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閑話 サーラシェリアに関する報告書

 帝国軍皇帝直轄士官候補生訓練所の所長室でリメエラは届いたサーラシェリア・ローに関する報告書を一通り読んで机の上に置き、椅子に深く座り直してため息をついた。


 サーラシェリア・ローの謎の能力。あの場にいた者たちの証言から得られた情報を総合すると「死」の恐怖を撒き散らす能力。と言うべきものなのだと結論が書かれていた。

リメエラ自身も体感したが未だに信じられない経験だった。

思い出しすと、まだ体の中から寒気がこみあがってくるほどだった。

一部あの場にいた者からあれは「魔法」に属するものではないだろうか?、という考察が報告書にレポートが添付されていた。


 魔法


 人知を超えた超常現象を人の力で起こすことができる。と言われている。

実在するのか?と聞かれてればほとんどの人間は目にしたことがないものであるが、国を治める立場にある者たちは皆存在を認知している。

実際に使える者たちがいるからだ。


 現在、確認されている「魔導士」と呼ばれる人物は南の都市国家バーレスにいる魔導士ルルク・リンクス。

北の共和国に隠居しているシャランドゥ・マグカリクス。

そしてどこにいるか知られていない風来坊ソロストーク・ゾルディーン。


 この3人のみが魔法を使えることができる人物と公に知られている。彼らと接触することはほぼ叶わず、存在自体迷信ではないか?という声もあるほどだった。

帝国は他の国に比べてこの迷信めいた力に懐疑的だったため研究機関は小さい。魔法学者があーだこうだと議論しているだけで実益がないからだった。

一番、魔法などに精通していると言われるアウルスタリア王国ですらその技術は存在せず、天馬の加護のみがそれに類似するものと言われている。


 逸れてしまった思考を戻すためリメエラはもう一度資料に目を落とす。


 サーラシェリアを軍に推薦したのはケィロット商会。

帝国のお抱え照会のひとつで海運が主な仕事だ。

彼女の件を問い合わせてみたが容量を得ない状況だった。

大きな商会のため各地に支部を持つこの商会は事務的な作業が右から左へ移動しすぎて元を辿るのがなかなか骨が折れるらしい。


 本人を尋問してみたものの何も要領を得なかった。というより会話が成り立たなかったのだが、本人は自分が能力を持ってることすら知らない風だった。

チームメイトの3人のうちバーンドという貴族はそのことを知らなかった。他2人は一度見たことがあると説明。

その時の状況はこの間の状況と酷似しており統合するとサーラシェリア本人の感情に左右されて現象が起こると思われた。

そのため危険が伴うため強硬手段な尋問が使えず彼女の能力の解明は頓挫している。

とりあえずこの先彼女をどうするか?が問題であった。

できるならあらゆる手を使ってあの現象を解明したいところなのだがそれには多くの犠牲を生む予感がする。


 となると取るべき道は一つ、帝国で飼い慣らす道を模索するべきだろう。

幸い、チームメイトに懐いている。これを利用しない手はないだろう。

今回、共に士官学校へ行く男の資料を見る。


 ルゥト・デュナン

あの時、死の恐怖から守ってくれたあの男を思い出す。するとリメエラは頬が上気するのを感じたがぶんぶんと首を振り、冷静さを保つ。


 この男もまた未知数であった。

成績は全体的に中の上。ただハギュール少将が気にかけた一件以降、ブランドーが注意して観察していると全力を出してない節がある、という報告を入れている。かなり注意してなければ感じれない程度の違和感だと言っていた。

 実際、今期の訓練生の中でずば抜けた実力を持つギーヴ・フォン・カリシュラムの強力な一撃を完全にいなす。という荒業をあの時に見せている。

ブランドーすらあれだけ綺麗に外せるかどうか、というよりあの瞬間に割り込める自信はない。と言っていた。実際我々が思うよりもっと上の実力と見積もっておくべきだろう。

 人となりも評価は高い。前半の一週間の過酷な訓練で彼の在籍した部屋の脱落者数がすくなかったのは確実にこの男がサポートしていたのだろう。

部隊を任せるのにはうってつけの人物だ。

そしてサーラシェリアがなついている。未知の彼女を安全に運用するならこの2人は共に行動させるのが得策である。


 これは相当な良物件ではなかろうか?

姉さまに報告をするか?

だがリスクもある。サーラシェリアは諸刃の剣だ。利用できればいいが不可能な場合は相当な危険を内包することになる。

そしてルゥト・デュナン。いまいち信用するのになにか足りない。というか・・・胡散臭い。これは女の感のような部分なのだがなにかひっかかる。

だが、これだけ性能の高い人物。ほかにくれてやるにはいささか惜しい。

皇太子や第二皇子に渡せば天秤が傾く可能性も出てくる。かと言って姉さまの元に置いとくのは……。


 リメエラは眉間を指で押さえながらマッサージをする。席を立ち窓際に移動して窓を少し開けて室内に外の空気を入れて気分転換を試みる。

やわらかい風が彼女の綺麗な銀の髪が軽く風になびく。

 どちらにせよ、今回の件は隠しきれない。ならばこの書類は公に出してあとはルゥト・デュナンの裁量に任すか……?

リメエラは胡散臭いとは思ったものの彼に対する印象はそう悪くなく、最善の選択を引っ張ってくるだろうという予感というか確信めいたなにかを感じていた。

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