第21話 士官学校生活
翌朝、ルゥトとサラはアーウィンと女将さんに挨拶をして「小人工房」を後にする。
そして半日かけて帝都の北に位置する帝国軍士官学校へ移動し、事務局で手続きを済ませて士官候補生用の学校内の寄宿舎に入る。
部屋は2人部屋でサラと一緒だった。
こうなるといよいよセット扱いが露骨になってきたなとルゥトは苦笑いを浮かべる。
サラは特に気にしてる風もなく、部屋に入るなり2段ベッドの下を陣取ってドヤ顔をしている。
ルゥトは仕方なしに自分の荷物を上段のベッドに置く。
彼女は自己主張をあまりしないが自己主張した時は頑固だった。
この日は荷物をほどき、支給品を受け取って食事をした後、明日に備えて早めに休んだ。
翌日、ルゥトたちは士官学校の講義室へ向かう。本日より座学の開始であった。
「おい、聞いたか?今期の訓練生で早期卒業者が出たらしいぞ」
どこから情報を持ってくるのかバーナル・フォートが教室に入るなり、席に座って教練用の本に目を通していた体格の良い男の横に座りそう話を始める。
「ほぅ。それはすごいな。優秀な奴がいたのだな」
頑強な体格、強面で真面目そうな顔の男がバーナルの話に、特に興味がないといった適当な相槌を打つ。
「うわっ、つめてぇな。興味わかねーのかよ。俺たちがあんだけ苦労した訓練を短縮して今日から俺たちと同じ士官候補生なんだぜ?」
バーナルは反応がつまらないと抗議するように両手を軽く上げるジェスチャーをする。
「ふむ。有能な人材なら歓迎だと思うがな。命を預けるに値する人物なのを期待したいものだ」
強面の男はそう言って腕を組み目を瞑る。
「けっ、優等生め。ついでに4人中半分が女だそうだ。美人かどうか賭けるか?ジグナル?」
ジグナルと呼ばれた男は姿勢を崩さずに片目だけを開きバーナルを見て
「……すごいな。女性が2名か。俺たちも男としてうかうかしてられんな」
真面目な回答にさすがのバーナルもこれ以上言うことないと言った感じで机に肘をつき話を終えた。
自分たちの代に女性がいないわけではなかったが早期卒業者となると話は別だった。バーナルたちの代、第23期には早期卒業者はでなかった。だからこそバーナルは興味を持ったのだがこの朴念仁には興味が湧かないらしい。
そんな2人の会話が途切れた時、教室の扉が開き2人の人物が入ってきた。
ルゥトたちは事務室で予め教えられていた部屋に入る。
そこにはすでに数十名の候補生の人たちが講義が始まるまでの時間を談笑したりして過ごしていた。ルゥトとサラが教室に入ると全員の視線が集まる。
一応、ルゥトは敬礼をする。サラも遅れて敬礼をした。
ざっと見たところ席は決まってなさそうだ。
ルゥトは誰もいない前の席に着く。サラも隣になにも言わずにちょこんと座る。
……周りの視線が痛い。
自分たちの前の訓練所の卒業生と一緒に講義を受けるのは前もって聞いてはいたが……。
今回、士官候補生として座学を受けるのは第23期訓練所卒業生65名。第24期早期卒業者4名。そして下士官からのたたき上げが1名と聞いている。
この人数を2クラスに分けておおよそ一ヶ月ほどのカリキュラムを経て少尉に任官し、その後任地が決められることになる。
そんなことを考えていると
「おお!!ここかぁ。おっとすでにたくさんお利口さんがたくさんいるようだな」
豪快な声と共にその声に似あった豪快な男が入ってくる。2mに届きそうな巨漢。
新調したであろう軍服は前をはだけだらしない着こなし。伸ばしっぱなしの髪をベタベタの油でオールバックに固めて顔中傷だらけだった。
明らかにこの場にいる全員と纏っている空気が違っていた。
一目でこいつが下士官からのたたき上げだ、とわかる雰囲気を出した男だった。
入ってきた男は周りの視線なんぞ気にも止めずにずかずかと部屋に入ってきて、一番奥の席に移動してそこに座っている男の前に立ち
「退け」
と座っている男に対して冷たく凄んだ。
「なっ!!」
座っていた男は瞬時にカッとなり腰を浮かしたが、揉め事を起こすのを良しとしなかったのか威嚇してきた男を睨みながら席を譲る。
2人は最後まで睨み合っていたが離れた男は別の席に移動して目を逸らす。
「けっ!!青病譚が調子のってんじゃねーよ」
全員に聞こえるように言い、ドカッと空いた席に豪快な男は偉そうに座った。
部屋の空気が殺気めいて重くなる。
「おはよー。今日からよろしくー」
殺伐とした雰囲気の中、軽快で明るい女の子の声が室内に響く。
入り口を見ると2人の女性が入ってきたところだった。
茶色よりやや赤に近い狐色の髪をお団子状にまとめた女性と、その後ろにおとなしそうな雰囲気を持った前の女性よりもうちょっと暗めの少し青みかかった髪をショートにした女性の2人が入ってきた。
2人とも歩き方や立ち振る舞いから この部屋にいる者たちと同じく過酷な訓練を耐え抜いた兵士であることが分かる。
お団子頭の女性が前の席に座っているサラに気づく。
「あ、みたことない女の子がいるっ!!あれ、誰だと思う?レノア?」
一応こそこそ話の体を取っていたが基本声が大きいので駄々洩れだった。
「さ、さぁ。訓練所では見たことない……。叩き上げの人かしら」
ショートの女性はおとなしそうな喋り方だが芯のある声は聞き取りやすかった。
そこにカンカンと鐘の音が鳴る。
全員の顔つきが一瞬で変わり、空いてる席に移動し席に着く。ほどなくして厳しい表情のバシリと軍服を着こなした中年が入ってきた。




