第27話 特別任務
休日を有意義に過ごしたルゥトたちが翌日、講義室に入ると室内はが妙にざわついていた。教室に入ってきたルゥトを見つけたバーナルが
「おい、ルゥト聞いたか?B班の実技教練の結果・・・」
バーナルは手に入れた情報を開示したくてうずうずした顔で近づいてくる。
「どうかしたんですか?」
ルゥトはあまり興味なさげに切り返し座る席を物色するため視線を泳がす。
調度中間くらいの席が空いていたのでそこに移動する。
移動するルゥトを追尾しながら
「興味なさげだな。昨日B班が実技教練を行ったらしいんだが・・・なんと、たった2時間で終了したらしい」
バーナルはわざとらしく天を仰ぎ自らの両目を手で覆う。
バーナルの行動は意味不明だったがさすがにルゥトも興味を持つ。
「ほぅ・・・。それはギーヴ・フォン・カリシュラムが絡んでますか?」
そうルゥトが確信を持った顔で聞くとバーナルは驚き、少し真面目な顔になり
「なんだ、やっぱ知り合いか?そうだ。そいつが攻撃チームだったらしいんだが、たった一人で防御側の本陣を強襲。あっという間に本陣にいたやつらを全員戦闘不能にしたらしい」
あの時見た戦闘力が本物ならそれくらいのことはやってのけるだろう。だが半年の訓練を乗り越えた23期の猛者相手にそこまでとは・・・。
さすがのルゥトも驚かざる得ない。
「ついでに言うとだな。B班の防御チームも俺たちと同じ場所を陣取ったらしい。
そしてもう一つ旗も早期組の女が1人で確保。つまり2時間で2つのクリア条件をパーフェクトクリアだそうだ。歴代1位らしいぜ」
女、つまりギーヴの連れだった、たしか・・・ミーニャ・ミートリアといったか・・・あの変わった女性が一人で・・・か。
「女の方はな・・・」
バーナルはごくりと唾を飲み目元が緩み鼻の下を伸ばす。
「眼鏡美人ですね。でも性格はねじ曲がってますから関わらないが吉ですよ。バーナル」
ルゥトはバーナルの言いそうなことを先手を打って言い当て会話を切るように席に着く。
するとバーナルもなにか言おうとパクパクしたがそこまでにして手を振って他の奴の所に行く。
しかし、すごい戦闘力だ。A班の教練を見ても23期の面々も訓練所を抜けてきただけあってそこら辺の冒険者よりは全然戦闘力が高い。その彼らが瞬殺とは・・・
ルゥトはギーヴたちに対する認識をさらに改めることにしておくことにした。
そんなことを考えていると講義開始時間になったが講師が現れかった。
軍隊で遅刻というのはほぼありえない。講師も当然それは知っているし、訓練所時代から考えても講師や教官ですら遅刻したのを見たことがなかった。
それが起こったということは・・・・なにかあったということだ。
ルゥトは少し眉をしかめて思考を走らせようとした時、いつも気だるげでだらしない中尉殿が厳しい表情できびきびと講義室に入ってくる。漂っているオーラがいつもと違い、表情も態度も一流の軍人であった。
「諸君、君たちは運がいいわね。士官学校では異例中の異例が君たちの代で当たったわよ」
いつもの気だるい喋りでなくきびきびとした声でそう切り出した。
全員駆け足で講堂の方へ移動させられる。
ここは講義室よりさらに広く多くの人員を収納することができる。
そこに入ると本日は休みだったはずのB班も集められていた。
全員が席に着くと
見たことのないちょび髭の男が正面の壇上に上がる。
「諸君は先日の教練を例年稀にみないレベルで終了させた。
それにより君たちは実践においてもその能力を遺憾なく発揮できる兵士であると講師たちのお墨付きが出たため、これより特別任務へと赴いてもらう。当然これは演習ではない」
そう大きな声でここに居る者たちを見渡しながら話をする。
「もう一度言うがこれは演習ではない。実践だ。では任務の内容を説明する」
そう言うと壇上にここからでも見える模型が広げられる。帝国の地図であった。
「現在西のヴァッシュ王国との戦闘が膠着状態であるのは皆も知っているだろう。
そして前線を維持するために物資の輸送が帝都からも行われている。
その輸送部隊が2週間前から野盗の襲撃に合い損害を受ける事件が起きている。
諸君たちにはその戦力を見込んで輸送の防衛、野盗の壊滅の任に当たってもらう」
全員が少し安堵する。なんだ野盗退治か、と。
本来なら冒険者ギルドに依頼されるレベルの話だが・・・。
教官も皆の安堵した顔を見て会場が揺れるレベルで一喝する。
「いま、たかが野盗と思ったやつばかりだな!!。あまり舐めるな。それなりに規模がでかいぞ。確認できているだけで50名以上の大規模な野盗だ。しっかりと統制が取れており計画的に作戦行動を行っていると思われる。
今までに2度襲撃され大規模な被害が出ている。次の補給部隊まで襲われると前線に悪影響を及ぼしかねない。
そこで君たちの実技教練の結果を見て、急遽君たちに出撃命令がでたというわけだ。過去前例のない大変名誉なことである」
壇上の上官は一人盛り上がっているが講堂にいる者たちは静かに上官の熱を冷めた目で見つめている。ようは野盗退治をてきとーに押し付けられた、ということではないか。
そんな盛り上がらない候補生たちを見てちょび髭の男はニヤリと笑い
「ふん、皆あまり嬉しそうではないな。
早くも実践を経験させてもらえるというのに。
では貴様らが喜ぶ話を1つしてやろう。貴様らはここを出る時に少尉を任官するわけだが、今回の件、良い戦果を挙げた者には先に少尉への任官が与えられ、さらに士官学校を出る時には「中尉」への昇進が約束される。
ふん、どうだ?だから異例だと言っただろう」
これにはさすがに皆、驚きと喜びでざわく。ようは手柄を上げれば2階級上がることができるのだ。
「だが、異例であるが故に難易度も高いぞ?準備に3日しかない。
そういうわけで、今回の作戦の総指揮官にこの私!ベルナンド・フォン・リパプール中尉が務める。
そして補給部隊の指揮をリンゼ・リッチ中尉。
君たち士官候補生はA班、B班のまま行動してもらうことになる。
A班にはバリック中尉が、B班にはゴリアード少尉がそれぞれ指揮官補佐として付く。
彼らの助言で指揮系統6名を選出しろ。1時間後に作戦会議にはいる。以上だ。急げよ」
そこまで言うとベルナンドは直立して敬礼をしてから壇上を降りた。
講堂にいる全員が立ち上がりベルナンドに敬礼をする。