第28話 特別任務〈作戦会議〉
会議室に指定された部屋には12名の男女が集まっていた。
今回の作戦総指揮を担当する、口髭がチャームポイントのベルナンド・フォン・リパプール中尉、
その副官でノッポで面長の眠たそうな顔をしたビートン軍曹、
今回の作戦立案担当、陰気で不吉な見た目をしたバンビッド少尉
輸送部隊指揮官リンゼ・リッチ中尉、おとなしい温和な中年男性。
そして士官候補生のサポート役として任命された
いつもはだらしないのに戦時になると人格が変わるグラマラス講師、バリック中尉。
その濃い顔のわりに静かに淡々と講義を行うゴリアード少尉。
士官候補生A班から
ルゥト・デュラン
カリーナ・ヴァノフ
シグナル・フォートマイト
士官候補生B班は
ギーヴ・フォン・カリシュラム
ミーニャ・ミートリア
リッキ・マチャフという変な髪形をした身長の低い男。
以上が会議室の円卓に着席していた。
「ふむ。これで全員かな?では作戦会議を始める。今回の作戦をバンビッド少尉、説明したまえ」
ベルナンドがふんぞり返って指名する。
「はっ!!では説明します。今回の作戦は2週間前より帝都より北北西60キロのリシア峡谷で輸送隊が野盗に襲われること2回。これが甚大な被害であり1回目は輸送部隊の8割、2度目は6割強の物資を強奪されました。」
一息入れて周りを見渡す。
「一度目は護衛数は少なく被害が多く出たため2度目は正規軍でなく冒険者に依頼。20名の護衛を雇ったものの全滅。3割の輸送を逃がしたのがやっと、という結果でありました。
1回目、2回目の襲撃による情報だと相手はリーガドゥを駆り渓谷の高低差の激しい狭い場所を選び襲撃、規模はおおよそ50名前後、弓による掃射のあとリーガドゥに乗った部隊が近接戦闘により輸送車の操者、護衛を殺し物資を奪うという戦法です」
ここまでの経緯を話し陰気な士官は一旦喉を潤す。そして少し自慢げに語り始める。
「これを踏まえて我が討伐隊は今回戦闘に長けた候補生70名がで当たります。作戦はまず輸送部隊の護衛として35名を配置。
そして残り35名は別動隊として渓谷を迂回して野盗の襲撃を逆に挟撃する、という作戦を立案いたします」
バンビッドは陰気な顔で口元のみを歪めて自分の作戦に自信ありといった感じで着席をする。
今の作戦を聞いて頭痛がするとでもいいたげに顔をしかめ頭を抱えるカリーナ。
その仕草を見てルゥトは苦笑する。
ルゥトはギーヴを見る。
特に思うところはないと言った感じであくびをかみ殺している。その向こうで話を聞いてない顔でうっとりとギーヴに見惚れるミーニャ。
ギーヴは戦略などにはあまり興味がないようだ。
ベルナンドが立ち上がり
「私は今の作戦案で今回の野盗討伐を行おうと思っている。今の案に対して質問や疑問点があれば気遣いなく言ってもらいたい」
そう周りを見渡す。
さて、どうしたものか。ルゥトは考える。
カリーナの仕草通りこの作戦は破綻、いや成功の見込みが薄い。だが完全に否定してもバンビッドの不評を買うだろう。
この案を活かしつつ意見する方法はないものか・・・。
そう試案しているとルゥトを見ているバリック中尉と目が合う。ルゥトは怪訝に眉を顰めるとバリックはニンマリと笑い
「ルゥト・デュラン。なにか意見があるのではなくて?」
そう促す。ルゥトは一瞬渋い顔をしてバリックを睨み、落ち着き咳ばらいを一つ入れてから
「では、僭越ながら具申させていただきます。
今回の作戦、時間的余裕を考えても”野党を挟撃”の部分が難しいかと思われます。もし挟撃を実行するならば先行部隊がすでに先発している状態でないと先回りが不可能だと思われます」
一呼吸置き、バンビッドとベルナンドを交互に見て
「そして今回の作戦で野盗を殲滅しておかねばならない点を考慮しても挟撃により包囲殲滅に成功したとしても再発を防ぐためには敵の本拠地を叩いておくことが大事と自分は考えます。そこを考慮していただきたいかと」
ルゥトはそこまで意見をしてもう一度ベルナンドを見る。
彼はルゥトの意見を聞き終えても微動だしなかった。動いたのは作戦案にケチをつけられたバンビッドだった。ルゥトは心の中でため息をつく。今回はこういう役か・・・。
「小官の作戦に穴はありません!!しょせん野盗、挟撃に成功した暁には捕虜を取って敵の本拠地など洗いざらい吐かせてみせます!!」
そう陰気な顔は赤ら顔に変わり怒りをあらわにする。
「いえ、その挟撃の成功が難しいという話しています。そして捕虜から本拠地を聞き出している間に野党は本拠地を引き払うでしょう」
ルゥトは淡々と今回の作戦の問題点を指摘する。
さらに赤くなるバンビッド。
「なっ、なっ、セ、先行させれば成功するのだろう!!なら補給部隊の出発を」
「遅らせるのは不可能です。すでに2回の輸送に失敗しています。これ以上の補給の遅れは前線の物資に影響します」
リンゼ中尉が淡々とバンビッドの再案を遮る。
バンビッドは口をパクパクさせながらリンゼを見る。そして真っ赤になった顔のまま
「そ、そこまで言うのなら貴様が私の案を超える代案をだせるのだろうなっ!!!」
ルゥトを指さし叫ぶ。
ルゥトは涼し気に目を瞑っている。
選手交代だ。そう思いながら。
そこで隣に座った狐色の髪をお団子にした切れ長の鋭い眼の女性が手を上げる。
「では僭越ながら私か彼の代わりに代案を具申してもよろしいでしょうか?」
そういうとカリーナが立ち上がる。
「バンビッド少尉の案の問題は挟撃が不可能という点なだけで作戦としては間違っていないと小官は思います。ですので挟撃で殲滅するのでなく野盗を撤退させて敵の本拠地を見つけ別動隊がそれを強襲する。という形に変えればバンビッド少尉の案を実現させることができると小官は提案いたします」
発現を終えたカリーナは噛ませ犬ご苦労。と言いたげな顔でルゥトを見る。
この案を聞き先ほどまで熱くなっていたバンビッドも少し冷静さを取り戻したのか
「ふむ。それだな。それなら可能ということか。どうでしょう?ベルナンド中尉」
陰気な顔で作戦総指揮に決断を促す。
「たしかにその案でいいのではないかね?細かい調整はカリーナくんだったか?彼女と話合い立案してくれたまえ」
ベルナンドは頷きながら作戦立案者に今後を託す。
「はっ!!」
バンビッドは敬礼をして上官に応える。
「作戦は決まったようですね。補給部隊は予定通り3日後に出発。リシア渓谷にさしかかるのが2日後。無事全物資を次の中継地点のリシア砦に届けることが目的です。みなさんのお力添えをお願いします」
リンゼ中尉が立ち上がりそう言うと敬礼をする。
「では作戦会議はここまでとする。細かい作戦指示はバンビッド少尉が指揮したまえ。各々力を合わせて任務遂行に尽力をお願いする」
ベルナンドも立ち上がり敬礼した。
全員それに習う。これにて作戦会議は終了した。