Part 4-3 銀をつかむ
Analytical Bureau Winston Nisel Director's Office C.I.A. H.Q.(/Headquarters) McLean, Va. 16:13 Oct. 27th 2013
2013年9月27日16:13バージニア州マクリーン中央情報局バージニア州マクリーン中央情報局分析局ウィンストン・ナイセル部長オフィス
向けられた銃口にテロ臨時対策分析班リーダーのポーラ・ゲージ課長は銃から視線を上げ上司──ウィンストン・ナイセル部長の意図をつかもうと双眼を見つめた。
まるで物を見つめる様な無感情さから現場で殺しを専門にする連中を思い起こした。
局内でいかなる理由があれどこれは殺人罪にあたる不当な行為だと彼女は思ったが、曲がりなりにも情報畑でのし上がった男が簡単に殺人罪を被らない事ぐらい容易に想像できた。
後付けでどんな理由もこじつけるだろう。
「他の部局に支障がと仰るのなら仕方ありません。他の分析手段を当たってみます」
課長がそう告げると銃口がすぐに下げられた。
だが次は警告なしに撃つだろう。そうポーラは自分に言い聞かせた。
「お手数おかけしました」
そう告げポーラはドアへ半身振り向いてノブに手を伸ばしたが背中から撃たれやしなかと扉閉じるまで冷や汗が吹き出し続けた。
無事に廊下を歩き始めた課長は謀略の匂いと抗いきれぬ屈辱を感じた。
「暴き潰してやる。どんな理由があれど旅客機を堕とし民間人を多数巻き込んで」
吐き捨て、その前に絡繰を知る必要があるとポーラ・ゲージは思った。臨時のテロ臨時対策分析室に戻ると分析局に所属する知能局の手練れ11人が旅客機が落とされた理由を探していた。
旅客機を落とす方法は幾らでもあるだろう。
なぜ合衆国軍の戦闘機を使おうなどと。まるで怨念に突き動かされているようだわとポーラは思ったが、見えぬ関連性が必ずあるはずだと想定した。
ナイセル部長が庇うのは自身か、それとも局長か────いや、続けて堕とされている旅客機の共通項が公になると利害か地位に支障があるんらCIA以外の匂いがする。
課長は部局に戻りかけ廊下を歩いて来る女性に気づいた。コーデリア・カレッジ──アフガン・チームの優秀なアナリストだった。
ポーラが頷くとコーデリアが歩み寄って来たので課長は脚を止めた。
「ハーイ、コーディ。調子はどう? ターリバーンが我がままし放題で困ってない?」
「お陰様で、ポーラ。上手く手懐けています。ちょっとよろしいでしょうか?」
急に元の部下が険しい表情になったのでポーラは振った目線でついて来なさいと命じて自販機が置かれたコーナーへ歩いて行きIDで野菜ジュースを2本買い1つをコーデリアに渡しあくまで休憩中のたわいない話しを装うために向き合わずにジュースを飲み始め尋ねた。
「どうしたの?」
「実は、ターリバーンの武装指導者の1人が2機のFー5E戦闘機と20基の携行防空ミサイルをイランから購入した形跡を見つけ出したのです」
「物騒な話ね。現地の空港警固の担当者に知らせたの?」
「ええ、それは済ませました。ですが────」
コーデリアが眉根寄せ唇を歪めた。
「何かつかんだの?」
「ええ、戦闘機は大まかに分解され、ミサイルと共に闇ルートで輸出した形跡があります。その購入搬送手配した男が我が国のピンポイント攻撃での生き残りなので、何かの報復戦の端緒ではないかと」
ポーラ・ゲージは瞳を細めた。コーディが心配するのはその2機の戦闘機と複数のミサイルがとんでもない事に使われようとしてるという予感からだと思った。ポーラはふと旅客機を堕とした軍用機の事を思い出した。だがあれは我が国の空軍が盗まれたFー35Cのはずだった。2機のF-5という戦闘機とは違う。
繋がりはないと課長は思った。
「この事案を誰に報告すれば良いのか不安なんです。とても恐ろしい事の前触れでなければと」
関係のないアジアの事案だ。
前触れ────本当に関係ないか裏を取れと内なる心が迫っていた。
「コーディ、ピンポイント爆撃の事でどれだけつかんでいるの? 作戦名は?」
「今年7月13日に アフガニスタン南部のヘルマンド州ラシュカルガー近郊で欧州でのテロを指令しているイスラーム法学者ムハンマド・カーリム・アフマドと武装指導者のアブド・サルサビル・ハッサン・アルマスリ抹殺のため合衆国空軍の無人機がピンポイント爆撃を行いました──」
報復の理由付けとしては妥当だとポーラは思いじっと話を聞いていた。
「──ですがアブド・アルマスリ抹殺をしくじり、彼がFー5EタイガーTwo戦闘機2機と9M39イグラ1V対空ミサイル20発を購入し梱包しどこかに送ったと思われます」
「思われる? 裏を取ってないの?」
元上司に問われコーデリアは補完した。
「いえ、運んだものが大きく輸送した運送業者を簡単に割り出したのですが、危ない橋を渡りイランから購入した武器をわざわざどうして国外に売ったのか意図がわかりません」
生き残ったアブド・サルサビル・ハッサン・アルマスリという男は法学者という指導者を失い戦闘機はどうかと思うが対空ミサイルを手にしながらテロにどうして使わなかったか。
「その空爆の作戦名はなんと言うの?」
「アルテミスの矢ですが────」
名を耳にした瞬間ポーラは心臓が跳ね上がった。繋がった。恐らくは大統領とオールダム上院議員がその承認を行っている。そうなの──そういうことなの。法学者を殺された私怨を晴らそうとしている。
「コーディ、よく聞いて。その作戦承認に関わった要職者全員のリストを直ぐに私へ。2機の戦闘機とミサイルは合衆国に運び込まれているのよ。2機の旅客機が堕とされたことは知ってるでしょ。それに使われているわ」
瞳を丸くし聞き入る元部下にポーラは警告した。
「ナイセル部長には気づかれぬこと。彼はアルテミスの矢作戦に関してなにか不利益になる事実を隠しているから。いいわね」
コーデリアは頷くと2人は別れてそれぞれの部署に戻った。
ポーラ・ゲージはアルテミスの矢作戦に関係した政府要職者はすぐに見つかると踏んだ。問題はそれを政府が承諾したことが外部に知られて誰がどのような不利益を被るかということ。
一見、政府と軍は非正規戦に先んじていることになる。多少の付随被害は織り込んでのいるだろう。それなら承認が公になり何の不都合があるのか。
1つ。過剰攻撃の誹りを受ける。
1つ。誤爆がありその責を受ける。
1つ。上院で否決された作戦。
1つ目はいつものことだわ。軍もカンパニーも言い逃れるのに長けており上院は寝耳に水という態度を取ればいい。そうでなくともテロの非道さをキャンペーンするだけ。2つ目はちょっと厄介だわ。軍の誰かに新しい名前と社会保険番号与え生活を保証しスケープゴートにすればメディアも勢いをなくすし、それが元で次の大統領選が不利になることもない。
3つ目が問題だった。一旦上院で否決されたものを一部の上院議員が許可し軍が推し進めたという可能性。
一部の作戦成功さえマスメディアに公表されていないことを鑑みるとその線が濃厚だった。
なら──取る手は1つ。
伝手のある上院議員に話を持ち込むだけだわ。