第24.2話 士官学校講義Ⅲ 実技教練
ルゥトたち防御チームは準備ができ次第出立する。
戦闘区域はだいたい3km四方で軽い傾斜の山の中、木々が生い茂り見渡しは悪い。
地図を確認すると1本目の旗は勾配の下がった窪みのような場所に設置してあるようだった。周りは木々がびっしりと生え、見通しが悪い場所で、どこからでも奇襲可能な防御に難しい場所。
2本目は逆に見渡しがよく、木も生えていない小さな丘陵の頂上。周りを360度見渡せ防御に向いた場所だった。
ルゥトは本陣を丘陵の旗の所に置くことにして旗の周りにテントを張り覆い隠すことにする。
本陣設営を行いつつ物資の確認と分配。
防御チームは18名。3人一組のチームを作り、その中から山に慣れてる6名を選び個々に偵察に出てもらう。地形の把握と攻撃チームの本陣を発見しておきたい思惑があった。
ルゥトはバーナルとジグナルに考えている作戦を話し、彼らの意見を聞いてさらに案を煮詰める。そこに困惑の顔をしたチームメイトが入ってきて
「ちょっといいか?本当はもっと早く相談すべきだったんだが、ちょっと問題が・・・」
偵察を終えたカリーナはレノアと一緒に攻撃チームの本陣へ戻る。
訓練が開始してほとんど時間が経ってないがすでに旗の位置は特定できた。
相手の防御の動きをもう少し見てから動きたいところだが、できれば日付が変わる前に一度攻撃を仕掛けておきたかった。
これは運悪く戦闘不能者を大量に出したとしても、すぐ戦線に復帰できるタイミングで一度無茶をしておきたいと思ったからだった。
資料によると旗を抜くためには旗の周囲にあるスイッチを踏んだ状態で土台の留め具を両手で抑えつつ引き抜かねばならないようで、3人の手が必要だった。つまり3人同時に辿りつかねばならない。
そうなると攻撃側も防御チームと同じく3人一組の編成で動かねばならなかった。
残念ながら攻撃チームは17名しかおらず、5チームとカリーナ&レノアだけのチームに分かれることとした。大将が戦闘不能は即終了である以上、最大戦力をカリーナに付けて防御するのは不可欠であった。偵察と威嚇攻撃を行っているため、今は2人1組編成で動いてもらっている。
細かくアタックすることで相手の集中力を削ぎ、できるなら戦力も削いでおきたいところであった。
「さて、とりあえず夜襲をどっちの旗にかけるか。よね」
カリーナはいま自ら偵察してきた旗周りの布陣を思い出す。
1本は窪みのような場所にあった。旗の周りは開けているが360度木々に囲まれており尚且つ旗の方が高低が低く奇襲するにはうってつけの場所だ。
救援も木が障害物になり即対応は難しい。
速攻をかけることができればうちが有利に戦闘をできる。
ただ、木々に囲まれていて見つからずに近づける反面、伏兵を発見しにくいというデメリットもある。あの茂みに伏せられたら発見は困難だ。
いざ旗を抜こうと作業を始めたら捕縛される。という事態になりかねない。
さらに、あからさまな挑発、というか……
旗の前にジグナル・ファーマイトが仁王立ちしているのだ。
ジグナル・ファーマイト
23期生の中でもっともバランスの取れた男だ。
体力に優れ、知に富み、判断力早く、義に厚い。
リーダーの素質も兼ね備えている。
そして彼のもっとも恐るべきところはその防御力だった。
彼の190を超える自身の身長と変わらない大きさのタワーシールドを使った独自の戦闘スタイルは攻より守に特化している。
その彼を相手しながら旗を取るのは至難の業だ。
確実に彼を引き離さないと無理だろう。
敵の本陣がある丘陵の旗はテントで隠されていて状況が掴めない。
障害物がなく本陣まで駆け上がる間に確実に発見され迎撃されることを考えるとこちらは攻めるのは難しい。しかも小隊を巡回させて索敵範囲を上げているためさらに接近を難しくしている。
「ね、大将のルゥトを発見した報告はあった?」
皆の報告をまとめていたツインテールの女性、リリリカにカリーナが問いかける。
「いいえ、ないわ。目撃すらされてない。たぶん本陣の中にひきこもってるんじゃない?」
リリリカは引きこもりの大将を小ばかにするように鼻で笑った。
カリーナは考える。
あの男が引きこもって身の安全を図るタイプか? だがたしかに下手に危険に身を晒すタイプではないだろう。出てくるときは……
「一旦全員を集めて作戦会議をしましょう。そろそろ皆が一度戻ってくる頃でしょう」
攻撃チームの大半は戻ってきて簡易ながら夕食を取りながらの作戦ミーティングとなる。
「これから夜を待って夜襲を掛けます。できればここで旗を1本。もしくは相手の手の内を確認できれば今後が楽になるわ」
カリーナは全員の顔を見る。
「まず目標は敵本陣ではない窪みの旗を狙います。守っているのは今のところジグナルただ一人。
伏兵の可能性は大。でも現在、確認できている敵の小隊数から考えて伏せていても2小隊。
旗の周りを巡回している小隊は丘陵を重点的に回っているので、タイミングさえ間違わなければ救援は恐れなくていいわ。ただ問題は守っているジグナルの防御力。彼に防御に徹されると手間取る可能性もあるわ」
ここでカリーナは一旦説明を切り、水を飲む。
「ふんっ!!そんなの気にする必要はねぇな。俺が相手してやるよ」
少し離れたところに座っていた巨漢が立ち上がり大きな声で宣言する。
「あら、あなたにそれができるのかしら?」
カリーナは顔に傷のあるその男を見る。
攻撃側のイレギュラー要素であり切り札かもしれない男、ただ一人の叩き上げ組、バッシマー・デンプロウだった。バッシマーは獣の威嚇のような笑みを浮かべて
「かはっ、ただ堅いだけの木偶だろう? そんなの俺の剛力で吹っ飛ばしてやるぜ」
いうだけあってバッシマーはその体躯に相応しい攻撃力を兼ね備えていた。
「剛力こそ正義。嫌いじゃないわ。いいでしょう。ではあなたを主軸にしてジグナル攻略を行うこととします」
カリーナはバッシマーを見て意地の悪い笑みを浮かべて作戦の説明を始めた。




