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王女の優美な朝

無事完結いたしました。

とても長い戦記物となっております。

我儘王女と有能執事の長い長い恋の物語でもありますので楽しんで読んでいただければ幸いです。

 シャーーーッ

というカーテンを開ける音でアウルスタリア王国の第一王女、キュリエ・ファルン・アウスルタリアはゆっくり覚醒する。

綺麗な顔の眉をしかめて寝返りを打ち、もう少し微睡みたくて布団を頭まで被る。


「姫、そろそろご起床の時間です。起きてください」


 ベッドの横に立つ黒いスーツの男がベッドで微睡む少女に声をかけ、ティーポットを軽く回すとベッドの横でモーニングティーをゆっくり注ぐ。

柑橘系のいい香りが部屋に漂う。


「・・・アールグレイね。それもいいけど今日はコーヒーがいいわ。淹れ直しなさい」


 布団からもぞもぞと出てきながらぼさぼさになっている透き通るようなブロンドの髪をワシャワシャと掻きながらキュリエは命令する。

本当はアールグレイの味がすでに喉を潤すのを想像して満足できるのを確信していたが、喜びで顔がほころぶのが癪に障ったので反抗するように命令する。

お茶を入れていた男、リーエントは手を止めて一歩下がって腰を折り


「申し訳ありません。すぐ準備いたします」


 そう謝罪をしてゆるりと部屋を出ていくが、ほんの数秒で台車を引いて戻ってくる。


「…早すぎやしない?」


 いつも通りすぎてうんざりした顔をするキュリエ。


「こういうこともあろうかと表に用意しておいたのです。ちょうど適温です、どうぞ」


 そう言いながらカップにコーヒーを注ぎ彼女に手渡す。

不承不承ながらに受け取るキュリエ。カップもほどよく温めてありコーヒーのいい香りがまだ寝ぼけている頭の中をクリアにする。

一口、口をつけてため息をつく。


「お気に召しませんか?」


 男は絶対に否定されないのをわかっていてわざわざ問うてくる。負けを認めるようでくやしいがどうせ否定したところで鼻で笑われるだけだ。


「いいえ、パーフェクトよ」


 そう告げる。部下の仕事ぶりを褒めるのも王者の務めと彼女は学んできた。

リーエントは畏まって腰を折りお辞儀をして


「もったいないお言葉」


 そう短く感謝する。さも当たり前だといった雰囲気はいつものことだった。

キュリエはカーテンが開かれた窓の外を見て思いついたように意地悪く笑い


「いいお天気ね。朝食の前に少し馬で走りたいわ」


 気まぐれにそう告げる。


「はっ、そう言われると思い、すでに玄関に馬を回しております。お召し替えの準備もすでにできておりますれば」


 相変わらずの用意周到ぶり。特に感慨もなくキュリエはゆっくりとベッドから降りる。

そして大きな鏡の前で控えるメイドたちのところまで歩いて行く間に、スッと彼女の後ろに立ったリーエントは素早く彼女の髪を霧吹きでサッと濡らし素早く彼女の髪をある程度整える。

 あっという間にキューティクル煌めく綺麗なストレートへと変貌する。そして一礼をすると出口へと滑るように移動して部屋を出る。


 キュリエはメイドたちの手で乗馬服へと着替える。

髪を整えられて少し化粧をされかけたがそれは断る。化粧は嫌いだった。いつまでもメイドたちは覚えない。

小さく舌打ちをする。メイドたちが怯えた表情になり、しまったと思ったが訂正するのは許されない。口をへの字に曲げたまま鏡の自分を見る。

実に不機嫌な顔だった。

こんな顔の女がいたら私は声かけないわ。キュリエはそう思った。


 準備にかかった所要時間は15分と言ったところだった。

これをあの男にやらせれば多分5分でできるのだろうと思うが、さすがに男性の手で着替えさせられるのは恥ずかしいと思ったのでさせたことはない。

準備ができたキュリエはメイドたちに目もくれず部屋を後にする。怯えたメイドたちは畏まり見送る。


 部屋を出るとリーエントがお辞儀をした状態で待っていた。

そのままリーエントを従えて玄関を通り外へでる。外には馬が2頭用意されていた。

どちらもしっかりとブラッシングされ美しい毛並み、馬の機嫌もすこぶる良好な感じだった。

キュリエはまたしても面白くなさそうに


「馬の手入れまでしてたの?リーエント」


 そう聞くと


「はっ。今日は少し時間がございましたので。たまにはこいつらと戯れておりました」


 リーエントが手入れをすると馬たちの機嫌がすこぶるいい。色つやもいいから一目でわかるほどだった。

キュリエは急にひらめき、いたずらっ子のような笑みを浮かべ


「狩り。今から狩りに出るわ。昨日川向うでウサギを見たの」


 キュリエがそう告げるとリーエントは特に驚くこともなく一礼をしてから天を仰ぎ、大きく息を吸って口笛を吹く。


「ピィィィィィィィィィィィィィ」


 暫くすると大空に黒い影が舞ってくる。

ゆっくり大きく旋回しながら下りてきて、リーエントが手を掲げるとその腕に舞い降りる鷹。


「姫、今日はシュナイゼルでかまいませんか?」


 彼の腕に止った鷹は、その腕を蹴って軽く空へ飛びキュリエの肩に移動する。

そして小さく鳴く。

キュリエは鷹に優しく微笑み、頭を撫でてやる。

その顔は年相応の少女の屈託ない笑顔であった。


「いいわ。この子は賢いもの。ランカイゼルは今日はいないの?」


 シュナイゼルを撫でながらその兄弟鷹を彼女は気に掛ける。


「あれは気まぐれですので、シュナイゼルがいるときはどこかで遊び呆けておりましょう」


 リーエントは空を見上げそう答える。

キュリエはこの兄弟鷹を見分けることができない。一度どっちがどっちかリーエントに聞いたが


「瞳がやや明るいく好奇心旺盛なのがランカイゼルでございます」

と教わったが見分けることはできなかった。

キュリエがリーエントに手を差し出すと、リーエントは生肉の切れ端を手渡してくれる。

彼女はそれをシュナイゼルに与えて


「シュナイゼル、狩りにいきましょう」


 そう言って頭を撫でてシュナイゼルが食べ終わると空へ解き放つ。シュナイゼルは力強く羽ばたき空へと舞いあがっていく。

キュリエはそれを見届けると素早く馬へ跨る。


「リーエント行くわよ。犬を放って」


 そう言うと彼女より後に動いたはずなのに

すでに馬上の人となりゆっくり先行して走らせていたリーエントが振り返り


「すでに放ってあります。では参りましょう」


 そう答える。

この男に隙はないのか。そう思いながらキュリエは馬の腹に蹴りを入れて走らせ始める。

彼女の上空をシュナイゼルが追うように滑空してキュリエを追い抜いた。

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