第36話 帝国歴69年 7月
帝国歴68年 6月 リシア峡谷にて兵站を脅かす野盗の大規模討伐作戦が行われる。
アウスタリア王国歴 256年8月 王女キュリエ、第3皇子に求婚される。
帝国歴68年 8月 ヴァッシュ王国、帝国領との国境線、ファノス城、急襲。陥落する。
同年 7月 帝国陸軍第3師団、ファノス城奪回作戦開始。
同年 10月 帝国陸軍第8師団後詰として参戦、ファノス城奪還。
同年 12月 偵察及び極秘任務に当たっていた帝国飛竜軍総司令 ミレリア・ファルル・ブッシュデイン、作戦行動中に敵地ヴァッシュ王国領ミョーネ大森林上空で消息不明。
同年 12月、第8師団より特別編成の特殊捜索部隊編成。
帝国歴69年 1月、第1皇女 ミレリアを保護、無事帰還
同年 1月 帝国陸軍 第1、第6、第8師団、大規模な侵攻作戦を開始。
同年 2月 第1師団、ヴァッシュ王国領 ミョーネ砦陥落
同年 3月 第2師団、ヴァッシュ王国にて敵の兵站基地を壊滅
同年 3月 第8師団15,000、クラタルカ平原にてヴァッシュ王国軍20,000と激突。3日間の激闘の末ヴァッシュ王国軍を撃破。
同年 3月 第2、第8師団 ヴァッシュ王国首都マッケルを包囲。降伏勧告をするも拒否。
同年 4月 第1、第6師団、包囲に参戦。マッケル東側城壁にて謎の変死事件発生。敵味方民間人1万人以上の変死者が出る。
同時刻 マッケル東城壁門、第8師団により突破。
同日 マッケル陥落。ヴァッシュ王国、降伏。
同年 4月 ヴァッシュ王国、帝国の属国となる。
同年 4月 海上封鎖されていたルルク国、ブッシュデインに降伏。属国となる。
同年 5月 帝国、アウスタリア王国に通商条約を申し込む。事実上属国勧告の内容。女王アンリエッタ。これを拒否。
同年 6月 ガターヌ共和国国境に帝国陸軍8万が終結。
同年 6月 帝国海軍、アウルスタリア王国南部マッシュア海岸より上陸。上陸部隊2万。マッシュア平原に布陣。帝国飛竜軍参戦
同年 6月、王女キュリエ、迎撃部隊を率い王都を進発。その数2万。
大空を羽ばたき巨大な影が降りてくる。
帝国の飛竜部隊の騎乗用のワイバーン。全長3m強の2足の竜種のモンスター。飛行距離は短いものの速度は速い。気性が荒いため乗りこなすには竜種との相性と相当な熟練度が必要で騎乗訓練に半年以上を要する。
現在、帝国の飛竜は142体。騎士は100人に満たない。
そのうちの一人がいまアウルスタリア王国領のマッシュア平原に布陣した帝国軍の陣地に降りてくる。
ワイバーンはゆっくり減速して地面に着地する。すぐに世話係が近づきワイバーンを繋ぎ止めるための杭に結び付ける。
乗っていたのは全身黒い鎧で身を包んだ騎士だった。
騎士はワイバーンから降りるとワイバーンの頭を撫でて労をねぎらう。
「遠路おつかれさまです。騎士さま」
世話係の男は乗ってきた騎士に声を掛ける。
騎士はワイバーンの手綱を世話係に渡し
「ビュークの世話を頼む」
そう言って世話係の肩を叩く。
世話係は感激して
「はいっ!!まかせてください!!」
そう言って力いっぱいお辞儀をする。
騎士はその場を後にして近くの大きく立派なテントに近づいて行き入り口に立つ番兵に敬礼をする。
テントを守る番兵はテントの入り口を開けて敬礼して
「遠路お疲れ様です」
と声を掛ける。
騎士は颯爽とテントの中に入る。
テントの中には何人かの士官とその中央に綺麗な長い銀髪の女性が作戦相談中なのか集まって話合っていた。
騎士は兜も取らずにそのまま話している士官たちに近づき敬礼をする。
「ただいま、任地に付きました」
そう挨拶をすると全員が騎士に視線を送り敬礼を返す。
中央にいたここにいる者たちを束ねているであろう女性が立ち上がり
「ご苦労。中佐、ワイバーンでの長距離移動は初だったのだろう?どうでしたか?」
凛と通る優しい声で女性は騎士に話しかける。
「はっ、なかなか一苦労ではありましたが、かかった時間の短さから言えば苦労と呼ぶほどでもありませんでした」
どこか優し気な声だが厳しい喋り方をする騎士だった。
銀色の髪の女性は少し笑い
「そうですか。すでに敵軍の様子も見てきたのでしょう?詳細を聞きたいと思います」
女性はそう言って黒い鎧の騎士に会話の中心に入ることを進める。
騎士はそのまま促されるように他の士官の中に入って話を始めた。