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第18.0話 新人強化訓練偏Ⅹ

 第8訓練房の6m四方の闘技場の中央に2人の男が立っていた。

一人はルゥト・デュナン

もう一人はバーンド・ル・ミルセルク


「勝負は武器を取りに行ってる時間がないということで素手による格闘戦。相手の意識を刈り取るかギブアップ宣言での勝敗とする。尚、死亡した場合も負けとする。死なない程度に頑張ってもらいたい」


 審判役を引き受けたのはブランドーと呼ばれた若い教官。

他の参加者は一旦闘技場の外にでて、周りの観客席に各々好きに座る。


バーンドは上着を脱ぎ、拳に布を巻きつける。

これは自分の拳を守る意味と強く拳を握り込み攻撃力を上げるためであった。

ルゥトも静かに拳に布を巻きつける。


「ルゥト、当たり前のことだが手を抜くことを僕は許さない。全力で頼む」


 鬼気迫るほどの本気でバーンドはそう告げる。

ルゥトもその眼を見て


「……わかりました。覚悟をしてください」


 そう告げる。

 2人は準備ができると近づきお互いの間合いの一歩外に構える。


「では、はじめっ!!」


そう言ってブランドーは手を振り下ろす。

拳を前に突き出し、戦闘態勢を取るバーンドに対し、両手を下ろし身体の力を抜き、ただの立ち姿で迎えるルゥト。その弛緩された無駄な力の入ってない姿こそ彼の本来のスタイルであった。

 バーンドは相手の状態は気にせず姿勢を低くして突っかかる。

長期戦の不利はバーンドが一番わかっていた。

活路があるとすれば……初手!

低い姿勢から下から突き上げるようなストレートを繰り出す。

だがそんな直線的な攻撃はルゥトに読まれ、軽く回避後に被せるようなカウンター。

その振り下ろされる拳をバーンドは受け止める。

 よしっ!!このまま二の手で……と思った時には膝蹴りがバーンドのみぞおちに決まっていた。


「ガハッ!!」


 呼吸ができず崩れるバーンドの顎をめがけて振り下ろされる拳を見たのが、バーンドの最後の景色だった、


「勝者、ルゥト・デュナン」


 ブランドーはそう叫ぶ。

結果だけみればあっという間の勝負だった。

だがルゥトは沈みゆくバーンドに優しい視線を送り、ガイは感慨深く目を閉じた。


 その静かな時を邪魔したのはギーヴだった。


「あれ?なんだ。もう終わり?彼は何がしたかったの??」


 そうミーニャに問う。


「さぁ?仲間内のゴタゴタをここで片付けようとして返り討ちにあった。ということではないでしょうか?」


 ミーニャはギーヴ以外に興味がないので、てきとーなことを言ってギーヴの興味深々な顔をうっとりと見つめる。


「ふぅん。仲間同士で争いねぇ、あまり褒められたことじゃないね。しかも彼、死ぬほど弱いじゃん。そんな彼をいつもそうやってボコってるんだ?」


 その言葉でカチンときたのはガイだった。


「……おい、坊主。いま俺の相手が決まったぜ。降りてきな」


 ガイは怒りが抑えられない顔でギーヴを睨みながら闘技場へ降りていく。

少年はなんで相手が怒ってるのか分からず、あどけない驚きの表情でガイを見ていた。

 そのガイを殺したいほどの表情で見ていたのはミーニャ。ギーヴに喧嘩を売ったことが神への冒涜だと言わんばかりに顔に青筋を浮かべて怒り狂っていた。


「……ギーィヴさまぁ。あの不心得者はわたくしに対戦させていただいてもよろしいですか?すぐここに首だけ連れてきて謝罪をさせたいと思います」


 今にも火でも吹き出しそうなほど怒っているが顔にはださずにミーニャはギーヴに願い出る。しかしギーヴはそれを断り


「……いいよ、ミーニャ。彼の相手は僕がするよ。もしかしたら僕より彼の方が強いのかもしれないけどだからこそ僕の実力が試させると思うんだ!!」


 誰もがこの中で彼の実力が頭一つとびぬけてるのを感じているのに、なぜかギーヴだけが見当違いなことを口にしていた。

それがさらにガイの癇に障った。


「……けっ。てめぇの実力もきちんと計れねぇお子ちゃまかよ。気持ちわりぃ。まぁいいよ、早く来いよ」


 ギーヴはなんの予備動作もなくひょいとジャンプすると、闘技場の真ん中に降り立った。

スッと立っているだけで強者の雰囲気を醸し出している。


「ガイ……気をつけてください」


 ギーヴの立ち姿を見てルゥトはすれ違いう時に声をかける。


「けっ、ガキになんか負けるかよ」


 かなりカッカきているようだった。握る拳に力が入っている。

2人が中央で向かい合う、

ガイは闘気をむき出しにしているがギーヴの方はニコニコとしている。


「では、はじめっ!!」


 ブランドーの掛け声と同時にガイは拳を振るう。

剛腕。

その言葉が似あう一撃でギーヴの頭を狙う。

 だがその拳は当たることなく軽々と躱されカウンターで顔面に拳をもらい、ガイはたたらを踏む。


「おや?今のはいい感じだと思ったんだけど。やっぱり僕の攻撃……弱いんだなぁ」


 そうギーヴが一撃で終わらなかったことを残念に思ったようだ。

だが次の瞬間、ギーヴは一瞬でガイの懐に踏み込みボディに深々と拳を突き刺した。

 くの字に折れ曲がり胃液を吐き出すガイ。

降りてきた顔面に突き上げるアッパーを食らわせて、今度は身体が一瞬浮きあがりガイは上空に吹っ飛ばされる。空を舞うガイより高く飛び上がり、地面に叩きつけるように回し蹴りを決めて華麗に立つ少年。

 実力差は誰の目にも明らかだった。

地面にバウンドして動かなくなったガイに近づき、倒れた顔面に容赦なく蹴りを一発入れる。


「これで動けない、かな?」


ピクリともしないガイを確認してギーヴは踵を返し、闘技場を出ようとする。


「て、てめぇ……まだ終わって……ねーよ」


 まるで生まれたての小鹿のように踏ん張りが効かず、プルプル震えながら立ち上がるガイ。

審判もまだ止めてなかった。

ギーヴは立ち上がったガイを見てから自分の手を見る。


「そうか。やっぱり僕ってあんまり強くないんだな。完全に勝ったと思ったんだけど。ミーニャがあまり僕を戦わせたがらないのはこういうことなのかもな」


 無言でガイを見ると一瞬鬼の形相になり、ギーヴは腰を落として拳を強く握る。

鋭い殺気が立ちのぼり、一気に閃光のような速度で間合いを詰めて立ち上がったガイの顔面に一直線に叩き込まれる。


……はずだった拳はルゥトの手でいなされていた。


 確実に頭を吹っ飛ばせるほどの威力であったが、それをいともたやすく……ではなかった。

ルゥトのその攻撃をいなした腕はいたるところが裂傷で血を吹いていた。


「そこまでにしていただけませんか?」


 ギーヴは目の前にいる男の視線に一瞬、寒気を覚えた。


「貴様ぁ!!ギーヴ様の素晴らしい一撃を邪魔しくさってんじゃねーぞ!!」


 ミーニャが今までにないほどの怒気をはらんで闘技場に降りてこようとする。


「……乱入による手助けによりギーヴ・フォン・カリシュラムの勝ちとする」


 審判役のブランドーが淡々とギーヴの勝ちを宣言する、

だがギーヴは目の前にルゥトを睨む。今のは今までで一番「本気で倒しにいった攻撃」のはずだった。だがそれはなんの手ごたえを得ることなくいなされたのだ。

ルゥトは睨むギーヴを無視して結局倒れてしまったガイの元へ行きしゃがみ込む。


「馬鹿な意地を張ってはいけませんよ。子供相手に」


 そう言って助け起こすために肩を貸す。


「……けっ。ガキ相手に本気だしといてよく言うぜ」


強がりは言うが手助けを借りて立ち上がるガイ。

いつのまにか闘技場に降りてきていたサラがガイの元にふらふらと歩み寄ってくる。

そんなサラを見てなんとか苦笑いを浮かべたガイは、サラの頭に手を置き


「おめーは勝ちあがれ。俺たちはまだ無理だがお前はルゥトについて行ってやってくれ」


 そう言ってルゥトと共に闘技場をでていく。

そんな二人をじっと動かずに見送るギーヴを、ミーニャが心配して下りてきて手を引いて闘技場から移動する。

その時のミーニャは満面の笑みでルンルンだった。

ギーヴは手を引かれながらルゥトを目で追う。


「あの人が強い人だったのか。なんだかもったいないことをした気がするな……」


 そうつぶやいた。



 闘技場中央にはサラが一人残っていた。


「君が次戦うのか?サーラシェリア訓練生?」


 そうブランドーが問うとコクリと頷くサラ。


「では彼女と戦うのを志願するものは?」


 ブランドーが大きな声でまだ戦っていない者たちに聞く。

嬉しそうにギーヴの手を引いていたミーニャが勢いよく振り返り


「私がっ!!私がやりましょう!!!」


 と上擦った声で名乗りを上げた。

だが、すでに闘技場の真ん中にはギーヴの仲間であるもう一人の女性が、眠そうにふらふらと立っていた。


「セレン!!あなたっ!!勝手にっ!!」


 やる気だったミーニャが大声で抗議する。

セレンと呼ばれた女性はだるそうに手をひらひらさせて返事を送る。

憎々し気に睨むミーニャが黙ったのを見てブランドーが


「ではセレン訓練生、君が対戦相手だね。では始めっ!!」


 そう声をかけてから少し下がる。

対峙したセレンは寝ぼけ眼のままゆっくりとサラに近づく。

相手はよく分からないガキだ。あっという間に倒して終わり。


 セレンはまだ冴えない頭でそう考えていた。

はい。訓練偏最終話はさらにくそ長くなりましたとさ。

いまいちギーヴのキャラがまだブレブレですいません。

前回よりさらに馬鹿になっております。

次でこの戦いは決着がつき、4人の早期卒業者が選ばれます。

後半にもうひと動き作ったために長くなってしまいました・・・。

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