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第25話 密会

「どうぞ」


 高身長のメイドが椅子に座っているルゥトとサラの前にお茶の入ったカップを置く。

ルゥトは座ったままお辞儀をした、サラもルゥトを真似してお辞儀する。

広く質素だが置いてある家具はひとつひとつが高級であるのが素人目にもわかるような豪華な部屋だった。

士官学校来賓室、ルゥトたちはそこに通されていた。



 実技教練が終わり、後片付けを終えたルゥトたちが解散して寄宿舎に戻ろうと士官学校の建物を出たところで女性に声をかけられた。


「ルゥト・デュナン様、サーラシェリア・ロー様、少しお時間を頂いてよろしいでしょうか?」


 急に呼び止められルゥトは振り返る。

そこには妙に大柄なメイドがお辞儀の姿勢で立っていた。まっすぐ立てば170を超えるルゥトとどっこいはあろうと思われる。肩幅もそれなりにあり、言っては悪いが……メイド服が似合ってない。

だが恰好とは裏腹にとても品のある立ち振る舞いであった。

それだけで高貴な者の使いであることをルゥトは理解した。


「わかりました。案内をお願いします」


 誰に呼ばれたとも確認せずにルゥトは2つ返事で答える。


そして今に至る。


 ルゥトは出されたカップを手に取りお茶に口をつける。

香りも味も一級のお茶だった。

ゆっくりとお茶を楽しんでいると扉が開く。

ルゥトはカップを置き立ち上がる。

サラもそれに習い立ち上がった。


 入ってきたのは20代後半だと思われる綺麗な女性だった。

綺麗な銀髪を結わえてまとめてある。

目は温和な光を称えているが鋭く、微かにほほ笑む唇はふっくらしていて色気がある。

そしてボディラインは女性を強調するかの如く胸部は豊満でくびれは美しく腰回りは色っぽい。

ナイスボディ、その言葉の似あうスタイルであった。

着ている軍服はここで見かける物とはだいぶ違う。肩に竜を象った軍章が付いている。

飛竜軍のマークだ。


 ルゥトとサラは敬礼をする。女性も正面に立ち敬礼を返した。


「きつい教練終了後だというのに来てもらってすいません。今日しかわたくしがここに寄れないもので。どうしても一度会っておきたかったのです」


 女性は優しい声でそう言った。


「リメエラが……訓練所であなたに庇ってもらったことを口にしていたので、一度会っておきたかったのです。あの子が男性を褒めるなんてことないから」


 そう言って優しい顔になり少し意地悪な笑みを浮かべる。

ふと、何かに気づいたように


「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたくしは飛竜軍総司令官、ミレリア・ファルル・ブッシュデインと申します。お見知りおきを」


 彼女はそう言ってルゥトとサラに着席を勧めた。


 ミレリア・ファルル・ブッシュデイン、階級は中将

帝国の第一皇女であり、飛竜軍の最高指揮官。

その戦歴はその若さに似合わず華々しかった。


 リュットネイ海戦

 バフ渓谷掃討戦

 ゴンデルク砦攻略戦


 上げればきりがないが飛竜軍の活躍はひいては彼女の活躍であった。

性格は温厚だが一度先陣を切れば人が変わったような苛烈な指揮と勇敢さで戦場を自ら駆け 「竜騎の鬼姫」と恐れられる猛将で歌われている。


 ミレリアの前にもお茶を置き、一礼してメイドはさがる。

彼女は一口お茶に飲むと


「リメエラも今この士官学校にきてるから同席したら?と言ったら顔を真っ赤にして逃げてしまったの。あなたに会うのが恥ずかしいようだったわ。ルゥト・デュナン」


 そう言って少し可笑しそうに笑い、ルゥトをまっすぐと見る。


「フフフ……物怖じしない目ね。下士官でわたくしとまともに目を合わせる人は今まで会ったことがないわ。それだけであなたの評価は抜群よ」


 温厚そうだがその眼には厳しい査定の光がこもっている。ルゥトは目を伏せ


「恐縮です、ですが皆ミレリア様の美しさで目を合わせれぬだけでしょう」


そう言うとミレリアは一瞬キョトンとしたがすぐにほほ笑んで


「あら、お世辞を言うタイプには見えなかったわ。でもありがとう。この格好で男性に褒められたのは久しぶりだわ」


 とても楽しそうにミレリアはそう言った。だが、コホンとひとつ咳ばらいを入れて真面目な顔に戻り


「あなた方の話はすでに上層部ではもちきりです。とくにサーラシェリアさん、あなたをどこが受け入れるかは今後の軍内部の情勢、ひいてはこの国の行く末すら左右しかねないかもしれません」


 そう言ってサラを見る。だがサラは何を言われているのか理解していない顔でお茶を啜っていた。無垢な子供のようだった。

それを見てミレリアはサラに微笑み


「そうしていると本当に無害そのものね。……私の本音を言うとね、彼女にはこのまま誰もいないどこか遠くへ行ってくれるといいなと思ってるのよ」


 そう独り言のようにつぶやき、ルゥトを見る。


「しかしそうも言えないのが現実です。さて、ルゥト・デュナン。あなたはどう考えてるのかは知らないですが、できればわたくしの飛竜軍に来ていただけると嬉しいわ。我が帝国で最も栄えある飛竜軍へのお誘いです」


 面と向かって言われルゥトは一瞬考える。そしてミレリアを見返し


「……嬉しい申し出ですが飛竜に乗れない場合はどうなるのです?相当なセンスがないと騎乗すら難しいと伺ってますが?」


 するとミレリアは少し笑って


「別に飛竜に乗ってる者だけで構成されているわけではありません。飛竜に合わせて行軍する騎兵、歩兵も当然います。それに今日の教練の結果を見る限り参謀本部付でもよいのではなくて?」


 すでに今日の教練の結果にすら目を通しているのか。ルゥトはその速さに舌を巻いた。


「……まだどこに希望を出すかは決めかねています。それにこちらの希望が通るというわけでもないのでしょう?」


 そう言うとミレリアは目を伏せ


「……そうね。でもあなた方に関してはすでにあなたの希望がすべてを左右する状況だと思ってもらってかまいません。陸、海、竜。すべて最高司令官からあなたの転属要請が出ています」


 さすがのルゥトも心の中で驚く。つまりサラのことは内部的に公表されてるということか。


「できれば……一番政治的に利用価値の低い我が飛竜軍に来てくれることを、わたくしは願っているの……」


 陸軍の最高司令官は皇太子である第一皇子。

海軍の最高司令は第二皇子が握っている。

険悪とは言わずとも仲が良いとは言われない。

しかも帝国民に支持があるのは第二皇子だと聞く。

つまり切り札となりえるサラがどちらかに行くことをこの皇女は恐れているのだろう。

理解したがそれを顔に出さず


「よくわかりませんがもう少し考えて結論を出したいと思います」


 ルゥトは慎重さを推してそう答えた。

そのルゥトの顔をミレリアは鋭い眼つきでしっかりと見てから一旦目を瞑り、大きくため息をついた。


「あ~~ぁ、こんなに綺麗なおねーさんがお願いしてるのに聞いてくれないなんて……振られたのも久しぶり……」


 わざとらしく悲しい顔をする。その仕草が可愛くてルゥトは苦笑した。


「まだ決めかねるだけで、もしかしたらお世話になるかもしれません。その時はよろしくお願いします」


ルゥトは立ち上がりお辞儀をする。

なぜかサラもそれに習う。

それを見てミレリアもクスリと笑い


「わかりました。ではいい返事をお待ちしております」


 そういうと立ち上がり敬礼をした。

ルゥトとサラも敬礼をしてもう一度お辞儀をして部屋を後にする。

大きな扉を開くと、ゴンっと何かにぶつかる男がする。


「ぎゃっ!」


 そんな可愛い声だが可愛くない悲鳴が聞こえ、ルゥトもさすがに驚き扉の外に顔だけだして覗いてみると額を赤くしたリメエアが尻もちをついて倒れていた。

ルゥトは慌てて外に出て


「リメエラ様、大丈夫ですか?」


 そう声を掛けて助け起こそうと手を伸ばすとそれに気が付いたリメエラは顔を真っ赤にして


「な、な、な、なんでもありませんわぁぁぁぁ」


 そう叫びながら走って行ってしまった。

呆然とするルゥト。さすがにこれは意表をつかれた。

クスクスと笑うミレリア。


「あの子ったら気になるなら入ってくればよかったのに」


 そう言って可笑しそうに笑っていた。

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