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第48話 再会

 快晴の空の下、ルゥト・デュナンは飛龍と共に街道の見渡せる小高い丘陵に立っていた。

街道は南から北へ抜けていて街道の西側にはアウルストリアの王都アクラ=ナディアが小さく見える。

ルゥトは飛龍に餌を与えながら街道の南側に視線を送る。

そこには三騎の騎馬が街道を北上してくるのが遠くに見えていた。

騎馬たちもルゥトの姿を捉えているらしく、ある程度近づくと街道を離れて丘陵の方へと転進してきている。

 白い馬に跨っている光をキラキラと反射する金色の髪を後ろで三つ編みをして束ねている少女。

その後ろには顔に傷のある浅黄色の短髪の男。

そして最後の1人は昔より少し伸びた紺の髪色の小柄な女性。3騎がルゥトの前で馬を止める。

 金髪の少女キュリエは、兜をしたままのルゥトを睨みつけたゆっくりと馬を降りる。

戦場で久々に会った少女が今、目の前に立っていた。あの時は気づかなかったがずいぶんと女性らしくなり少し背も伸びたようだ。なによりアンリエッタによく似てきた。

明かに怒りを露わにした表情でこちらを強く睨みつけ、敵意をむき出しにしていた。

少女は地に降り立つと堂々とした足取りで歩みを進めて、ルゥトに近づいてくる。

そして黒い騎士の正面で立ち止まると腰、に手を当てて胸を張り


「はじめまして、というべきかしら?ルゥト・デュナン中佐」


 少女は怒気をはらんだ声で挑発的な物言いをして第一声を飾った。強くルゥトを睨みつけ怒りを隠そうともしない。

ルゥトはその顔が少し可笑しくて、口元に微笑を称えながら兜を外す。

 急な風でルゥトの少し伸びたぼさぼさの灰色の髪が風になびく。少し大人びた雰囲気に見えたがあの頃の変わらぬ優しい眼差しにキュリエは怒っているのを忘れてつい見入ってしまった。


「戦場で一度お会いしていますよ?キュリエ王女」


 聞きなれた優しい声で発せられた軽い嫌味返しに反射的にカッとなり、キュリエはルゥトを睨みつけ直してツカツカと足早にさらに間合いを詰めて、勢いよく右手を振り上げて一気にルゥトの頬に容赦のない平手打ちをお見舞いする。

バチィィィィン

といい音がしてぶたれたルゥトの頭が勢いよく右向きにぐるりと回る。会心の一撃であった。

 後ろに控えていたバーナルは一生懸命笑いを隠すために顔を伏せ、一緒にいたレノアはどうしていいか分からずおろおろとしていた。

ルゥトはゆっくりと正面を向き直る。頬の赤さが彼女の怒りの大きさと言わんばかりに真っ赤になっていたがルゥトは気にしたふうでもなくキュリエを見据えて優しく彼女に声をかける。


「お元気そうでなによりです。姫様」


そう言って腕を伸ばして彼女の頭に手を置き優しくなでた。

怒った顔でボロボロと涙を流していたキュリエはその手に撫でられた途端に表情が崩れて


「バカ、勝手にいなくなって…心配したのよ。私のこと嫌いになったのかとおもったじゃないっ」


そう小さな声で抗議して顔を伏せてゆっくりとルゥトに近づき、彼の鎧におでこをぶつけて嗚咽を始めた。

そんな彼女をルゥトはそっと包み込むように抱きしめて髪を撫で


「すいません。どうしても内密に国を出る必要があったのです。姫様にはご心配をおかけしました」


ルゥトは優しくそう囁く。

暫くそのまま静かに2人は寄り添っていたが、キュリエが少し離れて涙に濡れた自分の顔をゴシゴシと袖で拭いて力強く顔を上げる。

目は真っ赤だし鼻の頭も赤くなっていたがその表情はいつもの気の強さを取り戻し


「ルゥト・デュナン中佐。これより私を王都まで護衛しなさい。そして女王陛下に謁見してアウルスタリアとこの地に残された帝国軍のための道を切り拓くのです」


力強くそう言い切る。ルゥトを見上げるキュリエの眼差しは信頼に満ちていた。

ルゥトは姿勢を正しキュリエに帝国式の敬礼をして


「はっ、微力ながら王女の望みを叶えるために尽力させていただきます」


そう告げた。

後ろでニヤニヤ笑っていたバーナルが真顔に戻り前に出て敬礼をして


「中佐、ミレリア様より略式昇進の辞令を預かってます。これを受け取った地点で大佐ですよ」


そう言って手に用意していた書簡を手渡す。

ルゥトはそれを受け取り中身を確認する。


「それとこっちが作戦承認の書簡だってさ。「全権を任せる。我々は北上を開始するので頼む」とのことだ」


バーナルは気楽な感じでルゥトにもう一つ書類を渡す。

それも受け取って目を通し


「ミレリア様は了承いただけたのですね。ハギュール将軍にも了承を得ています。これでカードはすべて揃いました。では最後のテーブルに向かいましょう」


そういって作戦書の方はバーナルに渡し、ルゥトはキュリエと向き合いすっと気をつけをして優雅に腰を折り


「では、姫様。王都へお送りいたします」


そう言ってキュリエにとって懐かしい執事としての礼をする。

キュリエはまるで大輪の花のような満面の笑みを称えて、みたこともないくらい嬉しそうに


「ええ、いつもありがとう。これからもよろしくね」


そういって可愛らしく会釈をした。

あの時伝えれなかった言葉をやっと伝えることができた。

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