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第23話 士官学校講義Ⅱ

「君たちが属するこの帝国軍には陸、海、そして竜の3つの軍がありますぅ」


教壇に立つやたらクネクネと動く、ほんとに中尉殿かよという突っ込み待ちのようなボンキュボ

ンのグラマーな女性が黒板に帝国軍の構成を書き込んで説明する。


「まずは陸軍。

帝国内に複数の拠点を持ち、最大動員で30万。

平時でも8万を動員しているわぁ。

国内の治安維持などにも貢献しているのでぇ各所に散っていることが多いわねぇ。

現在は6師団あり、師団単位での作戦行動となりますぅ。

1師団に4大隊、そこから中隊、小隊と別れますぅ。細かいことは現地で聞いてねぇ」


書くのが付かれたのだろう。ミミズがのたくったような線を最後に黒板から離れる。


「そして海軍。

我が帝国はぁ、もともと海に強い都市国家で海軍が強かったのぉ。

近隣で向かうところなしと言われたほどなのよぉ。

それは今も健在でぇ、操船、造船、海戦ではどこにも追随を許さないわぁ。

海軍もぉ現在は8個艦隊で艦隊単位で作戦行動となりますぅ。

操船などは専門の人たちがいるのでぇ君たちが赴任した場合は水夫ではなく近接戦闘部隊になるわねぇ。

まぁ2年もすれば立派な水夫にもなれるだろうけどぉ。

こちらは操船職などを合わせて最大で40万人を動員するわぁ。船って大変よねぇ。

まぁ普段は3、4艦隊が動けるくらいが精いっぱいじゃないかしらねぇ?軍隊って金食い虫だからねぇ」


講義自体に飽きてきたのかついに教壇にうつ伏せになりやる気のない恰好でかろうじて聞こえるレベルで話を続ける。


「最後に我が帝国が誇る飛竜軍。

これは他国にはない画期的な飛行軍隊よぉ。

アウルスタリア王国の天馬(ペガサス)にヒントを得て飛行するモンスターをなんとか飼いならせないかという長い研究と研磨の末、ワイバーンを飼育、繁殖、騎乗に成功。

現在は150騎ほどのワイバーンがいるわぁ。

これはほんとにエリート部隊ねぇ。

私もなりたいと応募したけど適性で落ちたのぅ。

この中にもし竜軍に入れる人がいたらわたしがぁ呪い殺すからねぇ」


とんでもないことを言い出した。しかも半分寝ているようだった。


「あとは自習~~・・・・Zzzzz」


そう言ってうつ伏せになると本当に寝たようだった。

周りが騒がしくなる。この中尉の講義はだいたい毎回こんな感じだった。

部屋を出ていくもの。談笑を始める者。ちゃんと自習するものと銘々自分のしたいことを始める。


「飛竜隊ねぇ。憧れるけどワイバーンに乗るのって難しいらしいわよ」


サラの隣に座っている髪をお団子にまとめた女性がサラにそう話し出す。

彼女はカリーナ、23期の卒業生で7名いる女性の中の1人だ。初日からセナを気に入り、彼女に鬼がらみしていた。

サラは特に気にした風でもなくいつも通り反応を示さなかったがそれがまた「いい」らしく彼女はサラに付いて回ることが多かった。


「そうらしいですね。1人騎士を作るだけでも大変だとか。しかもワイバーン自体も希少なのでしょう?」


ルゥトは講義のために配られた資料を見ながら聞く。


「そ、そうらしいです。き、騎乗できるワイバーンは4頭育てて1頭いるかいないかとか・・・」


少しどもりながらカリーナの向こうに座るショートカットの女性レノアがかろうじてルゥトに届くか届かないかというか細い声で答えた。


「リーガドゥのように簡単に増えて乗りやすければいいのにね」


カリーナはセナを撫でながらそう言った。

リーガドゥ。

2足歩行で歩く爬虫類系のモンスターで体長は2m前後、足はそんなに速くないが馬力があり悪路に強くスタミナがある。なにより繁殖が容易であるため騎乗動物として多く利用されるモンスターだった。リーガドゥは軍でも多く飼育され馬の方が貴重なほどだった。

平地での戦闘は騎兵には劣るが山岳地帯や湿地、足場の悪い場所での戦闘ならリーガドゥ部隊が有利だ。

馬力もあり馬車を引くのにも向いているため補給部隊でも重宝されている。


「お二人は志願する軍はあるのですか?」


ルゥトは2人の女性に問うてみる。

帝国軍では一応行きたい兵科を志願することもできることとなっている。よほどでない限り通ることはないらしいが。

カリーナは少し考えてから


「特にはないかな。でもたぶん陸軍に出すと思う。船で長時間揺られるのはちょっとね」


レノアは意外にも即答だった。


「わ、私もたぶん、り、陸軍で出すと思います。わ、私の能力を活かすなら・・・」


そう俯きながら答えた。

そんなリノアをカリーナが見ながら


「そうだね。レノアの能力ならその方が向いてるしね」


そう彼女に笑いかける。レノアもそれを見て少し照れながら頷いた。


「サラはどうするの?なんならアタシと一緒にしょうよ!!」


カリーナは無表情に資料にずっと線を引いていたサラを覗き込みながら聞く。

サラはルゥトを見て答えを待つ。


「我々もまだ決めあぐねいてるところでしてね」


ルゥトはそんなサラを見ながら答える。

冷たいジト目でカリーナはルゥトとサラをみて


「・・・一度聞こうと思ってたんだけどあんたらできてんの?」


そう質問をする。ルゥトはそんなカリーナを見て苦笑しながら


「いえ、男女の仲というのなら違います。そうですね。仲間、というか家族、というか。ちょっと特殊な関係性というか」


すでに3人に興味を失って黒板の文字を凝視しているサラを見ながらルゥトは微笑んだ。


「ふぅん」


そんな2人を見ながら納得いったようなわけ分からないといったような曖昧な顔をしながら相槌をうつカリーナ。

その後も情報交換をしつつ談笑をしていると終了の鐘がなる。

眠っていた壇上の中尉は鐘の第一音で飛び起き敬礼する。

部屋にいた者は全員驚き素早く起立敬礼をする。

何人かは出遅れた。


「では解散~」


中尉は飛ぶような勢いで部屋を出て行った。

ルゥトも周りを見渡し皆が散り散りになるのを見てカリーナたちに挨拶をして一旦部屋から出る。サラはその後ろをちょこちょことついてくる。

部屋を出て少し歩いたところで廊下の曲がり角の見えないところから


「よう、本当に早期で出てきたみたいで驚いた」


そう声を掛けられルゥトはそちらに視線のみを泳がせたがすぐに声のした方向を向き姿勢を正し敬礼をする。


「まさか、少将閣下だったとは・・・あの時は気づかず失礼を・・・」


曲がり角にいたのは白髪の老人だった。容姿のわりにしっかりとした立ち姿。キリッとした往年の顔には前回見た時より威厳に満ちていた。

訓練所の食堂の厨房で一度声を掛けてきた老人だった。今は軍服を着て胸元に階級章をつけている。ハギュール少将その人だった。


「あの時は素性を隠してたからな。ああやってたまに新人発掘にいってたのさ。あの時目を付けたやつが早期で出たって聞いてな。一度勧誘しとこうと思ってな」


ハギュールはいたずらっ子のような顔をしてニヤリと笑い敬礼をしてから手を下ろす。

ルゥトもそれに倣い敬礼を解き手を後ろに組む。

一応サラもちゃんと敬礼はしていたようだ。

手を下ろし猫背気味に気をつけをする。


「勧誘?ですか?」


ルゥトは少し眉をしかめる。そんなルゥトを見て口元を歪めて


「そう警戒しなさんな。有能な人材に声を掛けるのもこの士官学校では当たり前だ。なんせ希望を出してもらえればこちらも引っ張りやすいというのはあるでな。」


老人は顎に手を当ててルゥトとサラを見る。


「ふむ。そちらのお嬢さんは前回会えなかったな。すでに各上層部ではお嬢さんの噂でもちきりよ」


ルゥトは顔色一つ変えないサラを見る。そしてハギュールを見て


「・・・そんなにですか?・・・まぁそうなりますよね・・・」


ルゥトは少し困った顔をして考え込む。


「なぁに、そんなに難しく考えなさんな。現状は意味のわからん力にみんな期待と危険視をしてるって所だ。そこでそんな危うい状況でわけのわからんやつのとこに行くくらいならうちにこんかね?陸軍第4師団のハギュールの所に」


ハギュール・ジェバ少将

老練な用兵で守勢に強いと噂の将軍だ。

帝国の過去の負け戦で被害を最小限に抑える巧みな殿を務めて勇名を馳せた。

兵士の信頼も厚くハギュールの師団に行きたいとう士官候補生も少なくはない。第4師団は現在ヴァッシュ王国との戦闘の後詰として前線の後方に配置されているはずだ。

ルゥトはハギュールをまっすぐ見る。

落ち着いたよい将軍だった。人に対する誠意を心得ているといった感じだ。好人物だが逆にいい人すぎて怖いというのもある。戦場でババを引くタイプの人だと言えなくもない。


「ご厚意に感謝します。今のところどこに志願するか考えているところでして、この場でお答えすることはできかねます」


ルゥトはお辞儀をした。

今は情報を集めて進むべき最善を見つける時だった。下手な小細工はしない方がいいと考えていた。


「ふむ。たしかに、いろんな奴が勧誘に来るだろうがおいしい話には乗らん事だ。老婆心ながらの忠告じゃて。できればうちに来てくれることを願っている」


少将はもう一度敬礼する。

ルゥトとサラもそれに倣い敬礼をして

ハギュールは敬礼を解くと優しい顔でサラの頭を撫でて去っていく。

ルゥトとサラは老人が見えなくなるまで敬礼をしていた。

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