Part 2-1 怨恨の矛先
City Road near Lashkar Gah, Helmand, Southern Afghanistan,13:24 Jul 13th 2013
2013年7月13日13:24 アフガニスタン南部ヘルマンド州ラシュカルガー近郊市道
荒れ地に伸びるアスファルトの上を砂塵を巻き上げ走る5台の乗用車がいた。
前2台と最後尾1台はテクニカル──武装ピックアップトラック中央続くもう1台はトヨタのランドクルーザーだった。
「国際治安支援部隊から治安権限を移譲された傀儡政権がこれ以上力を手にするのは好ましくない」
そう告げた後席の左に座るのはターリバーン勢力のナンバー2でありウラマーと呼ばれる鼻下から顎まで白髪で覆われたイスラーム法学者ムハンマド・カーリム・アフマドだった。
「有志連合が7年ぶりに手を引く今、来年の第3回大統領戦で巻き返せなければ我々はまた北部に追い返されるでしょう。現政権を叩くには元首暗殺などの遠回りな方法ではいけないと思います」
アフマドの右に座るのはターリバーンきっての軍師と言われる戦闘最高指揮者アブド・サルサビル・ハッサン・アルマスリという幾多のテロ行為で国際指名手配され1千5百万ドルの報償金をかけられた男だった。
車列は市道からかろうじて車の通った跡の残る側道に入るとその先の小さな村を目指した。
村といっても人口が少ないだけでその奥に似つかわしくない高い塀で囲まれた屋敷があった。
その屋敷の鋼鉄製の正門前に先頭の車が止まるとカラシニコフを胸の前に下げた顔を布で覆い隠した男が
助手席に近寄り短いやり取りの後、携帯電話で連絡をとると門がゆっくりと開かれ5台の車が並んで入ってゆく。
車5台が一列でも余裕で受け入れられる建物前の広場があり、車列が停車すると前後のテクニカルから武装した男らが降り立ち散らばり塀の中へ鋭い視線を向けた。
ランドクルーザーの後席左右ドアが開きアフマドとアルマスリが降り立ちアフマドが2階建ての屋敷玄関に向かい歩き始める。右手ドアを閉じたアルマスリが周囲の警戒状況を一瞥しアフマドの方へ車の後方を回り込み追いかけた。
それはベテランの直感。
法学者を追う途中でアルマスリはいきなり脚を止めると上空を仰ぎ見た。
流すようにあるはずのないものを探し目を游がせ彼は額に右手のひらで庇を作り一点を凝視し動かなくなる。いきなり彼はアフマドへ向かい走りだし彼を後方から押し倒し背を体で覆い隠した。
瞬間だった。
屋敷が凄まじい爆轟と共に火焔を広げ敷地外周の塀の殆どが外へ向かい弾け吹き飛んだ。
瓦礫の間にウラマーを身を挺して守った男が血だらけの頭部を上げ高齢の法学者を揺すり必死で声をかけ続けていた。
「ムハンマド! 死ぬな! ムハンマド・カーリム・アフマド!!」
その自分の声が今も耳に残っていた。
アブド・サルサビル・ハッサン・アルマスリは屋敷に爆弾を投下しウラマーと彼の家族を皆殺しにした国の地を踏んでいた。
彼の見つめる先には荒れ地の一部を直線的に均した130フィート(:約40m)幅の整地が3千3百ヤード(:約3018m)先まで延びている。その荒れ地を照らす日差しがアフガニスタンに比べると弱々しいとアルマスリは思った。
この国の日差しまでが気に入らないと彼は感じた。
「次の出撃準備をしておけ」
アルマスリがそう告げると後方のぼろ布を多数縫い付けてあるネットの下から声が返った。
「いつでも大丈夫だ。24/7(:24時間1週間で365日いつでもの意味)という契約だろ」
3人のパイロットが8時間交代で各自の機体を受け持つ。
「ああ、支払った分の働きをしてくれたらいい」
ネットの山は遠方からだと荒れ地に突き出た草の生えた隆起に見えたがその岩床はレーダーや赤外線すら遮蔽するインド・ニューデリーに本社のあるラクシャ・シュプリーム社の軍用カモフラージュネットだった。
その6つのカモフラージュに隠された2つの支援車輌と3つの航空機──それに1つの弾薬の山。
インドから貨物船を使い不正に輸入された連邦航空局未登録の民間機──2機のFー5EタイガーⅡと盗まれたFー35CライトニングⅡ、それに18発の9M39イグラ1V対空ミサイルが次の獲物を待っていた。