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第47話 忘れられた街

 ルゥトはワイバーンの荷物から何かの瓶を取り出し、その中に入った粉を少量手に出してそれに火をつける。すると青白い光を放ちだした。

老将軍にそれを見せて


「これをワイバーンにかけて先導します。騎兵はすべて紐で繋ぎ、兵士は前の人の肩を掴んだ状態で逸れぬようにこのまま南東を目指して行軍してください。

道中で前が見えぬほど霧が濃くなります。周りと離れないように密集陣形で進んでください。2,3キロほど歩けば目的地に着くと思います」


 ルゥトに意味不明な説明をされて、ハギュールは少し眉をしかめたが


「ふむ……。あいわかった。戻ってそのように指示をだしてこよう。準備ができたら南東に向かって進めばよいのだな? では案内を頼んだぞ」


 そう言いながら馬首を返し隊へと戻っていった。

ルゥトはワイバーンの翼に粉を振りかけていく。

しばらくすると部隊は南東に向けてゆっくりと進軍を始めた。密集しているので行軍速度は極めて遅い。ある程度の距離を軍が進んだ所で、ルゥトはここまで飛んでくれた相棒のワイバーンの頭を撫でてやり


「もうしばらく付き合ってくださいね」


 そう声をかけて騎乗する。

そしてワイバーンは地を蹴って空へと舞いあがり、南東へ向かう部隊の上をゆっくり飛び越えて前に出たところルゥトはワイバーンの翼に火をつける、

 翼に青い炎が灯り傍から見ると青白い翼が空をゆらゆらと揺らめいてるように見えるであろう。

軍を置いて行かないようにゆっくり飛び、たまに旋回して後方へ戻ったりしながら軍を誘導して移動する。青白い炎翼を羽ばたかせて飛ぶ飛龍を目印に前進する帝国軍。

やがて周りが少しずつ白いモヤがかかり始め気がつけば右も左も真っ白になっていた。

帝国軍の兵士たちは霧で周りが見えない状況に動揺している。

 先頭を行くハギュールも不思議な状況に少し不安を感じていた。これは普通の濃霧ではない。なにか人為的な……そして青白い飛龍の翼が真っ白な視界の中に薄らぼんやりと浮かんでいるのが地獄へ誘う死の案内の光にも見え、老練なハギュールでさえ薄寒いものを感じた。

青白い光を追いかけながら進軍して30分くらい経過しただろうか、次第にあたりの霧が少しずつ晴れてくる。

 そしてうっすらと見渡せるようになった場所には、見たこともない建物が立ち並ぶ街の入り口だった。

兵士たちが動揺と恐怖で騒ぎ始めた。

それに煽られるように馬たちも冷静さを失い興奮し始める。


「静まれぃぃぃ。我ら帝国の兵士がこの程度のことで慌てるで無いっ!!」


 ハギュールの一喝が浮き足立った兵士を一瞬で鎮めた。

兵たちが落ち着いていくのを見ながらハギュールは辺りを見渡す。

目印であった飛竜の淡い光は街の中に入っていった。

ハギュールは大きく息を吸って


「全軍、前進する。恐れることはない!!ゆくぞっ!!」


そう周りをもう一度鼓舞して自ら馬を進めて街の中へと入っていく。

見たことのない建築物で出来た街並みだった。石畳の道に石造りの建物。煉瓦や木材ではない。壁が1枚の石から作られているように継ぎ目はないのだ。屋根は煉瓦よように見えたがドーム状になっており変わった形状をしていた。

変わった建築物に目を奪われ全員が街の風景を見渡しながら前に進むと広い広場のような場所に出た。壊れた屋台やテントが立ち並び朽ち果てた荷台やボロ布の付いた柱などが立っていた。

たぶんこの街の市場だったのであろうと思われる広場だった。


「ここは安全です。すこし散らかっていますがね。ようこそ。『忘れられた魔法都市 ラミアルド』へ」


 ルゥトが白い霧の中から現れてハギュールにそう告げた。


「魔法都市じゃと?ここアウルスタリアにはそんなものがあるのか?しかし……ここは無人のような感じがするが?」


 ハギュールは困惑しながら周りを見渡す。


「……そうですね。ここは廃墟です。人がいなくなり、この場所を覚えている人もいない。そして見つけることも困難な場所です」


 ルゥトはそう言って懐かしそうに街並みを眺める。そのルゥトを不審に思い厳しい目で見るハギュール。


「……お主、本当は何者だ?」


 そう問われてルゥトはまっすぐハギュールを見る。


「その件に関しては陸軍のここまでの経緯を先に聞かせてもらってからでもよろしいですか? まずは野営の準備を」


 そう言われてハギュールは少し悩んだが振り返り、各隊の隊長たちを集め指示を出す。


「今日はこの廃墟で野営を行う。ここに来る際の濃霧で敵を巻いたとの報告を受けたが街の外に見張りを立て、軍の半分は偵察のために小隊に分かれて街を探索。残り半分はここを片付けて野営の準備だ。かかれっ!!」


 士官たちはその場で素早く打ち合わせをして軍を分け野営の準備に入る。

ハギュールは馬を兵に預けてルゥトを伴って街を散策しながら話を始めた。


「4日前、わしらがアウルスタリアの王都を目指して進軍を始めたわけじゃが、本日、野営地を引き払う準備をしている最中に攻撃を受けた。旗はガターヌ共和国のものであった。ワシらは混乱したがすぐに応戦し、軍を纏めてガターヌの軍と対峙した。

我が第4師団がガターヌとぶつかり、その間に皇太子率いる本陣第1師団が隊列を整え臨戦態勢に入った。そして後方にカリシュラム辺境伯が率いる第2師団が布陣してガターヌに対処しようとした矢先に」


 そこで一旦言葉を切り、苦虫を潰したような悔しい表情をして


「第2師団が後方より反旗を翻しよった。これにより我らは挟撃の状態になってしまい、混乱する兵をまとめつつ、アウスタリア王都方向へと押しやられるように逃げるしかなかった。

皇太子は自ら陣頭に立ち殿を務められて我らを逃がし、捕縛されたと聞いておる。わしらはそのまま王都を目指さず方向転換をして南へと逃げるしかなかった。そして逃げ続けた先にお主が待ち構えておったということじゃ」


 野営をしてる広場から離れ小さな路地のような所に腰を据え、ハギュールはここまでのいきさつを語り終える。そしてギラリとした目でルゥトを見ると


「……さて、お前さんはなぜ単独でここまで来た?どうやらある程度の情報を持っとったようだが?」


 そう発された言葉は不審そうにトーンが落ちる。少し殺気を帯びているのはどうやら信用が揺らいでいるからのようだった。ルゥトはその目を正面から見据え


「私はマッケル陥落の件以降、ガターヌの動向が気になって少し探りを入れていたのです。そこで少し不穏な情報を得ていました。ガターヌが第3皇子との間に密約があるのでは?という情報でした。密約の内容まではわからなかったので今回の動きを感知できていなかったのですが……」


 第3皇子と言われてハギュールは嫌な名前を聞いたと言いたげに厳しい顔をして顎を撫でる。


「ふぅむ。あのバカ狸か……。才覚はあるが少々人間性に難ありだとは思っておったがよからぬ行動に移した、ということか……」


 ルゥトはこくりと頷き、話を続ける。


「その件で私はバーナルと二人でいろいろと調べていたのですが、どうやら後手に回ってしまったようです。本日、南のマッシュア平原に駐屯している第2、第6艦隊も補給と後詰に到着した第4艦隊により襲撃されたと報告を受けました」


 その言葉にハギュールが驚く


「なに!!今日じゃと!!わしらと同時期ということか!??というか貴様はなぜそのような情報を?」


 さすがにここまでくるとハギュールも鬼の形相に変わって立ち上がり剣に手をかける。あまりに不信すぎるのだ。そんな情報の伝達はふつう3.4日はかかる。

それを即日などと異常すぎる話であった。それを見てルゥトは両手を広げて降参のポーズを取る。


「情報のやり取り方法は今は語れません。ですが情報は事実であります」


 ルゥトの真剣な眼差しを見てハギュールはそこに嘘がないことを感じ取った。短い間だったが共に戦場を駆けた者として信用に値した。

ハギュールは深呼吸をして剣の柄から手を離しドカッと座り直す。地面を見て顎を擦りながら


「……そうなると我々が南の艦隊と合流するのは不可能ということか……」


 ハギュールの戦略構想としてはこのまま南下して海軍に助力を乞う方法しかなかったのだった。北は抑えられてしまったため、強行して抜けるには兵力が足りない。だが南もダメとなると……


「南の状況は?現在はどうなっておる?」


 そうルゥトに問う。


「詳細はわかりませんが、第2第、6艦隊の船はほとんど燃やされたようです。辛うじてマシュア平原に布陣していた上陸部隊は無事のようですが……」


 ルゥトは目を伏せてそう伝える。

ハギュールはため息をつき天を仰ぐ。

路地から見える空は白く靄がかっていた。


「……わしらは敵地に取り残された、ということか……、いやその敵地すら現在は我が軍の侵攻に晒されているわけか……」


 そう呟いた。


「そうなります。そこで私はひとつの提案を持ってきたのです。帝国陸軍ハギュール少将閣下」


 先ほどまでと違ったトーンでそう言ったルゥトは急に気をつけをして、胸の前に手を置きゆっくり腰を折るような礼をする。それは軍隊の礼ではなくまるで使用人のような礼であった。

ハギュールの表情が瞬時に険しくなる。


「わたくし、アウスタリア王国のアンリエッタ女王より密命を受けて、帝国に潜入していた工作員、リーエント・ヴァナンデュラルと申します」


リーエントは自らの伏せていた身分を明かした。

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