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第30話 特別任務〈追跡〉


逃げる野盗の(かしら)は周到に遠回りをしつつ視界を遮りやすい森の中に入り尾行を巻くのを考慮した巧みな動きで後退していく。

だがその動きをみて予測、先回りをするバーナルの尾行能力にルゥトは感心をした。

実に見事な追跡技であった。

道なき道を相手を見失うことなく進むルートを素早く見つける。今回はリーガルゥに乗っている。リーガルゥが悪路に強いとはいえ草木をかき分けながら進むのはなかなか骨が折れるのだがバーナルは糸もたやすく走りやすいルートを見つけて進んでいく。

ルゥト一人ではたぶん巻かれていただろう。


「バーナルはなぜこんな技能を習得したのですか?」


険しい獣道をかき分けながらルゥトが問うと


「ん?ああ、昔好きだった女の子がさ俺のことを巻くのが上手くってね。いつも頑張って追いかけてたら身に付いた、かな?」


本気とも冗談とも取れる内容をサラリと話つつその眼は見え隠れする野盗の(かしら)を見落とさない。

2人は巧みにリーガドゥを操り追跡する。

前を先行するバーナルが急に足を止め手信号で停止の合図を送る。

ルゥトはリーガドゥの手綱を引き前進を止める。


バーナルが一旦リーガドゥから降りて茂みに潜み、(かしら)が進んだ方向を確認し、手招きをする。

ルゥトも降りてバーナルの元へ行く。

そこから勾配が下りとなり川に出ていた。

そして川の向こうの切れ目をバーナルが指さす。

どうやらその切れ目に入っていったようだった。


「あそこが拠点のようだな。狭い入り口のようだが・・・どうする?予定通り、別動隊を呼びに行くか?」


バーナルは望遠鏡を取り出し切れ目の周辺を確認する。

ルゥトも周りに視線を走らせ警戒する。すでに敵の領域内のようだ。


「あそこが敵の隠れ家?じゃあさっさと突っ込んじゃおうよ?」


急にルゥトの背後から少年の声が聞こえる。

ルゥトは一瞬で腰の小剣を抜き背後に湧いて出たような人物を最速で斬りつけにかかる。

だが剣は背後にいた人物には届かず別の剣に阻まれる。


そこにいたのはギーヴ・フォン・カリシュラムだった。


ルゥトの剣はギーヴの後ろにいたミーニャの剣により止められていた。ものすごい形相でルゥトを睨むミーニャ。今にも喉笛を搔っ切りたそうな顔だった。


「・・・なぜあなたたちがここに?別動隊を率いてきてるのではないのですか?」


ルゥトは少し冷静になり問い詰める。

少年は小首をかしげて


「んー?なんとなくこっちかなーと思って来てみたら2人が見えてさ。別動隊?ああ、動くの遅いから置いてきたよ。ぼくら2人で動いた方が早いもんね。ミーニャ?」


少年はなにも考えてない風な顔で無邪気にミーニャを振り返る。


「はい、ギーヴ様お一人で動けば敵の本拠地なんてすぐ見つかりますぅ。さすがギーヴ様。歩くだけでもう痺れちゃいますぅぅぅ」


ルゥトの剣を抑えている腕はびくともしないが顔を赤らめて腰をくねくねさせるミーニャ。

あからさまなため息をつくルゥト。

なにが起こっているのかいまだにわかっていないバーナルが目を見開きぱちくりしている。

ルゥトが剣を引き鞘に戻して仕切り直す。


「・・・・とりあえず敵の拠点らしい場所には辿り着きました。川沿いのどこかというカリーナの読みが正解のようですし、予定通りのルートを通っているのなら別動隊も近くまで来ているのでしょう?別動隊の到着を待って奇襲をかけましょう」


ルゥトは当初の作戦通り進めること提案すると

ギーヴが難色を示す。


「うーーん。せっかく早く着いたのに待つの?それじゃあ急いで来た意味ないじゃない。せっかくだしはいっちゃおうよ?」


ギーヴは適当なことを言いながら勾配を下っていこうとする。

それを見て少し怒気を荒げてバーナルが講義する。


「いやいや、勝手に来ておいてそんな我儘はやめてくれ。ガキじゃねーんだから。とりあえず別動隊で包囲してから突っ込まねーと逃げられたらことだぞ?」


ギーヴはそういうバーナルに初めて気がついたという顔をして少し考える仕草をする


「うーん。たしかに僕はあんまり強くないからなー。戦闘になったらおにーさんたちの足を引っ張るのも悪いし。いいや、一人で様子見てくるよ。もし僕になにかあってもあとはおにーさんたちがなんとかしてくれるでしょ?」


意味不明な言葉を並べ立られて、はじめてバーナルが困惑し怒りをあらわにする。


「なにいってんだ?お前?強くないならおとなしくしとけよ。というかお前、相当な実力だと聞いてるぞ?馬鹿なのか?」


そう言ったバーナルはものすごい殺気に襲われ後方に上体をスウェイする。

先ほどまでバーナルの首があった所にミーニャの剣閃が通り過ぎる。

間一髪で躱したバーナルは絶句し眼鏡美女を見る。

ミーニャから発せられる殺気は尋常ではなかった。あたりの木々がざわめく。

そんなの意にも止めず


「うん、じゃあ僕が様子見てくるね。すぐ戻るからー。ミーニャはそこで僕の帰りを待ってて。君を危険な目に合わせたくないんだっ!!やくそくだよっ!!」


それだけ言うと少年は疾風のように駆けて行った。

ルゥトは頭を抱えて理解を越えた存在を見て思考が停止してしまっているバーナルに声を掛ける。


「・・・こうなった以上、私も彼を追って中の状況だけでも確認してきます。バーナルは別動隊をここへ先導してください」


そう言ってバーナルの肩を叩く。


「な、な、な、なんなんだ!!あいつは!!!」


怒りで声が大きくなりそうなのを自制心で留めたが恐ろしいほど理解できない存在に怒りをあらわにするバーナル。


「ああいう意味不明な人物なんです。我々の知己の範囲外の生き物と見るべきでしょう。でも実力は本物です。上手くいけば別動隊が着く前にあらかた片付けれるかもしれません。でも敵を逃がしたくないので別動隊の誘導を急いでお願いします」


ルゥトはそう言うとリーガドゥに積んである自分の装備を取りに行く。

呆然と主の命で動けないミーニャが困惑した状態でルゥトを見て


「わ、私はどうすればいいのでしょう?ギーヴさまはわたしにここにいろとおっしゃいました。でも・・・」


半泣きで付いて行きたいのについてくるなと言われたことを守るべきかどうかで悩んでいるようだった。

ルゥトは大きくため息をつくと


「・・・あなたはここにいてください。できる限りは私が彼をサポートします。危険があればすぐ連れ戻しますから。別動隊が来たら一緒に突入してください。それなら彼の命令を守ったことになるでしょう?」


ルゥトはそれだけ言うとサッと川へ向かって移動する。先に駆けていった少年を追いかけて。

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