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閑話 しばしの別れ

 早期卒業者選抜が終了した直後、参加者とそこにいた教官たち全員が拘禁されサラの謎の能力についての聴取が行われた。

ルゥトたちも厳しく問いただされたが何も知らない事実が変わることないので知ってることは正直に話した。

ただ、受付の時にもサラの能力を垣間見たことは黙っておいた。これはなぜかガイもそうしたらしいというのは後で聞いたことだった。

 サラ自身も厳しく尋問を受けたようだがひどいことはされなかったようだ。

調査中にサラの能力が発動しようものならそれこそ大惨事になりうることはさすがにあの場にいた者なら誰でも容易に想像できることだったからだろう。

およそ丸一日拘束されてルゥトたちは解放された。


 ガイとバーンドは明日からまた訓練に戻るそうだ。

一日の補習は別の日を設けてくれるらしい。

ギーヴ班の残留組は、男の方はリタイアとなったらしい。本人の希望により前線へ送られるそうだ。

たぶんこの後、軍支援金というお金を払って除隊させてもらうのだろう。貴族の子息がこの訓練に参加して残れなかった場合はそのシステムで軍を離れることができる。ただ莫大な金額を払わねばならない。

もう一人の女性は……精神が壊れてしまったらしい。サラが直接攻撃した唯一の人物であった。

自分が誰かも分かず幼児退行を起こしているらしく重症とみなされて除隊となった。彼女のことはギーヴが責任をもって保護すると聞いた。


 翌朝、ルゥトとサラはこの訓練所を出て一週間後に士官学校の方に移動することになった。

門のところでまだ日が上がらぬうちにガイとバーンドに見送られここを去る。


「じゃあ、わりーけど先に行っていい席を取っといてくれよな」


ガイはルゥトに握手を求める。


「上手くいくかはわかりませんが努力はしてみますよ。ガイもあまり無茶をしないように」


ガイの腫れあがった顔を見ながらルゥトは呆れ笑いを浮かべ、手を握る。


「けっ。そんなに賢く生きれるかよ」


ガイはにこやかに笑って強く手を握った。

二人は手を離すとサラがガイに近づく。

ガイはサラの頭にいつものように手を置いて優しく撫でて


「すまねぇな。本来なら一緒に行きたかったが俺はまだ足手まといだ。いずれお前もルゥトも俺が守ってやる。だが今はルゥトについて行ってやってくれ」


そう腰を折って顔を近づける。

ぼーっとしてるサラだがめずらしくガイの首に抱きついた。

ガイは少しびっくりしたようだが可愛い妹を慈しむように抱きしめた。

バーンドはルゥトの前に立ち手を差し出す。


「結局君には世話になりっぱなしだったな。いずれこの恩はミルセルク……いや、僕の手で返させてもらおう。それまで息災で」


ルゥトも出された手を握り


「そうですね。期待して待っておくことにします。ここまできたんですから。必ず追ってきてください」


握手を離すとバーンドは一応サラにも声をかける。


「君の能力は僕はよくわからない。だが僕たちは仲間だ。いつだって君の味方だと覚えておいてくれ」


 ガイと離れたサラは無表情にバーンドを見上げて


「バーンドが死にそうなときは助けにいくね」


 それを聞いた3人は唖然としたが


「どうもサラはおめーに対してはしゃべってくれるよなぁ」


 とガイが笑いながら言った。


「……暴言しか吐かれてないがね」


 バーンドが腑に落ちないといった苦笑いをしていた。


「じゃあ訓練頑張ってください。先に戦場で待ってます」


 ルゥトは2人に最後の挨拶をすませると、背を向けて門の外へ歩き出す。

サラも後ろ髪惹かれるようにガイを見てからルゥトを追いかけて行った。


 残った2人は


「……馬鹿な事をしなければ君は一緒に行けただろうに」


 バーンドは隣の大男に言う。


「けっ。ついて行ったところで今のおれじゃあいつらの足手まといさ。今は自分を鍛えるべきだと思ったんだよ。それに弱虫一人置いて行ってべそかかれてもかわいそうだからな」


 半笑いでバーンドを見てから訓練場に向かって歩き出す。


「ぼ、ぼくはべそなんてかかないぞっ!! それにいずれ君たちを追い抜いて君たちを指揮する立場に立つのはぼくだからなっ!! ミルセルクの名にかけてっ!!」


 先に戻っていくガイを追いかけながらバーンドは叫んだ。



 ルゥトは1週間後の士官学校までの間をどうするか考える。

とりあえず行く当てがない。後ろを見るとサラがとことこと着いてきている。

さすがに彼女も行くところないんだろうな、と思ったのでまず宿をなんとかしようと考え「小人工房」へと足を向ける。宿を紹介してもらおうと思ったからだ。

店に入ると女将が驚き、盛大に迎えてくれた。

サラを見てお気に入りのお人形を見つけたように抱きしめて離さず、泊って行けと脅迫?するのでお世話になることにした。

アーウィンさんも帰宅して驚き、喜んでくれてその日は訓練所の話で酒宴となった。


その後5日間は「小人工房」でお世話になり、店の手伝いをしつつギルドの依頼の手伝いをしたり、バロック商会の要請で近くの街道のモンスターを討伐に出たりとサラと2人で忙しく日々を過ごした。

最終日にはまたしても壮行会が行われ多くの人と語り明かした。


 皆が酔っぱらって潰れてしまい静かになったアーウィン宅の居間を軽く片付けてルゥトは家の外に出る。

空は青白く明るくなり始め、東の空に太陽の日が少し頭をだしている。朝の風が心地よい。

リーエントはアーウィン家の自宅である2階の玄関口からひょいと屋根に上り、空を見上げる。しばらく空を見上げて上空に黒い影が見える。


「ピュウゥゥゥゥィィィィィイ」


 口に指を当てて上手に口笛を吹く。

薄暗い朝焼けの中の黒い影がゆっくり旋回して下りてくる。

リーエントが手を伸ばすとそれを止まり木にして鷹が舞い降りる。


「よう、ランカイゼル。シュナイゼルは元気か?」


 そう声をかけ降りてきた鷹の頭と翼を撫でてやる。鷹は気持ちよさそうに目を細め首を振る。


「・・・そうか。姫様も立ち直られたか」


 リーエントは感慨深く目を閉じてランカイゼルを撫でる。

そして肉の切れはしを出すとランカイゼルに与える。


「遠路ありがとうな。これからも頼むぞ」


長い付き合いの翼ある友人に優しく声をかけた。

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