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第16.5話 新人強化訓練偏Ⅷ

 剣と共に落ちてきたのは少年だった。

少しくせのある短めの小豆色の髪。額には青く長い鉢巻を巻き、どこかのほほんとした表情。

身長はルゥトよりやや低い。少年としては大きい方だろう。訓練生の制服を着ている。

どうやら他の班の者のようだった。


「あらら、思ったより弱かったのかな?大きいからそれなりに殺りがいがあるかと思ったんだけど……」


 少年はあっけらかんとした感じでコカドゥライズの死体を見る。


「さすがはギーヴさま、コカドゥライズをたった一撃とはいつもながら感服してしまいますわ」


 いつの間に現れたのか蒼い髪をアップにまとめた眼鏡をかけ、キリッとした美人が恍惚とした表情で少年を見て腰をくねらせていた。その後方からさらに2人の人物が現れ


「へぇ、コカドゥライズだったのかよ。この辺にでるモンスターとしちゃ大物だったな。しっかし気配はそういう類のもんじゃなかったんだがなー」


 身の丈ほどの大剣を軽々と抱えたサイドテールの女性が周りを見渡す。


「どうでもいいからさ、戻りましょうよ。こんなとこで雑魚相手にイキッたところで何の価値もねぇ」


 面白くもなさそうにヒョロリとした病的な彫りの深さの陰気な男がつまらなそうにぼそりと呟いた。


「あなたたちっ!!ギーヴ様が華麗にモンスターを駆逐したというのになんで褒め称えないのです!!殺しますよ!」


 眼鏡の女性は今にも火を噴きそうなほど怒り狂っている。


「まぁまぁミーニア、今のはすげー雑魚だったんだよ。だからみんなそんなに驚いてないのさ。そこの君たちもそう思うだろ?」


 倒れたままこの茶番を見せられていたガイもルゥトも唖然として何も言えない。


「ほら、彼らもこんな雑魚相手に褒められてる僕を見て呆れてるよ。うわっ、なんか恥ずかしくなってきた。さ、さっさと行こう!!君たち邪魔して悪かったね!!旗見つかるといいね。じゃっ!!」


 そう言って少年は顔を真っ赤にして照れながらそそくさと去っていく。


「まぁ、なんてお優しいギーヴ様、雑魚どものピンチを華麗に救っておいてそれを全然ご自慢なされないなんて。このミーニア感動でもう・・・・」


 ミーニアは恍惚と腰を震わせながら悦びに浸っていた。


「あーいこいこ。あたいも少しは試し斬りしたかったわ」


 大剣を背中に担ぎ直しながら少年の後を追って去っていくサイドテールの女性。


「どーでもいいよ。さっさと帰ってくそして寝たい。いつまでこんな茶番に付き合わされんだ?まったく・・・」


 ブツブツ言いながら歩く陰気な男。

他のメンバーがさっさとこの場を去り、暫く一人で恍惚としていたミーニアはスッと無表情に戻るとゆっくりと振り返り、ここにいる全員に静かに殺意を向けた。

ゾクリとその殺意に反応して素早く立ち上がり、戦闘態勢に移行するルゥト。


「ミーニアーーー、おなかすいたー。ごはんにしようよー」


 大きな声で少年が呼ぶ声がすると、先ほどの殺気はどこへやらデレデレした顔でミーニアは


「はぁぁぁーーい、ギーヴ様、お待ちください。すぐにこのミーニア特製のとある塩味の効いたおにぎりを用意しておりますわぁぁぁぁ」


 そう言いながら弛緩した顔でルンルンステップで去っていった。



 チチチチチ……

遠くて鳥が鳴く声が聞こえる。

湧き水のせせらぎの音が大きく聞こえるほど場は静寂を取り戻した。

ルゥトは臨戦態勢を解き大きく息を吐きだした。危機が去ったことに安堵する。

だがあまりゆっくりとはしていられてない。まだ行軍訓練は続いている。次のチェックポイントまで時間がなかった。


「ガイ、立てますか?」


 倒れているガイに近づきながら声をかける。


「ゴホッ、なん・・・とかな。くそっ、なんなんだ? あいつらは」


 ルゥトはガイの状態が問題ないのを確認してからバーンドとa09班の人たちの元へ行き、気付け薬を嗅がせる。

全員意識を取り戻す。a09班は意識は取り戻したもののコカドゥライズの麻痺ガスのせいで体の痺れは取れずまだ身動きはとれないようであった。ルゥトはa09班の面々を平らな木陰に運んで寝かせ、水を与えて休ませる。リーダーである糸目の男が


「ごほっ……い、命びろ……いをした……あ、ありが、とぅ……。我々、は……ここまでだ。君……たちは早くぅ……先にいけ……」


 そう言って無理やり笑った。ルゥトは彼の手を取り強く頷いて


「緊急合図用の狼煙を上げます。それを見て救援がくるはずです。生き残りさえすればまたチャンスはあるでしょう」


 糸目の男を励まして彼らの荷物から緊急用の狼煙を出して火をつける。

ルゥトが介護をしている間に動けるようになったガイがバーンドを叩き起こす。バーンドは


「うーん、メイア、もうちょっと寝かせておくれ・・・ムニャムニャ・・・」


 などと言っていたのでガイは拳骨をを食らわせる。


 サラは最後に立っていた場所にぼーっと立っていた。

頭を抑えて蹲るバーンドを放置してガイはサラに近づき頭に手を置いて


「ばかやろう。あんなことで頭に血を登らせてんじゃねーよ」


そう言いながら優しく撫でてやる。微動だにしなかったサラは少し目を細めた。


「さぁ、時間がありません。急いで次のチェックポイントを目指しましょう」


 荷物を纏めたルゥトは全員を急ぐように促す。

最後にa09班の所に行き、もう一度声をかけてからルゥトたちはその場を後にする。強行軍で進めばまだ遅れを取り戻せるであろう。




 最終日、

訓練所のゴールに指定された門には続々と行軍訓練を踏破したチームが戻ってきていた。終了時間10分前、ルゥトたちc02班も無事全員揃ってすべてのチェックポイントを通過してゴールをくぐった。ガイもバーンドもふらふらで足元がおぼつかないようであった。サラはいつも通り無表情に皆の後ろを歩く。さすがのルゥトも今すぐ座りたい衝動に追われていた。

そんなゴール前で


「あれぇ??? おかしいなぁ。たしかに持ってたんだよ。どこに入れたっけなぁ」


 そういいながら荷物の中身を全部ひっくり返して何かを探しているバンダナを巻いた少年が一人。

その取っ散らばった荷物ををひとつひとつ丁寧に匂いを嗅ぎうっとりしながら整理して並べる眼鏡の美人。そんな2人をどうでも良さそうに


「早くしろよー。旗は一つはあるんだからさー。さっさとゴールしようぜ。もうねみぃよ」


 いつまでもゴールできないのを不満がるサイドテールの女性。

そんなやりとりを興味なさげにその場で座り込み眠ってる陰気な男。


「せっかく持って帰ってきたんだから2本とも出したいんだよー」


どうしても見つからず、ついに服まで脱ぎだすギーヴ


「んっまっ、い、いけません、こんなところで……ハァハァハァ……」


さらに興奮して鼻息が荒くなり、眼鏡が曇ってしまうミーニア。

そんなアホな茶番を横目に、突っ込む気力もなくルゥトたちはゴールした場所で整列して最後の審査を受ける。全員整列して教官に敬礼、ガイが大声で報告する。


「c02班、ただいま帰還いたしました。サー!!」


 そして地図とチェックポイントで得たマーカーをすべて提出する。

そこでサラがなにやらごそごそと胸元より1本の布を丸めた棒を差し出す。

教官はそれを受け取って広げ


「ほぅ、c02班、旗の持ち帰りご苦労。持ってきたのは……ロー訓練生か。うむ、貴様らは今日明日はオフとなる。ゆっくり休め。以上だ、解散!!」


 全員が背筋を伸ばして気を付けをし、敬礼をする。

そのまま回れ右をして行進して門をくぐり、所内まで入ってから急いで隅っこに寄り円陣を組む。


「おい……どこでさっきの旗を手に入れたんだ……」


 ガイがサラに小声で問う。ルゥトもバーンドもサラに視線を集める。

サラは無表情に振り返り、門のところで半裸になっている少年を指さす。

3人は指さされた少年に視線を送って納得がいったように頷き

そのまま、ガイとルゥトは手を上げてパァンとハイタッチをした。


「たしかに持ってたんだよ~~~」


 少年の悲痛の声がゴール前で大きく木霊していた。

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