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第17話 新人強化訓練偏Ⅸ

すでに日が落ちて真っ暗な訓練所の片隅で2人の男が対峙している。

一人はバーンド、もう一人はルゥトだった。

バーンドは拳を握り頭を庇うように構え態勢を低くしてルゥトに突撃する。

パンチが届く間合いに入るとワンフェイク入れてからルゥトの顔面に最短距離で鋭いストレートを打ち込むそれを余裕の動きでかわすルゥト。かわしながら懐に飛び込み低い体勢から体当たり気味に肩と肘を使ってバーンドの身体を押し上げる。

バーンドはその攻撃に合わせて軽く後方へ飛び突き上げるルゥトの攻撃を利用して距離を取る。そのまま着地と同時に前に出る。

ルゥトが態勢を立て直す前にミドルキックをお見舞いするが、それを読んでいたルゥトはステップインして密着。バーンドの軸足を刈って転倒させる。

そのまま顔面に拳を打ち込む。が拳は当たる直前で停止した。


「・・・・参りました」


バーンドは目の前5㎜で止まった拳を見ながらそうつぶやく。

拳を引っ込めつつ


「今日はここまでですかね。自主練もだいぶやりましたがいい感じになってきましたね。いまならあの従者

たちレベルなら一人で相手できるんじゃないですかね?」


ルゥトは倒れているバーンドに手を差し出す。


「・・・あいつら程度に勝てても自慢にはならんよ。ここには化物みたいなのがうようよいるんだからな」


バーンドは少し拗ねながらルゥトの差し出した手を取る。

立ち上がり服の埃を払う。

そしてストレッチをしているルゥトを見ながら


「・・・君はなぜ僕の頼みを聞いてわざわざ時間を割いてまで僕の訓練に付き合うんだ?・・・僕がミルセ

ルク家のにんげんだからか?」


ミルセルク家、帝国ではそれなりに大きな伯爵家である。領地も帝都に近く、前皇帝の治世では陸軍の第2師団団長を任されたこともあるらしい。現皇帝が軍内部での貴族の跋扈を嫌い、力なき貴族は悉く軍から追い出されたため今は貴族であることくらいしか取り柄のない家だったはずだ。


「私は貴族様にあまり興味がないもので。君の訓練に付き合ったのはチームメイトの自発的訓練に付き合っただけですよ。それはチームの性能を良くしてこれからの訓練評価を大きく向上させる結果を生みますからね」


ルゥトは水を飲みそう笑いながら答えた。

それを聞くとバーンドは少し安堵したようながっかりしたような顔をしたが、気が晴れたという印象が強く出た。


「さぁ、そろそろ寝ないと明日に響きます。どうせまた過酷に走らされることになるでしょう。今日で一ヶ月、噂通りなら今日までで卒業していく優秀な者もいるのかもしれませんね。・・・ま、滅多にそういう人はでないとも聞いてますが」


そう言いながら寄宿舎に戻ろうとした2人に声がかけられる。


「a02班、ルゥト・デュナン、バーンド・ル・ミルセルクだな」


声をした方向を向くとルゥトとバーンドは即座にビシッと姿勢を正し敬礼をする。


「ハッ!!その通りであります」


2人の敬礼を受けて声をかけた男、この訓練所の教官も敬礼を返す。


「貴様らa02班に召集がかかった。すぐに訓練所第8室内訓練房へ移動しろ。駆け足だ」


そう教官が伝える。


「はっ!ルゥト・デュナン、バーンド・ル・ミルセルク両訓練生は今より訓練所第8室内訓練房へ移動します!!」


そう復唱して2人は回れ右をして全力で走り始める。


訓練所第8室内訓練房は少し遠い場所にあり施設としては格闘技術を高める場所である。

大きな円形の闘技場のような場所であり武器による近接戦、または格闘技を競い合う場所としても利用される。

2人が到着し中に入るとそこにはすでにa02班の残り2人、ガイとサラは到着して整列していた。

それと訓練所入所式で司会をしていた若い教官、鬼瓦顔の教官、ほかにも多分上位の教官と思われるものたち数名が立っていた。

そして、ガイたちの左側にもう4人。

小豆色の髪をした少年、ギーヴと班のメンバー3人だった。

ルゥトとバーンドは皆が集まる場所に行き

気をつけ、敬礼をして


「a02班、ルゥト・デュナン、バーンド・ル・ミルセルク訓練生、ただいま到着いたしました!」


そう大きな声で告げる。

若い教官はこちらを見もせず


「了解した。すぐ班の列に整列したまえ」


そう告げる。2人は駆け足でサラの後ろに並んだ。


「やっと揃ったか。まったく待たせられるのはあまり好きではありません」


この訓練所に似つかわしくない可憐な声で不平が放たれた。

暗がりから真っ黒なドレスを纏った銀髪の女性がゆっくりと歩み出る。白い肌と黒いドレスが対照的でなまめかしい。


「さて、ここに集まってもらった班は他でもない。今年度の「早期卒業者選定要項」に合格した班に来てもらいました」


a02班の3人は驚く。

ギーヴの班はさもありなんという顔であったが。


「今年度は「一人も脱落者を出さなかった班」を卒業させるということに決めて選定していたのですが・・・まさか2班も残るとは思いませんでした」


ドレスの女性、第二王女リメエラはヤレヤレと言った顔でそう告げる。

なるほど。そう言われてみれば妙な噂もやたらとチームに重きを置いた訓練も納得がいく。

ルゥトはそう思った。


「さすがに8名も卒業を出すのは我が訓練所としてはぬるい、と舐められるわけにはいきませんので。4名、に絞らせてもらいたいと思います。評価を見ても落ちるべき人達が多いことですし」


そうa02班を見ながらリメエラは言い


「しかし、ここまで残ったのもまた事実、チャンスはあって然るべきという意見もあるので今から8名で相談して4名に絞ってください」


「んなっ!!」


ガイがうっかり声を出す。

それをリメエラは無視してつまらなそうに続ける。


「時間は2時間、方法は皆で決めて4人を選んでください。時間内に決まらなければこの話はなかったことにします。ではブランドー、後はお任せしますよ」


そういうとリメエラはは暗がりに消えていった。

ブランドーと呼ばれた若い教官は王女がいなくなるまでお辞儀をしていたが王女が見えなくなるとこちらを振り返り、


「以上だ。今より2時間、話し合うなり戦うなりをして4名を選出しろ。開始!!」


ブランドーは時計を確認した。



俺たちは一瞬沈黙する。

口を開いたのは眼鏡の美人、ミーニア


「チーム戦を希望しますわ。勝ったチーム4名が選ばれる。当然のことだと思いますけど?」


眼鏡を押し上げこれ以上相談の余地はいらないといった雰囲気を出す。

ルゥトもそれが妥当だろうと思った。

ガイを見る。ガイは少し考えているようだった。

サラは・・・ぼーっとしていた。

バーンドは・・・なにやら思いつめた表情で思案している。


「なんでもいいから早く終わらせてくれ。俺はこれでここからおさらばできるならなんでもいいぜぇ」


この間会った時は死ぬほどやる気がなかった彫りの深い男が今日はハイテンションのやる気Maxだった。

逆にすごく眠いのかサイドテールだった女性、(今は髪を括っていない)は半分眠気眼で話を聞いていないようだった。

元気のよかった少年も特に興味がないといった風でよそ見をしている。

ガイが腹を括ったように顔を上げ

ルゥトを見て頷く。

ルゥトもチーム戦の話を受けようと声を出そうとした時、バーンドが声を上げた。


「ぼ、ぼくはチームに関係なく1対1で対戦して勝った4名が残る方法を提案する!!」


少し上擦った声でそう主張した。

眉間に皺が寄り、あふれんばかりの殺意と敵意をむき出しにしてミーニアはバーンドを見る。

その殺気にバーンドは怯え、後ずさったが自分の意見を否定はしなかった。


「おもしろい!!!それいいね!!この中で強いのは・・・・うちのチームだもんね!!弱い者いじめは僕は嫌いなんだ」


そう先ほどまで興味のなさそうだったギーヴはその案に目を輝かせる。


「わたくしもそう思っておりました。さすがギーヴ様、弱きを救おうとするその心遣いにわたくし感激しました~~」


先ほどの殺意はどこへやらハート飛び交うミーニアと化した。

ガイは唖然としてバーンドを見る


「お、おい・・・」


そう声をかけようとした時、

バーンドはルゥトの正面に立つ。

真顔で意を決したように


「ルゥト・デュナン。僕は君に決闘を申し込む!」


そう告げた。

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