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第12話 新人強化訓練偏Ⅳ

 かろうじて、ルゥトとガイはここまで残っていた。

ガイなどは何度か心折れかけて荷物をまとめようとしていたらしいが、なんとかしがみついていた。


 ここで一旦過酷な訓練から一時的に解放された。

今日の残り半日だけは初のオフである。

誰しもが自分のベッドに戻り眠りについてるであろう。

1週間でベッドという「我が部屋」にいた時間はわずか5時間にも満たなかっただろう。

横になった直後に招集をかけられて装備なしの登山行軍をさせられたのがトラウマでガイは自分のベッドに戻りたがらなかった。

そんなわけで2人は食堂でご飯を食べることにする。

食堂にはちらほらと人はいるが半分以上はうつ伏せて眠っていた。

ガイと同じようにベッドへのトラウマがあるものもいるのだろう。


 食堂は配膳はセルフだ。

ルゥトたちは調理場に今日の料理を受け取りに行く。


「ほぅ……なかなか面構えのいいのが残ってるなぁ」


 厨房で鍋を振るっていた白髪の男が声をかけてきた。

ガイは渋い笑顔で調理している男に


「なんとかな……じーさんの料理でもう少し頑張れる体力をくれよ」


そう軽口を叩く。


「かっかっか。俺の料理を食えば明日もばっちりさ。しっかり食え。そして生き残れよっ!!」


そう言って今しがた炒めた野菜をもりッと皿に盛ってくれる。ガイは訓練疲れで一瞬吐きそうな顔をしたが


「あんがとよ!!せいぜいがんばるさ」


そう言ってスープとパンを手に取り席に戻っていく。ルゥトも会釈をして野菜をもらおうとする。

じーさんはじっとルゥトを見る。ルゥトもその視線をしっかりと見返す。


「・・・ふん。なかなかだな。何者だ?」


コックの老人は出来立ての野菜炒めを皿にのせながら鋭い眼光を放つ。ただのコックとは思えない殺気に似た気配を出していた。


「ただの訓練生ですよ。おいしそうだ。では頂きますね」


そうにこやかに頂いた野菜炒めの香りを楽しんでお辞儀をしてルゥトは席に戻った。

白髪の男はしばらくルゥトを見ていたがすぐ陽気な顔に戻り次々とくる訓練生に料理を乗せて一声かける。何人かさばいたところで慌ててきた料理人と交代をして厨房をでる。

厨房の影から食堂を見渡し満足げに立ち去ろうとした時


「こんなところでなにをしておいでです?ハギュール少将?」


この訓練所に唯一似合わない赤紫を基調としたドレスを纏った銀髪の女性が廊下で厨房からでてきた白髪の男に鋭い声をかける。白髪の男はドレスの女性に目をやり、ふん。と鼻を鳴らすと


「お前さんがなかなかいい新人を回してくれんからな。こちらでリサーチしておこうと思ってな。今回は少しは使えるコマをもらわんとわしの所も困るでな」


先ほどまでの顔とはうって変わって貫録ある老獪な軍人の顔になり第二王女リメエラ・ル・ファルル・ブッシュデインと対峙する。


「あら、この訓練所の卒業生にケチをお付けになるのですか?少将。それは我が父の顔に泥を塗るのと同じ行為ですわよ」


そう冷やかな目でリメエラは少将を睨む。

白髪の軍人は顎に手を当て顎髭を触る。


「いやいや、卒業してきた士官はそれなりさ。

だが有能な人材が欲しいと思うのは指揮官の性だよ。

そうさな・・・ひとつ賭け、というかさっきのあいつ、ほらあそこに座ってる灰色の髪の若造だ。あいつが短期優秀者に選ばれたら・・・ワシにくれんか?

あいつが落ちるなら今後、お前さんのやり方に口は挟まんと約束しよう」


短期優秀者とは1ヶ月で正式に士官として配属するここの訓練を必要としないと判断された訓練生である。2、3年に数名は出てくる逸材だった。短期生はその後必ずと言っていいほど武勲を挙げた。

王女は訝し気な顔をして腹の底の見えぬ少将の顔を見る。


「・・・どういうつもりですの?彼になにかあるのですか?」


老人は両手を軽く上げて


「いいや、あの坊主がちょっと気になってな。できれば手元にほしいと直感的に思っただけさ。

だが、わしの眼が狂っていてアレが短期の器でないならわしも耄碌したと思って余生は静かに暮らすべきだなと思っただけさ」


そう笑いながら老獪な少将は言う。だがその眼光は鋭さを増していた。

リメエラは思案する。

この男がここまで言うのだから相当な掘りだし物か?いや、それともほかになにか策があるのか??


「あなたがそれほど気にかけるとなると私も気になりますね。この話は保留ということにしていただけませんか?」


王女は慎重だった。

今は昔ほどの力はないとは言え父の、一時は「皇帝の右腕」、とまで称されたこの老人には一目置いておいて損はないはずだ。


「なんじゃ。つまらんの。まぁ、でも正式に書面を出すとしよう。あいつが残ろうがここから落ちようがうちに回してもらうとするかの。じゃあ王女様、今日は別件のついでにちょっと覗いただけじゃて。また会いましょうぞ」


そういって老人は年季の入った素晴らしい敬礼をしてこの場を去っていった。


リメエラは老人の後姿を見送ると

食堂で食事をしている大男と灰色の髪の男を見る。


「ブランドー、あの男、知ってるかしら?」


彼女の陰で黙していた男にリメエラが問う。

入所式で司会をしていた男だ。

男は鋭い目で食堂を見て


「・・・いいえ、私は記憶にございません」


そう静かに告げる。


「そう」


リメエラは静かにうなずく。

ブランドーは私の眼の代わりに一週間の訓練の間、有望な者に目をつけさせている。彼のお眼鏡に適わぬ程度の技量の男をなぜ欲しがるのかしら?

王女はしばらく考えたが老獪なあの軍人の嫌がらせ、という結論でここは保留とした。

最後にもう一度先ほどの男を見て目に焼き付ける。


「・・・一応警戒しておきましょう。姉様の邪魔になってはならぬし、有望ならばよき駒となるのかもしれなせん。ブランドー、あの者の資料を明日までに用意しなさい」


そう言ってゆっくりと通路の暗闇に消えていった。

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