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第24.8話 士官学校講義Ⅲ 実技教練

カリーナは敵本陣の中を抜け、バッシマーが駆け下りて行った方向へ走った。

本陣内の戦況は五分五分。

拘束され戦闘不能扱いがどんどん増えて敵本陣の戦闘はすでに収拾されつつある。


丘陵を駆け下り森に入る。

うまくバッシマーがルゥトを倒していればよし。

失敗してもレノアがなんとかしてくれるはず。

ルゥト・デュランの実力は分からないがレノアの戦闘能力は23期では随一だ。

日が昇り始め、空はだいぶん明るくなったが森の中はまだ真っ暗だった。

人の走った形跡を追ってカリーナは森を奥へと進む。

そして木々の間に道のように開けた場所に人影がいる。

小柄な女性のシルエット


「レノア!!大丈夫!!??」


カリーナはそのシルエットに近づこうとして足を止める。

背筋に冷汗が伝う。

ここにきて、この子に遭遇するなんて・・・。


「・・・サラ」


小さく小柄な少女の名前を呼んだ。

シルエットは応えない。微動だにしなかった。

小柄なシルエット、サラが動く。

ビュンと音がしそうな勢いでカリーナに飛び込んできた。

カリーナは認識して身構えていた分対応でき、同じ速度で跳び退く。

だがサラの方が先に地を蹴りあっという間に間合いを詰められる。


(くっ、この子、やはりそれなりにできるっ)


いつも微動だにしないか怠惰に動くだけの彼女しかみたことがなかったが筋肉の付き方や時折見せる機敏な動きでカリーナは彼女が戦闘では強いことを察していた。

だが達人と呼ばれるレベルではない。カリーナたち凡人と達人の間、くらいか?

現に接近されたが両手を抑えて回避できた。


「ごめん!!」


カリーナは一言謝り、サラのみぞおち辺りに膝蹴りを入れる。

だがその蹴りに手ごたえはない。サラが掴まれた手を振りほどき自ら飛んで下がったのだ。

二人は距離を置き対峙する。

最後の最後まで相手の掌の上ということか・・・

カリーナは少し笑った。


23期ではチーム運用でカリーナに一泡吹かせる相手はいなかった。

少し有頂天になっていたようだ。世の中には上には上がいる。まだまだ勉強しなきゃ。

でも、まだ負けたわけじゃない。レノアはまだ戦っている。

彼女がルゥトを倒すまで私は捕まるわけにはいかない。


カリーナの戦闘スタイルは基本「逃げ」であった。

戦闘が苦手というのもあったが人並みには戦える。

だが彼女は自分にある将器こそ才能でだと思っていたので

それを活かすための自分づくりに努めていた。

レノアと出会いより戦闘に意味を感じなくなった。

彼女の戦闘行動を邪魔しない。それがカリーナの導きだした答えであった。

だから近接戦闘に関しては相手の機先を制し、いかに攻撃を受けないかに重点を置いた戦闘を心がけている。

今回もそれが活かされる場面だ。

サラの行動に注目する。

一瞬たりとも彼女の動きを見落とすものか。


「はい、そこまで~。俺たちの勝ちぃ~」


突然カリーナは背後から両手を掴まれる。

カリーナはギョッとして後ろを振り返る。

そこにはバーナル・フォートが立っていた。


「なっ」


さすがのカリーナも呆気に取られた。

そこをすかさずサラが突進してくる。


「ちょっ、サラちゃん!!終わったんだよ?」


焦ったバーナルはカリーナを庇いサラとの間に身体をねじ込む、


「あいっっだぁぁぁぁぁぁ」


サラは容赦なくバーナルの背中を斬りつけた。


「ちょっと、終わりだって、サラちゃん。おーわーりー」


バーナルが叫ぶがサラはさらにバーナルの背中に蹴りを入れる。

ぐあっ、と情けない声を上げるバーナルの手が離れてカリーナは、しめたっ!!と思ったが自分の手を見て唖然とした。いつのまにか拘束具がつけられていた・・・。


そこに唐突に茂みを割って飛び出してきた影。

首元に短剣を突き付けられつつそれをなんとか止めて揉み合いのまま移動してきたと思われるルゥトとレノアだった。

ルゥトはなんとかレノアを引き剥がし彼女に蹴りを入れて離れる。

蹴られたレノアは後方へ吹っ飛んだがすぐに臨戦態勢になり地を蹴ろうとした時、


「レノアッ!!」


聞きなれた声で我に返るレノア。声がした方向を見ると

カリーナに覆いかぶさるバーナルを容赦なく蹴り続けているサラがいた。

レノアの頭に血が上る。カリーナを襲うバーナルに見えたのだった。


「カリーナっ!!」


レノアが瞬時にバーナルに向かって襲い掛かる。

バーナルは焦る。


「ま、まて、違う。俺は襲われてる方。守ってんの!!ちょっと、サラ、やめてっ!!!ほんとに痛いから。ルゥト、この子止めて。なんで止まってくれないんだ??いてっ」


その声で空中で我に返るレノア。

だが空中で軌道は変えられない。そのままバーナルに向けて膝が落ちていく。

そのレノアに気づき素早く離れるサラ。


「サラ、終わりです。もうカリーナを狙わなくても大丈夫ですよ」


そういうとサラは戦闘態勢を解き近づいてくるルゥトを見る。


「ぐえっっ」


膝蹴りを食らったバーナルのカエルをつぶしたような悲鳴が聞こえ


「ご、ごめんなさぁぁぁい」


レノアの謝罪の声が木霊した。





「私たちの負けなのね・・・」


日がだいぶ昇り、森の中にも朝が訪れ始めていた。

木にもたれ座っているカリーナに水筒を渡すバーナル。

それを受け取り口をつけて飲み、一息つくとその水筒を今度はレノアに渡す。


「バーナル、本陣に行ってまだ戦ってるようなら止めてきてください」


ルゥトはバーナルにお願いする。

バーナルは立ち上がり


「あいよ。だがあっちももう終わってるだろうけどな」


そう言いながら歩き始める。


「あ、あの私も一緒にいきます。カ、カリーナ?」


許可を取ろうとするカリーナはレノアに手を振り行くことを促す。

レノアはそれを見て頷きバーナルを追いかけた。

森に静寂が訪れる。


「・・・どうして食料を狙おうと考えたの?」


カリーナは一番悔しかったことをルゥトに問う。

そんなカリーナを見てルゥトは優しく微笑み


「ああ、それは思いついたのではなく、誘導されたんですよ」


その言葉の意味がカリーナにはわからなかった。

??を飛ばしているカリーナを見てルゥトは


「実は・・・ですね。我々防御チームの食料と水は最初から3日分の半分以下しかなかったんです」


それを聞いてカリーナは驚き納得した。


「なるほど・・・。選択肢がなかったのね・・・」


つまり防御側は勝つための方法が絞られていたのだ。

食料を温存して乗り切る選択肢はもともとないに等しいのだろう。

その状態なら遅滞防御は愚策中の愚策だ。

カリーナたちが食料を失い短期戦に持ち込んだように、ルゥトたちは最初から短期戦以外はなかったのだ。

だからこそ最初に食料を狙い相手を同じ土俵に上げた。いや、自分たちが優位な状態を作ったのだ。

カリーナも当然そうしただろう。

ふたを開けてみれば相手が上手だったというのは当然あるが雲の上というわけではなかった。


「ふぅ」


納得がいくと心を覆っていたモヤモヤが晴れた気分だった。

それを見たルゥトは


「実際、我々はあの陣地であなたを拘束してる予定だったんです。バッシマーが部類の攻撃力を見せて本陣を突破しなければ、ね」


そう言ってカリーナを見る。

その優しい視線にカリーナはびっくりするくらい顔が真っ赤になった。

自分の恥ずかしい愚策を彼は素直に賞賛しているのが分かった。

まともに目を見れなくなり視線を外して俯く。


「あ、あまり褒められた方法ではなかったんだけど・・・ありがと」


そう小さくつぶやくように返す。


「おーい、上も終わってたー。みんな疲れて待ってるわ。報告しに戻るぞー。大将首もっていかねーと終わらないってよー」


バーナルが大きな声で呼んでいる。

ルゥトはカリーナに近づき手を差し出す。


「さ、申し訳ないが我々の捕虜としてご同行願えますか?」


カリーナは両手を拘束されているので差し出されたその手を掴み


「完敗よ。どこでもついて行くわ」


満面の笑みでそう答えた。

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