第1話 清掃
リーエントは王女の部屋を掃除している。
掃き掃除を終え拭き掃除へと移行する。掃除は手慣れたもので普通の人の1.4倍で終えることができると自負していた。
部屋の主は今の時間、王宮にて北の共和国の大使と会合中であった。
基本的に彼の仕事は裏方でありプライベート空間でのサポートが主な仕事であったため、公務の時に近くに控えていることは少ない。
遠出するときなどは当然身の回りの世話をするために一緒にいくのだが、王宮内での公務の場合は王宮に送り届けるところまでが彼の仕事であった。
そして主が仕事中の間でも彼の仕事が尽きることはない。
今日も掃除が終われば彼女が望むであろうものを先んじて揃えねばならない。
まずは昼食、これはすでに料理長と相談して3食分用意してもらっている。
1食は様子見で出す料理。主に連日のメニューから連想される今日食べたいであろうものを準備するのだが、彼女はそこから「気分」が加わり変更を要求されることが多い。つまり第2案が本命。
だいたいはここで満足してくれる。
だがたまにそこからもう1回、ひねくれが入る場合があるので、そのための一食を用意しておく。彼女の性格上これは完全に真逆の選択肢を選ぶので第2案とはコンセプトが逆のものを選んでおくと正解である。
さらにこれを拒否する場合はだいたい最初の食事がいい。と言い出すので3つ用意しておけば間違いはないのだった。
彼女の行動はこの基準が基本だった。細かな修正や変更は必要ではあるものの、前準備としてはだいたい3案準備しておけば間違いがない。
キュリエは本当はいい子なのだがどうも素直ではない。
天邪鬼で気分屋の部分が強いため、周りに誤解されやすい性格だ。
彼女に仕えるメイドたちは彼女のそういうところを恐れていた。実際、彼女が解雇したメイドや使用人は山のようにいた。
彼女自身が有能なために無能者に対して寛容でないのだった。
しかも天邪鬼なので有能な者に対しても反発してしまう。
悲しい性を背負った王女であった。
リーエントは彼女の部屋の掃除を完了する。ベッドメイキング、バスルームの掃除、部屋の整理整頓、どれも完璧であった。続けて買い物へ行く準備をする。
午後のティータイム用のお菓子と、彼女の大好きなバスタイムに使う薔薇の花を調達しておかねばならなかった。
彼はキュリエのプライベートの館を出ると厩舎へと向かう。その時、彼の遥か頭上で鷹が鳴く。
リーエントは空を見上げにこりと笑い口笛を吹く。
すると鷹はゆっくりと旋回しながら降りてきて、リーエントが伸ばした腕にゆっくりと着地する。
「よう、ランカイゼル。お前が降りてくるのはめずらしいな」
リーエントは気まぐれな友人の頭を撫で翼を掻いてやる。気持ちよさそうな顔をするランカイゼル。
そんなリーエントに近づく人の気配がする。
「キュエエエエエエェェェェ」
その影に威嚇するランカイゼル。
リーエントは振り返りその人物と視線を交わすと
「おや、こんなところでお会いするとは珍しい・・・」
近づいてきた人物に声をかけた。