て諦めるようにため息をついてから手を取った。
「ルゥト・デュナンです。よろしく」