第13話 新人強化訓練偏Ⅴ
ルゥトとガイは軽く談笑をしながら食事を済ませる。
さすがに疲労で睡魔に襲われ始めたガイ。
「そろそろ寝るか・・・。頼むから今日は朝まで寝かせてくれ・・・。今日叩き起こされたら俺は・・・」
ガイはすでにふらふらとしている。
そんなガイと寄宿舎へ向かう屋外の渡り廊下を歩いていると建物の外れで人の話し声と嘲笑、そして何かを殴るような喧嘩の音が聞こえてくる。
ルゥトとガイは顔を見合わせ音のする方向へと歩いて行く。
そこには4人の男たちが蹲る何かを皆で寄ってたかって蹴りを入れていた。
蹴られているのが人だというのはすぐ分かった。
ガイが嫌なものを見たという顔になり
「けっ」
そう大きな声で吐き捨て唾を吐く。
「あぁぁ!!」
その声でこちらを見ていたたぶん見張り役の男がガイに突っかかってくる。
よく見ると貴族の従者として入隊していた荒くれ者の一人だった。
「なんだ?てめぇ!!気に入らねーならさっさと通り過ぎろや!!」
そう言って自分より頭ひとつでかいガイに突っかかっていく。
さすがにこの訓練に残れるほどの実力を持つ男は自分よりでかい。ってだけでは怯まなかった。
その啖呵でカチンときたガイは眠気が吹っ飛んだのかこめかみに青筋が浮き上がる。
「あ?なんだ、てめぇ。大人数で一人を囲んで憂さ晴らししてるようなちいせぇ精神しかねーくせに吹くじゃねーか」
完全にやる気モードに入ったガイは突っかかってきた男との距離を詰める。
「大丈夫ですか?」
ルゥトはリンチされていた男の横にしゃがみ込み声をかける。
ガイたちに気を取られていたリンチしていた3人の男は突然背後に人が現れたのでギョッとする。
「てめぇ、いつの間に」
一番近くにいた男が焦ってルゥトに蹴りを繰り出す。
ルゥトはスッと動きその蹴りが伸びきる前に身体を割り込ませ相手の軸足を掬って派手に後方へ転倒させる。
男は一瞬のことで受け身が取れず昏倒する。
他の2人もルゥトに敵意をむき出しにして動き出す。だがその前にルゥトはすでにその1人の懐に潜り込み足を引っかけ顔を手で押さえてひっくり返す。その際に手で押さえた頭を地面に打ち付けて気絶させる。
あっという間に倒された2人をみて驚いてる最後の一人に低い姿勢で一気に近づき下から突き上げるように掌底を顎にヒットさせて意識を刈り取る。
3人目が倒れた時にガイが対峙していた男に頭突きをくれてダウンさせたところだった。
何発かもらっていて顔に青地ができていた。
「けっ。たいしたことねーな」
そう吐き捨てながらルゥトの戦果をみて唖然とする。
「・・・あっという間かよ」
ルゥトはリンチされていた男に改めて振り返る。
男は身体を引きづりながら立ち上がり
ルゥトたちを睨みつける。
おかっぱの貴族だった。
それを見てガイがまた露骨に嫌な顔をして侮蔑の笑みを浮かべて
「なんだぁ?飼い犬にお噛まれになってる最中でしたか。じゃれてた所を邪魔したのなら悪かったですな。貴族殿」
そう言うと半泣きの顔でキッと睨めつけて
「う、うるさいっ!!あ、あんなの一人でもなんとかできたのだ。いらぬ手助けをしよって」
そう甲高く叫ぶ。
それにカッとなったガイが
「なんだぁ!!てめぇ!!助けてもらっといてそれかっ!!続きは俺が痛めつけてやろうかっ!!」
拳を握りしめて貴族に近づいていく。
「ヒッ!!」
貴族は後ずさり腕で防御するように顔を隠す。
「ガイ、それくらいにしてあげましょう。早く寝た方が明日に響きませんよ?」
ルゥトはすでに部屋に帰ろうとこの場を離れていた。ガイもその声で怒りを鎮めて
「けっ、助けるんじゃなかったぜ。後味わりぃ」
そう言って貴族を睨むと踵を返しルゥトに追いつく。
貴族は目をあけると去っていく2人に慌てて
「くっ・・・ぼ、僕はバーンド、バーンド・ル・ミルセルク。お、覚えておけ!!この借りはいずれ・・・・」
去っていく二人にそう叫ぶ。ルゥトが一瞬振り返ったがそのまま去っていった。
「・・・ありがとう」
バーンドは俯き小さくそうつぶやいた。
翌日、日も上がる前に起床ラッパの音で寝ていた訓練生たちは一斉に起き上がり寄宿舎を飛び出し整列する。何人かが対応できずそのまま訓練所から放りだされることになる。
鬼瓦のような顔をした教官が全員の前に立つ。
「ふん。一週間でずいぶんと減ったな。だがここからが本番だ。今まではただの埃落としだ。今日からは4人一組のチームで動いてもらう。なにをするのも4人だ。チームメンバーはこちらで適当に作らせてもらった。今から掲示板に張り出す。確認をしてその順で並び直せ。時間は15分。かかれぃ!!」
そう叫ぶと全員が一斉に掲示板に目をやり自分のベッド番号、これが個々の番号になっている。
を探す。ここまで残るほどの者たちはさすがに行動が早く最後のバーンドがケツを教官に蹴られながら並び終えるまで10分少々だった。
「いまからその4人で訓練していくこととなる。追い落とすもよし、助け合うもよしだ。だが1日の訓練が終わるまでは必ず4人で終えろ。その後、無理な者はわしらのところまで来い。厳しい任地を用意してある。まぁここに残るよりは全然ましだがな」
そう言ってニヤリと笑った。
ルゥトは前後に並ぶメンバーを見る。
ガイ・フレアリザード
バーンド・ル・ミルセルク
そして受付会場でみた、死を纏っていた少女。
ルゥトは少しため息を吐いた。
訓練所の所長執務室。
ブランドーから資料を受け取りリメエラは目を通す。
「ふぅん。バロック商会の推薦なのね。
たいした経歴がないのが気になるわね」
そう言いながら訓練教官の第一次評価に目を落とす。
「・・・能力は上々。特に目立ってもいないが下というわけでもないと皆が評価しているのね。可もなく不可もなく」
それらに目を通し面白くなさそうにリメエラは書類を投げる。
そして資料を持ってきたブランドーに問う。
「再調査をしてみての感想は?」
ブランドーは一礼をして
「特には。上手く立ち回っているという印象です。ですが吐出した部分がないので埋もれて終わる。と思いますが・・・・」
そこで言い淀む。リメエラが眉を顰める。
「なにか思うところでも?」
そう言葉を続けるように促す。
「はっ、1つだけ引っかかったのが彼の居た部屋のメンバーの脱落率がほかより圧倒的に低いのです。例年なら落ちてるであろうと思われる者たちが何人か残っている」
それを聞いてメリエラはつまらなそうに。
「はん、つまんないことに気が付いたわね。・・・でもそれがもし、そいつのせいなら・・・あるいは」
そう言ってリメエラはもう一度資料に目を落とした。