第5話 親切
ルゥトは大きな荷物を担いで街の大通りを歩いて行く。まずは冒険者ギルド。
冒険者と呼ばれるならず者たちがいる。
街から町を渡り歩き、時には遺跡や洞窟を探検し、時には魔物被害にあった村を救い、時には危険な人の入らぬ近道を商会の護衛で突き進む。軍隊とは別の腕自慢たちの自由業。最近増えているらしかった。
また、この国では冒険者としてある程度の実績を積めば軍への入隊も認められる。それを狙うものも多くこの街の冒険者ギルドは他の国に比べて規模が大きかった。
「なんだ、てめぇ。おれたちにイチャモンつけようってのか!!!」
大通りの真ん中でなにやら問答をしているようだ。迷惑にも人だかりができていた。ルゥトも一応塔巻に騒ぎの中心を覗き見てみる。
「そんなことはねぇよ。ただこのばぁさんに謝れっていってんだ。おめーらのその必要ない長物のせいで、ばぁさん怪我してんだからよ」
やたらデカい男が4人の男相手に揉めているようだった。全員恰好からして冒険者、と言ったところか。ルゥトは男たちを値踏みする。
身体に見合った大剣を背負い屈強な身体の大男が、こめかみ辺りにケガを負った老婆を助け起こしながら、4人のチンピラのような冴えない男たちに臆することなく文句を言っていた。
ルゥトの見立てでは大男の実力はなかなかの物。4対1でも傷すら追わないだろう……。
「ばばぁが勝手にぶつかってきただけだろっ!! 俺らにはかんけーねーんだよっ! へんな因縁つけてやろうってのかっ!! ああ??」
変な髪形の男が持っていた2m越える槍を振るって威嚇する。デカい男はそれを見て少し真顔になり
「やるならやるでかまわないが街中で揉めればお前らが恥かくぞ。素直に謝ってお互い握手とはいかねーのかい?」
そう言いきる前に大男にチンピラの一人から繰り出された槍が鋭く突き出される。
周りが悲鳴を上げて取り囲んでいた輪が倍以上に広がり巻き込まれるのを避ける。
大男は老婆を庇いつつ、突き出された槍を最小限の動きでかわして前へ出る。かわされた槍の男は慌てて槍を引こうとするが
「ちょっまっ……」
待ってと言い切る前に大男の拳で顔面を殴られ、180度クルリと回転して地面に叩きつけられた。周囲から歓声が上がる。
「てめぇ」
「やりやがったな」
「なめるなよっ!!」
他の3人も抜剣して構え、すぐさま大男に襲い掛かる。
大男は意にも介さず一人目は剣を振り上げた状態の所に前蹴りをくらい吹っ飛ばされ、2人目は流れるように横凪に振り回された丸太のような腕で、バックブローを顎に食らい崩れるように気絶する。3人目はそれをみてアタフタしてるところに、のしのしと近づき頭突きをくらわせて気絶させた。
あっという間の出来事で一瞬静まり返った後、周りからは大歓声が上がる。
歓声に手を上げて応えながら大男は4人が伸びてるのを目で確認して、フンっと一息ついた。
そこにコツンと小石が彼の背中の大剣に当たる音がして、大男は素早く視線を後方へ送る。
すると観客に紛れていた小男が、小剣を引き抜き今にも飛びかかろうとしていた。5人目がいたのだった。
観衆の誰かが
「あぶないっ!!」
と叫ぶ。素早く間合いを詰めてきての攻撃だった。この小男が一番の手練れだったのだろう。
突き出された小剣の攻撃を、大男はかろうじてを回避したが完全に躱し切れず少し掠る。だがカウンターにボディブローをお見舞いして、小男は胃の中の物を吐き出しながら盛大に宙を舞った。
「ぉぉ!!」
周りからさらに歓声が上がる。
大男は鋭い目で小男が飛び出した方向に視線を送る。大きな荷物を担いだ男が観衆から離れるのを見つける。
それだけ確認すると大男は気絶している5人の暴漢の懐を漁り巾着や装備品を巻き上げる。装備品はその辺の人に手渡して振る舞い、巾着の半分を最初にケガをした老婆に渡す。老婆は感謝して大男に何度も頭を下げる、
「ばーちゃんは被害者だ気にすんなよ」
そう大男はそう笑って老婆に手を振り、観衆にも愛想よく手を振ってその場を離れていく。
先ほどの大荷物を背負った男性が去っていた男を追うように、大男は急ぎ足で歩き出した。