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第16.0話 新人強化訓練偏Ⅷ

 最初のチェックポイントで別のチームと鉢合わせたが、ルゥトたちは武器を置き、交戦の意思なしと告げた。相手のa09班もそれに合意して争うことなく協調することを決めて、情報交換をする。

ルゥトは相手のリーダー格のひょろりとした糸目の男とお互いの地図を照らし合わせる。


「ふむ。ルートは違うようだね。スタート地点のここのチェックポイントだけが一緒のようだ。つまり他のチェックポイントでも別のチームと当たる可能性があるということか」


 糸目の男は地図を見ながらそう考えを述べる。


「そういうことですね。あと、旗の在り処が書いてません。チェックポイントのどこかにあるのか、またはそれ以外のところにあるのか・・・」


 ルゥトも思ったことを口にする。

今は出し惜しみするより意見の交換が最優先だと思ったのだった。


「確かに。だがお互いのルートを見るにかなりの強行軍だ。この進行で他の場所を探すのは無理だね」


 糸目も同意する。そして少し残念な顔をして


「しかし、うちはなんとか訓練についていけてる程度のチームでね。正直、旗はどうでもいいんだ。ペナルティがあっても4人でこの訓練を乗り越えるのが目的でね……うちは前に1人脱落させてしまってるから……」


そう寂しそうに糸目は言った。ルゥトも頷き


「うちも似たようなものです。このまま半年を危険なく乗り切りたいと考えています」


 糸目はうんうんと頷き


「そうだな。よければもう一度、この2日目のこことここのチェックポイントの間に湧き水がある場所があるんだ。ここで落ち合って情報を交換しないか?」


 糸目が提案する。ルゥトは少し考え、一応ガイを見る。ガイは無言でうなずく。


「わかりました。詳細な位置と時間の打ち合わせをしましょう」


 糸目の男たちと別れてからルゥトたちは森へ入り次のチェックポイントへ向かう途中、先頭を歩くルゥトに


「なんでいちいち俺に確認とんだよ」


 ガイが先ほどの謎の確認に不平を言う。


「ガイがリーダーっぽく見えますから。その見た目を利用しとかない手はないでしょう?」


 ルゥトはそう言いながら含み笑いをする。


「けっ!!面倒ごとだけ押し付ける気だな」


 そう面白くなさそうにガイはぼやく。


「ふん、真のリーダーはこのボクだけどな」


 息切れしながらバーンドが割り込む。


「ハイハイ」×3


 3人が声を揃えて呆れながら言う。


「んっなっ!!サラまで・・・」


 流石のパーンドもサラにまで言われたのはショックだったようだ。




 それから2日間の行程は特に問題なく進んだ。途中何度か別の班と遭遇戦はしたものの、大した損害も戦果も上げれることなく撃退もしくは撤退してその場を凌げた。


 装備も食料もトラブルなく2日目昼のチェックポイントを通過して、糸目班との合流ポイントへ向かう。森の中の少し開けたところに小川のような湧き水が沸いている場所があるらしい。ちょうど水の補給を兼ねての情報交換ということになりそうだった。

だが、合流地点が近づいてきた時


「ゴォゲエェェェェェェェェェェェェェ」


甲高い鳴き声が森に響く。先頭を進んでいたガイが立ち止まり、後方のルゥトたちも足を止める。


「まずいぞ!今の鳴き声、モンスターだ!」


 元冒険者のガイは鳴き声の正体に気づき、全員に緊張が走る。

すぐに臨戦態勢に入るため、無駄な荷物を下ろして武器に手をかける。

ゆっくり周りを警戒しながら鳴き声がした場所に近づく。

茂みをかき分け、森の中に開けた場所が見える。全員姿勢を低くして隠密姿勢を取る。

 開けた場所には全高4メートル弱ほどのニワトリのような形をした生物が、首を左右に振りながら周りを警戒している。

頭にはトサカがあり、嘴があり、しかし目がカメレオンのようにギョロギョロしている。そして骨格はニワトリなのに全身鱗で覆われており、蜥蜴の尻尾が生えていてどちらかと言えば爬虫類のようだった。


「やべぇ、コカドゥライズだ!!」


コカドゥライズ

ルゥトも知識だけは知っていた。

確か神経系のガスを口から吐き、生物を麻痺させてから生気を吸うモンスターだ。

生気を吸われた生物の死体がまるで石像のような形で発見されるため、石化能力があると昔は言われていた。


「チッ、相当厄介な相手だぜ。口から出されるガスを一息でも吸えば動けなくなるぞ。風向きに注意しろよ」


できればやり過ごしたいと思っていたガイだったが、コカドゥライズの足元に倒れている4人を見てさらに舌打ちをした。糸目たちであった。


「a09班の奴らだ。多分、急に襲われたんだろう。どうする?ルゥト」


聞くだけ無駄だろうとは思っていたがガイは一応確認をする。

2次災害を恐れるなら撤退もアリなんだがな。

そう口にしようとした時にはルゥトはすでに動いていた。


「だよなぁ」


ガイは嬉しそうにニンマリと笑い


「パーンド、サラと2人で俺たちがあいつを引きつけてる間に足元の4人を回収してくれ。頼んだぜ!」


そう指示してガイも背中の大剣を引き抜き、飛び出す。

先に動いたルゥトはコカドゥライズの背後に回り込み、携行した小剣2本を引き抜き、背後から首筋へ斬りかかる。堅そうに見えた鱗だが、たいしたことなく斬りつけた剣はいともたやすく肉を裂いた。だが太い首を落とすには至らない。


コカドゥライズは意表を突いた背後からの攻撃に、怒り興奮状態になり一瞬飛び上がる。

ルゥトはわざとコカドゥライズの視界に姿を晒して誘導する。

挑発されたコカドゥライズは地団駄を踏みながらルゥトを追いかける。

大きく息を吸い、麻痺ガスを吐き出す。

ルゥトは風上を利用して吐き出されたガスを回避する。

ガスを吐き出すコカドゥライズの背後から、今度はガイが大剣を振り上げて斬りかかり背中の翼骨の近くに大きく一撃を食らわす。

だがその場所は鱗が堅かった。剣は弾かれ、ガイは体勢を崩す。


「チッ!」


 なんとか態勢を立て直しながら地面を蹴り、ガイは風上へ体を移動させようとした。

だがコカドゥライズも馬鹿ではなかった。

ガイの行動を読んでいたかのように鱗に覆われた翼を大きく広げて旋回し、ガイの行手を邪魔をした。

ガイはこの攻撃を翼の下を潜って回避をしたが、翼を隠れ蓑にコカドゥライズの尾が追い打ちをかけるようにガイに襲い掛かる。その攻撃は予想外であったためガイは直撃を食らい、近くの岩に叩きつけられる。


「グゥ!ガハッ!!」


 叩きつけられたガイはその衝撃で胃の中の物が口から吐き出す。

強い衝撃のため、身体が硬直して動けない。ガイはコカドゥライズを見上げる。

正面のコカドゥライズは大きく翼を広げ嘴でガイを攻撃する体制に入る。捕獲する気はなく、確実に仕留める腹積もりのようだった。

コカドゥライズの大きな影に覆われ、ガイは死を覚悟する。

くそ、こんなとこでヘマをやらかすとはよ……。あとは頼んだぜ、ルゥト。

ガイは腹を括る。

そんなコカドゥライズの攻撃を阻止しようとルゥトは全力でコカドゥライズに突撃する。

だが、一歩、届きそうもない。ルゥトはさらに加速する。



 その瞬間



 突然、辺り一面に『死』そのものがこの場に重く圧し掛かり支配する。

最後の一撃をガイに叩き込もうとしていたコカドゥライズは、天を仰いだ状態でまるでそのまま息が吐きだせぬようにビクビクと痙攣して動かない。

 地を蹴り飛びかかろうとしていたルゥトもその恐怖に身体が硬直し、纏わりつく『死』のイメージに絡めとられ勢い余って地面に転がる。ルゥトはこれに似た状況を知っていた。地に伏した状態でこの状況の元凶であろうと思われる少女に視線を送る。


 そこにはあの時、受付で見た小さな少女、サーラシェリアが立ち上がっていた。


 赤い髪はまるで逆毛だったようにゆらゆらと揺らめき、長い前髪の隙間に赤く光る2つの双眸。吐き出される息がゆっくり白く揺らめいている。体中からあふれ出す気は『死』そのものを具現化したようにのそりのそりと蠢いている。その畏怖はすべての生ある者に死の恐怖を与えた。

 一番近くにいたバーンドとa09班の面々は泡を吹いて痙攣し気絶している。あのままでは心臓すらそのうち止まるだろう。


 そして『死』の恐怖を全開にした少女はゆっくりとコカドゥライズを凝視したまま歩みを進める。


一歩、また一歩。


 そのたびにコカドゥライズは動けない身体を何とかしようと激しく痙攣する。

その足元でガイもその光景に完全に呑まれていた。

歯は噛み合わずガチガチと震えている。少女を見ているだけで気絶しそうだった。

気を失ってしまえばなんと気が楽なのだろう。という誘惑に何度負けてしまおうかと考えた。ガイは震える唇を、カラカラになった喉を引き絞るようにして声を出す


「や……めろぉ。おま‥…えがそれ…いじょ……」


ルゥトもまたなんとか立ち上がろうと必死に手足に力を入れる。

だが震えが止まらない。力が入らない。

今すぐ重圧に負けて倒れてしまいたくなるのをなんとか堪える。

最後の気合いでルゥトが立ち上がった時


閃光のように1本の剣が飛来して動けずに天を仰いでいたコカドゥライズの脳天に突き刺さる。

それと同時に人影が落ちてきて雷が落ちたような、ドガンッ!! というものすごい音を立ててコカドゥライズが真っ二つになった。


その瞬間、辺りを支配していた『死』の気配は一気に霧散した。

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