Part 1-4 憤怒
DoD(/Pentagon)100 S Washington Blvd Arlington, VA. 13:39 Sep 27th 2013/
White House Washington D.C. 13:59
2013年9月27日13:39 バージニア州アーリントン サウス・ワシントン・ブルーバード100番地 国防総省/
13:59ワシントンDC ホワイトハウス
マニラ封筒を小脇に抱いた濃紺のユニフォームを着た空軍少尉が廊下を急ぎ足で歩いて来るとドアの前に立ち止まりノックをして入室を許可する声が聞こえたのでドアを開いた。
彼女の入室に秘書官が顔を上げたので少尉は尋ねた。
「ウェルシュ大将は御在室でしょうか?」
「タンクルームで統合参謀本部《J C S》会議に出席されています」
礼を述べ廊下に出た少尉はタンクルームだとちょっと遠いと覚悟して廊下を走り始めるとすれ違う誰もが振り向いたりそうでない者も視線を振り向けた。
数分後、タンクルームへたどり着いた少尉はノックして入室すると敬礼し長テーブルについていたウェルシュ大将の横へ息も乱さずに歩いて行き大将の耳元に顔を近づけ小声で報告し始めた。
「会議中、申し訳ございません大将。1232、現地1232アラバマ上空で例の戦闘機らしきものが民間機を撃墜したものと思われます。CIAによりますと同民間機に大統領の身内の方が搭乗されておりました」
報告を終えマニラ封筒を大将の傍らに差し出した少尉は下がると敬礼しドアへ向かった。
マニラ封筒の中身は超高解像度の軍事偵察衛星から撮られた写真数枚で、見つめたウェルシュ大将は一瞬思案した。
どのみちすぐに情報は広まる。同室する統合参謀本部《J C S》会議のメンバーに聞こえるのを承知で報告する事にして議長の国防長官に声をかけた。
「国防長官、国内で問題が発生しております。一週間前に盗まれた最新鋭戦闘機がアラバマで旅客機を撃墜したものと思われます」
それを聞いた6人の男らは色めき立った。
「それは確かなのか?」
ウェルシュ大将は腰を上げテーブルに身を乗り出すと写真数枚を半出ししたマニラ封筒を国防長官の方へ手渡した。
写真を引き抜いた国防長官は俯瞰で撮られたミサイルを発射するFー35ライトニング Ⅱ の姿を見て眉間に皺を刻むと空軍大将に尋ねた。
「盗まれたと初めて聞いたぞ、マーク」
遺体の確認がされるまでは、とニック・バン・ベーカー大統領はソファーに深く座り天井を見つめており、両袖の執務デスクに載ったキーフォン(:ビジネスフォンの米での俗称)からカールコードを引き伸ばし・ザカリー・マクナマラ大統領補佐官が国家運輸安全委員会長官と電話回線でやり取りをしている内容も彼の耳には入っていなかった。
「────わかりました。搭乗者名簿の確認と犠牲者の中にキャシィ・ベーカーが確実に確認された時点でホワイトハウスの私──首席補佐官のザカリー・マクナマラまでお願い申し上げます。いえ──そのお言葉を大統領へお伝えするには時期尚早ですのでお気持ちだけお伝えします」
受話器を下ろしたザカリーは呆然としている大統領へ声をかけた。
「ニック、国家運輸安全委員会は事故調査に向かったばかりでまだ乗客名簿も確認しておりません。ミス・キャシィの安否調査が進み次第にこちらへ連絡が入ります。それとNTSB長官が心中を察する旨を申しておりました」
「──どれくらいかかるんだ?」
「1時間前後は必要と──」
数千マイルも離れた敵国陣営の核ミサイルの発射が数分でわかるシステムがありながらひと1人の安否が分かるまでどうしてそんなにもかかるのだとニックは怒りを抱いた。
2人の会話に執務室横の壁に置かれた大型液晶テレビの音声が割って入った。
『──見間違いではないのですか? 偶然に近くを飛んでいた航空機だとは思われないんですか?』
『いや、わしゃはっきり見たんだ。その軍用機からミサイルが飛んで行くのを──』
『事故を起こしました旅客機と高度違いのルートを飛んでいたこの方が目撃したものが何だったか!? 大きな証言だと思われます。続いてイーストステーツエアラインの運航責任者────』
画面から視線を振り向けた大統領補佐官はニック・バン・ベーカーが睨みつけている事で彼が次に何を言い出すのか予想してしまった。
「ザカリー、空軍大将へ繋げ」
頷いた・ザカリー・マクナマラはもう一度受話器を取ると国防総省の番号を空でプッシュし相手が出るのを待った。
『はいこちら国防総省国防長官府事務局レニー・マクガイバー少尉です』
「ホワイトハウス大統領補佐官の・ザカリー・マクナマラだ。パレス執務室からかけている。空軍大将マーク・ウェルシュへ繋いで欲しい」
『お待ち下さい』
30秒近く待たされ相手が出た。
『マーク・ウェルシュです。申し訳ない』
いきなり謝罪され首席補佐官は眉間に皺を刻み大統領へ受話器を渡した。
「今、報道で旅客機に軍用機がミサイルを撃ち込むのを目撃したと流されていた。空軍筋で何か知っているのか? 大将!?」
『はい、閣下。実は1週間前に戦闘機が1機行方不明になりまして。CIAと合同調査を────』
いきなり大統領が激昂した。
「そんな事を聞いておらん! 空軍が関わっているのか!?」
『いえ、我が軍のパイロットではないのですが、使われた戦闘機は我が軍のものです。海軍向けの最新型のFー35Cでありまして海軍パイロットの運用初期訓練機の1機です』
ニック・バン・ベーカーは数回荒い呼吸を繰り返し押し殺した声で大将に命じた。
「即刻、関係資料を持ってこい!」
受話器を力を込め下ろすと大統領自身がプッシュボタンを押し始めた。繋がった時点で相手側は通話元の電話機を知っていた。
『はい、閣下。中央情報局です』
「ブライアン・コックス長官を出してくれ。大統領が至急だと伝えろ」
『お待ち下さい閣下』
10秒きっかりでCIA長官が通話口に出た。
「ブライアン、空軍の戦闘機が盗まれたのを知っておったのか!?」
『はい、大統領。マーク・ウェルシュ空軍大将から事案連絡があり調査中です。我が国の空軍関係者でないのは判明しております。ですが2367便を攻撃したのは画像解析で我が国の最新型戦闘機の1つ────』
「来い、ブライアン!!」
怒鳴りつけ大統領は受話器を下ろした。直後報道番組が新たな事実を突きつけた。
『その2367便に新型の空軍機がニアミスを犯したと無線連絡があり機種はF────』
テロップにはバーミングハム=シャトルズワース国際空港管制官とあった。事故機の残骸が発見される現場まで47マイル(:約76km)にある大きな空港だった。