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第32話 特別任務〈遭遇〉

暗い影から無造作に出てきた男は

寝間着のような薄着だった。

いま起きてきました。とでも言いたげにぼさぼさに伸ばし放題の赤い髪は右に左に跳ねまくり、だらしない表情だが目だけが異常なほどギラついていた。

ゆっくりと肩を回しながら出てきた男は、そのままぶっ飛んできた野盗の頭に近づきおもむろに片手で持ちあげる。


「おい、聞いてんのか?お仕事しろっていってんだよ。お仕事。言われた業務はきちんとこなしましょうって教わってねーのか?ああん?」


軽々と持ち上げているがどう見ても持ち上げられている男は装備合わせて100㎏以上はある。

それをやすやすと持ち上げてゆさゆさと揺すっている様は気に入らないぬいぐるみに八つ当たりしている子供のようだった。


その様子を見ていたギーヴはいつでも飛びかかれる態勢を維持して固まっていた。

背中は嫌な汗でびっしょり濡れている。こんな恐怖は初めて・・・いや、近いものを最近感じた気がする。どこだったか…

そんな思考の海に逃れそうになる意識を繋ぎ止めるため唇を噛み目の前の男を睨む。


赤毛の男は持ち上げた男がこと切れてることに気づき舌打ちをする。


「くそっ!!仕事は完遂してから死ねよっ!!」


飽きたおもちゃを投げ捨てるように野盗の頭の死体を放り捨てる。

その後、船の荷物積み場の血と肉が散乱するのを見てその残状に小首を傾げ


「あ?なんで誰も仕事してねーんだ?休憩か?」


赤毛の男は辺り一帯の血の匂いを深呼吸をするように吸い込み


「…なんだ、みんな死んでるのか。困ったな」


ぼそりとつぶやいたあとボリボリと頭を掻いてギーヴ達の方に振り返る。


「ということは。だ。この事態は君たちが起こしてくれた事態ということで間違いないのかなぁ?」


赤毛の男は瞑っていた目をゆっくりと開く。

その眼には殺意があふれている。


ギーヴはゾクリ、と背中に氷をゆっくり滑らせたような感覚がゆっくり支配される。

やらなきゃ、やられる。それだけは分かっている。だが…身体が動かなかった。


赤毛の男はゆっくりとギーヴたちに向かって戻ってくる。

「仕事というのはねぇ、きちんとこなすことで信用を得る。信用というのは大事なんだ。一度崩れてしまうとまた積み上げるには倍の労力が必要になるんだよ」


気だるげに喋りながら男はギーヴの前に立つ。

すでにヘビに睨まれたカエルだった。

男はギーヴの顔を覗き込みしっかりと目を見る。

ガタガタと震えながら攻撃しようという気持ちで焦ってはいるが身体が付いてこない。ギーヴは動くことができないでいた。


「子供に言ってもわからんか」


赤毛の男は悲しそうにそう言って目を瞑った。

ここだっ!!

相手の視界が暗闇になったのを確信したギーヴは意を決し動かない身体を無理やりに動かし、それでも彼の持てる最速の速度で相手の首を剣で刈り取りに行った。


ドゴッ!!


という音が響きギーヴの身体はものすごい速度で左へ吹っ飛ばされた。そのまま飛び出していた岩にぶつかりバウンドして地面に落ちる。そしてピクリとも動かなくなる。

動かなくなったギーヴを見て男は


「大人の話をちゃんと聞かないガキは嫌われるぞ」


そう呟き倒れたギーヴへの興味を失ったようにゆっくりとルゥトに視線を移す。

暫くルゥトを見ていた男は眉をしかめ


「んん??お前…どっかでみたことあるな??」


そう言うともう一度、目を凝らしてルゥトを見る。

ルゥトは相手の目をまともに見まいと視線を逸らす。

それはあたかも見知った人間を避けるようなしぐさであった。


暫くルゥトを見ていた男はの眉がピクリと動き

目を見開き今にも歯が折れそうなほどの歯ぎしりを伴い怒りをあらわにする。


「てめぇ…その気配、姿はかわっちゃあいるが忘れもしねぇ…だが、なんで生きている???」


赤毛の男は怒気と共に殺意をむき出しにした。

先ほどまでの余裕の態度とは違い腰を引き姿勢を低くしていつでも襲い掛かれるように、いつ攻撃されてもいいように身構えていた。


ルゥトはため息を大きくつくと視線を外すのを諦め、身体を起こして肩の力を抜く。

そして男と対峙する。


「君がここに居るとは思いませんでした。どうしてこんなところに?」


ルゥトが久しぶりの知己に声を掛ける気軽さで話しかけると


「てめぇっ…ふざけてんのか?とりあえずも一遍死ねよっ!!」


一瞬でルゥトの前に男は現れて開いた手の指先に力を入れて爪で引き裂くように振り下ろす。ルゥトはその手が落ち切る前に懐に入り込み落ちてくる腕の手首をめがけて掌底を押し上げて相殺を図る。


だが、相殺することができず掌底は押し負けて男の腕の部分がルゥトの頭に命中する。


ドッゴッ!!


と、ものすごい音がしてルゥトの頭にヒットし、彼は勢いで地面に叩きつけられて倒れた。


「ちっ!!うまく避けやがって!!だがこれで終わりだっ!!」


男がもう一度腕を振り上げて倒れたルゥトめがけて爪で引き裂くようなモーションに入る。


だが次の瞬間、男の腕が大きな音を立てて吹き飛んだ。

まるで腕の内部から炸裂したかのように血煙を上げて男の腕が吹き飛ぶ。


「ぐああああああああああああ、くそぉがぁぁぁぁッ!」


男が吹き飛んだ腕の痛みをこらえるように抑えようとしたが吹き飛んだ部分がぐつぐつと煮えたぎるように沸騰し煙を上げていたため触るに触れず根元を抑えていた。


男は痛みをこらえながら倒れたルゥトに視線を向ける。

そこにはまるで幽鬼のようにゆらゆらと立ち上がったルゥトがふらついていた。

赤毛の男が立ち上がったルゥトを睨む。

次の瞬間、ゆらゆらと頭を振っていたルゥトの眼が開かれ眩しい閃光が辺りを覆う。


閃光が収まった時にはルゥトの眼の前の男の身体は巨大な3本爪に引き裂かれたように身体をへたくそな三枚おろしのように分割されていた。

辛うじて頭を振って分割されていなかったおかげでまだ息はあるようだった。

赤毛の男は驚愕の目でルゥトを見ると


「く・・・くそ・・・こんなところでお前に・・・・逢うとは

・・ゴボァッ・・・リュウ・・ト」


男の目には光がなくなり崩れるように倒れる。

男の背後の岸壁には巨大きな三本爪の引き裂いたような痕跡がのこされていた。


ゆらゆらと漂っていたルゥトの身体も糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

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