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第37話 黒鎧の騎士

黒い鎧の男はテーブルに広げられた即席の地図に視線を落とす。

ここに布陣した帝国軍が斥候を放ち、即座に作らせた簡易地図であった。

その地図上に現在帝国軍が布陣している場所に駒が置かれている。

南の海沿い、開けた平野部に陣取っている。この辺には川が少し遠く農作地としては開墾されていなかった。

黒い騎士は地図の北北東あたりの端に駒を置き


「すでに情報は入っていると思いますが現在アウルスタリア王国軍はこのあたりを行軍中。明日中にはこの平野に入り布陣するでしょう」


そして駒を動かし王国軍が布陣するであろう辺りに駒を進める。


「兵力は歩兵14,000、騎兵6,000といったところです。騎兵は馬、2,000、リーガドゥが4,000。歩兵も重装歩兵が3,000、残りは軽歩兵と弓兵11,000といったところです」


黒い騎士は兵の詳細を書き記していく。


「ざっと遠目にみても練度は相当低いと思われます。行軍速度がそれを物語っている。兵站はまともなようでした。補給部隊の数も適性。よい後方司令官がいるようです」


そう言うと銀色の髪の指揮官、ミレリアがほんのり笑い


「まぁ、天馬に守られた国。自分たちは大丈夫という甘えは軍の弱さを生みますからね」


そう言うと周りの士官たちも冷笑を浮かべる。


「それで?天馬は目撃できたのですか?」


ミレリアは黒ずくめの鎧をきた男に問う。

男は首を横に振り


「残念ながら天馬はいなかったようです。ですがたぶん王女らしき姿は目撃しました。天馬は別に来る。と見る方がよいのでしょう」


そう語る男の声の抑揚に少し違和感を感じるミレリア。だが気にも止めず質問を続ける。


「では天馬が合流する前に天馬の方を攻撃をすることは可能だと思いますか?」


その問いにも黒い騎士首を横に振り


「現実的ではないでしょう。どの方向からくるか分からない飛行対象を待ち伏せするのは愚行だと小官は考えます」


たしかにその通りだとミレリアは小さく頷く。


「そこで中佐は例の作戦が最適と見たわけですね」


ミレリアは黒い兜を外さない騎士にやさしく微笑む。

黒い騎士は頷き


「あの作戦なら確実に王国軍を敗走に追いやれると私は確信しておりますれば」


自信たっぷりに答える。

周りの士官はあまり面白くなさそうな顔をしている。

「新参者が・・・」小さくそう聞こえたが黒い騎士は気にした様子はない。

ミレリアも特になにも言わず


「例の作戦は私が採用として、いま海軍の作戦司令部の方からの認可待ちとなっています。

そちらからの許可が下り次第、中佐には作戦行動に移ってもらいます。部下には…そうですね。私の親衛隊から連れてお行きなさい。私は今回は空に上がるつもりはありませんので。10名くらいでよろしいかしら?」


そう問われて騎士は頷き礼をするように頭を下げ


「ありがとうございます。では10名お借りいたします。人選はこちらで選んでも?」


ミレリアはこくりと頷き


「かまいません。全員に通達しておきます。ギョクリン、そのように手配を」


隣に立つ男性、と思ったがどうやら女性のようだった。顔に似合わず可愛らしい声で


「はっ、では通達してまいります」


そう言うと敬礼をしてテントを出ていく。

その時、黒い騎士の横を通りすぎる際に少し足を緩めキッと睨むとすれ違ってからは足早に出て行った。

ミレリアはそんな部下の態度を見て目を閉じて小さくため息をつく。だが気を取り直したのか顔を上げた時には司令官の顔となり立ち上がる。


「近日中にアウルスタリア王国軍とぶつかることになるでしょう。我が飛竜軍の仕事はかく乱と遊撃が主な任務となります。全員心してかかるように。準備を怠らぬようお願いしときます。では解散」


そう大きな声で宣言すると敬礼をする。

その場にいた全員が姿勢を正しミレリアに敬礼を返す。

彼女は颯爽とマントを翻しテントの出口に歩き出す。

全員敬礼のまま彼女を見送る。

黒い騎士の前を通りすぎるとき視線を送り意味深に笑うと彼女は退出していった。


黒い鎧の騎士もミレリアが去るとすぐにテントを後にする。どちらにせよ、あそこにいたところでいいことはない。


騎士は人のいない少し離れた静かな物資を置いてある場所の樽の上に腰を下ろす。

兜は取らない。

少し俯き動かなくなる。

夕方に差し掛かっていた日が陰り始め少しずつ夜が舞い降り始める。

ぽつぽつと陣内には篝火がたち始め人口の明かりが夜に飲み込まれまいと自己主張を始める。

そんな時刻


動かなくなった騎士に近づく1人の影


「中佐殿」


堅い声は少し高く、影が女性であることが声で分かった。

黒鎧の男は動かない。

樽に座り俯いた姿勢のままだった。

女性はそんな騎士の前に立ち敬礼をすると


「海軍作戦本部より参りました。カリーナ・ヴァノフ大尉であります」

切れ長の鋭い眼は少し懐かしさを含み騎士を見ている、お団子だった茶色に近い狐色の髪は日に焼け赤毛のように見えるその髪を横に束ねて女性らしくなっていた。顔もスッと細くなり日に焼けて小麦肌の健康美人だった。

黒い騎士はゆっくり立ち上がり敬礼を返す。


「本日、飛竜軍より提出のあった作戦の方ですが、この作戦を海軍作戦部は認可、作戦遂行を中佐に委ねるという作戦命令書をお持ちしました」


そういうとカリーナは持っていた丸められた作戦指令書を騎士に渡す。

騎士はそれを受け取り中を確認、もう一度丸めるとカリーナをみて


「指令書は受諾した。これより任務を遂行する。大尉はご苦労だった。下がっていい」


それだけ言うと敬礼をして踵を返し背を向ける。


しかし、しばらくカリーナはその場を動かなかった。

そして何かを言おうと顔を上げ口を開こうとするが思いとどまるように視線を下げ口つぐむ。しばらく何度かそうやっていたが

ついに意を決して声を発する。

「あ…あのっ…、マッケルでのこと…聞いたの…。サラが…死んだって。バーナルも…。そのことを詳しく聞きたくて…。何度か連絡取ろうとしたんだけど連絡つかなくて…。ねぇ、ルゥト、詳しく教えてくれない?なにがあったの?」


そう切なげに問いただす。

会ってすぐ聞きたかったが聞ける雰囲気ではなかった。

久々にあった戦友が纏う空気はあの頃のものではなかった。

すぐに察した。何かが彼を変えたのだと。

そしてそれは自分が聞きたかったことに直結しているのだ、と。

だから聞けなかった。だがどうしても聞かずには帰れなかった。

なんとか声に出し、黒い騎士の後姿を見る。

騎士は微動だにしない。

そしてなにも答えない。

しばらく沈黙が続き


「大尉、私は下がれと言ったが?」


そう男は振り向きもせず冷たく言い放つ。

それを聞き、カリーナは一瞬口を開き眉をしかめたが口を結び、兵士の顔に戻ると


「失礼しました。中佐」


そう言って敬礼をしてから踵を返し歩き去った。


カリーナが去って暫く騎士は微動だにせず立っていたが

また樽の上に座り

手甲と皮手袋を外す。

そして手を伸ばし、手首に付いた小さな星の4つ並んだアクセサリのついたブレスレットを見る。

それに触れて男はしばらくそうして座っていた。

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