第53話 衝突
翌朝、たった一晩で必要な物資を準備した補給部隊が王都を立つ。
バーナルはハギュール少将の潜伏している場所へ。
レノアは北上しているミレリアの元へそれぞれ補給部隊を先導するために随伴していった。
ルゥトは二人に今後の方針と作戦書を持たせる。
「お二人とも道中気をつけて。時は一刻を争いますのでよろしくお願いします」
バーナルはリーガドゥに跨り
「ああ、戦場がお開きになる前には戻ってくるさ」
軽口を叩くバーナル。
馬上のレノアは
「い、急いでカリーナと一緒に戻りますね。ルゥトもあまり無理をなさらずに」
そう言った後少し間を置き、ルゥトをじっと見てはにかむように笑って
「キュリエ様をお願いしますね」
そう続けた。彼女は船でキュリエの世話をしていたので情が湧いたのだろう。ルゥトは口元を緩めて
「ええ、彼女のことはお任せを」
ルゥトがそう返すとバーナルはヒューーっ♪と、口笛を吹いた。
二人は早々に騎馬を走らせ、それぞれの隊列に混ざっていった。
輸送隊が出立を見送り、ルゥトは軍の上層部と話すために軍本部へと向かう。
アウルスタリア軍本部はすでに戦の最中そのようであった。昨夜は補給部隊編成と物資の準備で走り回っていたが今度は軍の編成、兵站計画、作戦計画と大忙し。
ここからが本番であった。
後方業務を一手に担う病的に顔色の悪い将軍は昨日からの激務でさらに顔色が悪く、目の下の隈もさらに色濃さをましていた。
バリシャフ将軍は執務室から机を本部の中庭に持ち出してそこで書類整理をしつつ次々と舞い込む案件を的確に指示して処理していた。
ルゥトは彼の元に行き敬礼をして
「お忙しいところ申し訳ない。アウルスタリア防衛の総指揮官殿に目通り願いたいのだが」
忙しそうに書類に目を通しながら別の書類に判を押しているバリシャフは、めんどくさそうに眉を顰め顔を軽くあげでテキトーな敬礼をしながら
「ジンゴッド将軍はこの先の大広場にて召集した部隊の再編成を行っておられる。そちらに行かれるが良かろう」
作業の手を止めることなくそう答える。
「了解しました」
ルゥトはこちらを見ていないバリシャフに、敬礼をして言われた方角へ歩こうと振り返った時、
「なぁ、客将殿」
そう呼び止められてルゥトが振り返ると
書類から顔を上げたバリシャフが手招きをしている。
ルゥトは彼に近づくと周りの誰にも聞こえないくらいの声で
「……あんたはこの戦、勝てると思ってるのかい?」
「ええ、必ず勝てると思っていますよ。貴官が普段通りに力を発揮してくだされば、ね」
ルゥトが答える。二人はしばらく視線を交わしたが、バリシャフが先に視線を書類に戻してささっさと行けと言う風に手で追い払う仕草をする。
ルゥトはもう一度敬礼をしてその場を後にした。
教えてもらった広場では多くの兵士たちが集まって整列をしていた。
ルゥトは辺りを見渡し、将官用のテントを見つけてそちらに向かう。
テントの前でジンゴッド将軍とキュリエがなにやら話し込んでいる。
ルゥトは二人の前に行って敬礼をする。
そんなルゥトを見てジンゴッド将軍が少し怒りを露わにして眉をしかめる。
「……貴殿には護衛をつけていたはずだが?」
「さて、皆忙しく行き来しているのでどこかで逸れてしまったのでしょう」
とぼけた回答にジンゴッドが苛立った顔になる。
「ルゥト・デュナン殿、輸送隊は無事出立したと聞いています。今後の方針に変わりはないとするなら北の帝国軍の今後の動向が気になるのですが?」
二人の空気を読んでキュリエが質問、というよりジンゴッドからの質問なのだろう。ルゥトは目を瞑って状況を整理する。二人に説明しようと目を開けたとき、
ルゥトの視線が遠くへ向けられたまま動かなくなった。
キュリエは突然動きの止ったルゥトの異変に気づき、彼の視線の先を追った。
そこには2mに届きそうな巨躯の男がゆっくりと歩こちらにいてくる。その男をルゥトの眼は捉えて離れない。歩いてくる大男の表情は怒りに溢れており、その怒気がルゥトに向けられていることは明らかであった。
男の顔にキュリエは見覚えがあった。
短髪の髪が半分白くなっており、顔に大きな傷のある男。そうだ、マッシュアでの戦闘の時、見かけた男であった。
ルゥトを見据えた男の歩みが少しずつ早くなる。そして背中に背負った大剣の柄に手をかける。
ルゥトもまた緊張の面持ちでキュリエたちから離れ、男の方へと歩み始める。
「リー……ル、ルゥト殿?」
心配そうにキュリエが声をかけるが、ルゥトの耳には入っていないようだった。
2人の距離が詰まる。大男は大剣の間合いに踏み込んだ瞬間、鋭い剣閃がルゥトに襲い掛かる。それに対応するかのように腰の剣を抜き、大男の剣戟を逸らすようにぶつける。
ガキィィィィィィィン!!
二人の剣がぶつかり合い火花を散らし、大男の強烈な一撃がルゥトから逸れるように地面に突き刺さる。大剣の軌道を変えた衝撃で弾かれ、ルゥトはぐらりと態勢を崩す。
二人は静かに対峙する。
「なぜここにいる?……かはどうでもいいや。会いたかったぜ、ルゥト・デュナン」
「ガイ……。君には……」
ルゥトはそう言いかけて何かを噛み締めるように俯き目を逸らす。
ガイ・フレアリザードとルゥト・デュナン。
訓練校で別れて以来の再会であった。




