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第45話 キュリエとミレリア 

 キュリエたちは近くの装備品保管用のテントに潜り込み装備を整える。

薄着にコートのみだったキュリエも兵士用の服と軽鎧、ブーツなどをサイズが合わないがうまく寸直しをして着込む。邪魔な髪をおもむろに切ろうとするキュリエを、レノアが慌てて止めて彼女がお団子にしてくれた。

兜をすっぽりと被り傍目には小柄な一般兵士に見えた。

全員必要な武具を取り、道具を集めて携帯食料なども持つ。外はまだまだ騒がしいがここへ人が来る気配はない。


 準備を終え、外に集合するとカリーナは何人かを集めて今後の指示を出していた。


「出来る限り最短距離を進みたいところですが混乱の中兵を無駄にしたくない。出来る限り兵を纏めながら進みます。全員そのつもりで」


 そう言うと今度は全員を集めて隊列を作る。レノアに5名ほど兵を同行させて先行させる。カリーナはキュリエに近づき


「私から離れないでください。必要なら逃げるように指示はしますから」


 そう言われて彼女に対して頷く。

そして即席の小隊は素早く前進を開始する。

レノアたちが確保したルートを素早く移動し、時には争っている集団を見つけたら声をかけ、敵味方を判別してから加勢して敵を撃退して合流をする。

 負傷者も回収して行軍し、気がつけば混成部隊は中隊規模まで膨れ上がっていた。

そんなカリーナの手腕にキュリエは驚き、そして感動した。これほど的確に状況を判断して周りをまとめる人間をキュリエは見たことがなかった。

進むにつれ散発な乱戦が多かった仮説テントの群れを抜ける。すると大きな戦の音が響き始める。

大軍同士がぶつかっているようだった。


「あれが本陣のようね。さて横槍を入れるにしても……」


 カリーナは現状を確認するため、部隊の状況を確認する。気がつけば500人強くらいの兵が集結していた。烏合の衆とは言えここまで窮地を救いながら集まった兵たちは、やや興奮気味で士気が高い。

 まとめ役になりそうな男たちを集めて指示を出し、隊列をしっかりと組み直す。そしてキュリエに声をかけ


「キュリエ様はレノアたちとここに残られますか?」


 そう聞かれたがキュリエは首を横に振り


「いいえ、このまま共に行かせてください。どちらにせよ突破せねば私にも道はないのだから」


 厳しい表情で答える。

カリーナはその勇ましさが嬉しいのか迷惑なのか分からない曖昧な表情をして頷き


「では、我が身を守ることを最優先にして私から離れないようにしてください」


 カリーナは部隊を伏せて正面の戦況を見定めて突撃のタイミングを図る。

両軍混乱の収まっていない乱戦模様だったが、少し攻め手が押し始めていた。

カリーナがここぞという時を狙って勢いよく立ち上がり


「いまだ!!突撃ぃぃぃ」


 そう叫び剣を行く手に向ける。

500名の即席カリーナ軍はいきなり鬨の声を上げて突撃する。

押していた攻め手側の即背面にあたる部分に一気に突っ込むと敵は驚き、浮き足立つ。

守り側も援軍が来たことにより士気が上がり敵軍を押し返し始める。

それに呼応するかのようにカリーナ軍はうまく側面から後方を脅かすように動き、攻め手の気を逸らす。

敵も指揮系統に不備があるようで、全体の掌握が弱く攻め手に欠いていたのだろう。

不利に見える状況になり兵士たちが浮き足立ち、徐々に崩れ始める。

このままでは不利と悟った攻め手の指揮官が


「て、撤退、撤退だぁ!! 立て直すぞ。下がれぇぇぇ」

 

 そう叫ぶと、崩れるように不安が伝播して攻め手側が押される形で後退を始めた。

守り側の司令官もこれ幸いと強く押し返して距離を取り、兵をまとめて混乱の回復に努め始める。

カリーナたちは引く敵軍の退路を開くように移動して守備側の本陣と合流する。


「よく駆けつけてくれた。助かった。貴官はどこの部隊だ?」


 左翼をまとめていたと思われる士官がカリーナに声をかける。

カリーナは敬礼をして


「第6艦隊所属カリーナ大尉です。この部隊はここに来るまでに兵たちを纏めながら来た混成部隊であります。それと、アウルスタリア王国の姫君、キュリエ王女もお連れしました。ミレリア閣下にお目通りを願えますか?」


 カリーナがそう告げると士官は驚き、


「それはすごい。しばしお待ちを。いまから伝令を出して指示を仰ぎます」


 士官は敬礼を返しすぐに伝令を出す。

カリーナたちはそのまま待機となる。

しばらく待つと兵士が走ってきて


「カリーナ大尉、キュリエ王女と共にこちらへ」


 そう促される。カリーナは即席部隊を先ほどの士官にお願いすると


「キュリエ様、行きましょう」


 そう促す。キュリエは頷きカリーナに続く。

その後ろをレノアがついて行く。

どこも混乱が収まらず指示を仰ぐ伝令が走り回っている。

そしてどう動くのがいいのか分からない兵たちが右往左往しているか固まって指示を待っている。

 キュリエたちはその混乱の中を移動して一つの大きなテントに案内される。

所々火で燃えた後はあるが大事には至らなかったらしくだがその周りの警護は厳重だった。

兵士にテントの中に通される。

 キュリエは入る前に兜を取りカリーナたちと共にテントに入った。

テントの中も騒然として数名の士官と共に現状を把握しようと次から次へと入ってくる情報を整理しては指示を出している。

その中央に美しい銀色の髪をした女性がテント内の騒音に負けない大きさの声を張り上げて指示を出している。


「とにかく物資の確保を最優先にしなさい。確保した物資は北側のここへ集積、第2、第6艦隊の状況をすぐに確認して。下がった第4艦隊に斥候を送って状況確認。急いで」


 大まかな方針を支持して顔を上げた女性はカリーナたちに気づき


「少し任せます」


 そうテーブルにいた士官たちに声かけてカリーナたちの元にやってきて優しく微笑み


「キュリエ王女ですね。どうぞ、奥へ」


 そう声をかけてテントの奥へ移動する。

颯爽とした雰囲気は将の器がにじみ出ていて、動く所作は美しく目を奪われて惚けてしまうほどだった。一瞬キュリエは自分が今少しみすぼらしい恰好をしているのが恥ずかしくなった。


「キュリエ様」


 カリーナに声をかけられてハッと現実に戻ったキュリエはすぐに女性を追う。

仕切りと布で区切られた奥には広い簡易の執務室のようになっていた。

そこに


 黒い鎧をきた騎士が立っていた。


 キュリエは一瞬固まる。その後ろにいたカリーナとレノアも少し驚いたようだった。

銀髪の女性は机の前に立つと


「本来ならもう少し早くお逢いしにいくつもりだったのですが、はじめまして。アウルスタリア王国のキュリエ王女。私はブッシュデイン帝国第一皇女、ミレリア・ファルル・ブッシュデインと申します」



 そう言って女性らしい優雅なお辞儀をする。服装は軍服であったがとても可憐で美しかった。

キュリエはスッと背筋を伸ばしてミレリアを見据え気品と気高さをもった表情で


「初めまして、ミレリア様。わたくしがアウルスタリア王国、第一王女 キュリエ・ファルン・アウルスタリアです」


 そう言うとスッとお辞儀をする。

泥と煤にまみれ一般兵士が着ける軽装装備であったが、その立ち振る舞いで高貴な姫であることは誰の目にも明らかであった。

ミレリアは少し表情を崩したがすぐに引き締まった顔をして


「本来なら……あまり好意的な関係ではないのですが……今、我が軍はどうも未曽有の危機にあるようです。そして我々の窮地を脱するためにあなたを利用することになりそうです」


 そう厳しい表情でミレリアは告げる。


「中佐、状況の説明を」


 そうミレリアが黒鎧の騎士に説明を促す。

騎士はこくりと頷き一呼吸大きく息を吸ってから喋り始める。


「現在、我が国は国家転覆を狙う者達によって分断され始めています」


 その声を聞いたときキュリエ以外の女性たちが全員訝し気な顔をした。男は気にも止めずに続ける。


「現在、北よりアウルスタリア王国へ進軍した陸軍6万のうち2万が反旗を翻し、ガターヌ共和国に残った退路確保の2万、そしてガターヌ共和国軍2万の計6万の軍勢により陸軍4万を後方より襲撃、アウルスタリア国、バターナ領にて壊滅の危機にあります」


 そこまで話を進めた時、急にカリーナが怒気を含んで騎士に声を掛ける。


「貴様、何者だ?!ルゥト・デュナンではないなっ!!!」


 素早く剣を抜き男の首に剣先を突き付ける。

それと同時にレノアがミレリアとキュリエの前に立つ。


るぅとでゅなん?


キュリエは呆然と驚き、黒い騎士を見る。


 その名をキュリエはよく知っていた。

父が作ってくれた絵本に出てくるまほうを使う狼の名前。

その名を知るのは父とキュリエとそして……


黒い騎士の口元がにやりと歪んだ。

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