Part 4-2 少佐(MAJ)
149FW(/Fighter Wing) SKF(/Kelly Field Annex) JBSA(/Joint Base San Antonio) San Antonio, TX. 11:45 Oct 18th 2012
2012年10月18日11:45 テキサス州サンアントニオ・サンアントニオ共同基地ケリーフィールドアネックス第149戦闘空団
コクピットの準備と確認をしグランドクルーが後席の少佐と短い握手を交わしヴィクトリア・ウエンズディの方にも手を差し出した。
ヴィクは笑顔で握手するとサングラスの下で彼が微笑み、放した手で親指を立てて見せ梯子を下りてそれを取り外した。開いたままのキャノピィはどうするのだと彼女が上半身を捻り振り向きシートレールの際から後ろを見つめると直後、少佐がヴィクに命じた。
『キャノピィを下ろしていいぞ、少尉』
ヴィクは慌てて身体を戻し、左肘の後ろにある回転レバーを回そうと右手を胸の前に伸ばし、そうじゃないと気がついて左手を上げ左側面前方のスイッチを下げた。
すぐに軽いモーター音が聞こえだしキャノピィが落り始めた。
完全に閉じて右計器パネルの肩にあたる部分に並ぶ警告灯の1つが消灯した。
「エンジン始動時刻は、少尉?」
尋ねられヴィクはラインナップカードを見た。11時55分になっている。パネルの航空時計と自分の腕時計で後4分ばかりだと思い答えた。
「1155です、少佐」
『よし、エンジン始動をやらせる。覚えているか?』
覚えるもなにもマニュアルに眼を通しただけでこの機体のジャンプシートに座ったのだって初めてだった。
「たぶん──」
『たぶん、か。じゃあ声に出して操作しろ。間違ったらどやしつけてやるから』
その言いぐさを聞いてヴィクは酸素マスクの下で一瞬微笑んでパネルを見回した。Fー16Dブロック30Hのフロント計器パネルは計器自体は少ないがスイッチ類が目白押しだった。
手順を思いだしながら彼女が見回していると、グランドクルーの1人が機首10ヤード前に立ち右手を頭より僅かに上げ上に伸ばした人さし指を一回転回して見せたのでヴィクは大きく頷いて右手の親指を立てて見せ了解したと返事をした。
すぐにそのグランドクルーが横に走り安全な距離を取った。
「少佐、起動します。まずメインパワースイッチ─バッテリー・ポジション、ランプ類点灯確認」
言いながら彼女は左手コンソール中間左側の電源操作パネルのトグルスイッチを手前OFFから中間のバッテリーに入れ、左計器パネルから順に見回してランプ類がすべて灯っているのを確認した。そうして先のスイッチへ左手を伸ばしさらに先へ押し込んだ。
「スイッチをメインPWに」
直後、少佐がインターコムテストでグランドクルーに声をかけるのが聞こえていたヴィクは電源操作パネルの1つ先にあるジェットエンジン始動パネルの最も遠いJFSスイッチに人さし指をかけた。
「JFS──ポジション2」
告げたのと同時にスイッチをOFFからスタート2へ手前に落とし入れると途端にゆっくりとした重い音でエンジンが回り始めた。
「スロットル──アイドル」
左コンソール上にあるスロットルにスイッチ類に触れない様に手を乗せ軽く押し出しノッチを乗り越えさせアイドル位置で止め異常が出れば即座に引き戻すため手のひらを乗せたまま待機した。
「左手スロットル上で待機」
正面計器パネルの右手端に縦に並ぶタービン回転計とファンタービン入口温度計の指示針が上昇するのを見て油圧計なども見て警告灯群とデータ入力ディスプレイにエラー表示がないのを交互に見て行く。
ただシャフトが回転するだけのジェットエンジンの立ち上がりがこんなに遅いとは思いもしなかった。Be109メッサーシュミットのメカニカルな12気筒の方がもっと立ち上がりが早い。
油圧がかなり上がりグランドクルーの1人が近づいて来たのを気づき顔を振り向けると彼が主翼の方から目視検査を始めた。垂れ下がっていた動翼すべてがいつの間にかニュートラルになっていた。
JFSが自動で停止するとメインとサブの発電機が回りだした。その合間に入れておかなければならないスイッチ類が入っているのを確かめてゆく。それらをすべて呼称確認しながら少佐の小言を聞くこともなくヴィクは調子づいた。
『航法類の設定もやれるか、少尉?』
「了解、何なりと少佐」
返事をした直後スロットルのスイッチ群右前方の三段スイッチを操りNAV、空対空戦闘モードで次々にアヴィオニクスを素早く設定し始めた。左MFDに長距離対空兵器AIMー120を入れ索敵に利用する。対地攻撃は兵装ともないのでポッド類の設定の必要はなかった。右サイドスティックの表示切替スイッチを振るだけでAIMー120を呼び出せる。
「NAV、A/A設定終わりました。お次は?」
『完了だ。チェックイン時刻は?』
問われヴィクはラインナップカードで確認した。まだ3分ある。
「1210です」
"SKF Tower, Viper UAN, Listo, Permiso de taxi."
(:SKF管制、ヴァイパー1準備完了、タキシング許可を)※一部スペイン語
何て言ってるの!? ヴィクトリアは英語以外で少佐が早口で話しだし眼を寄せたが、管制塔からの交信が英語で聞こえた。
’Viper-!? SKF Tower, VSPEAK SLOWER.’
(:ヴァイパー? SKF管制だ。ゆっくり話してくれ)
"SKF Tower, Viper UAN, Listo, Permiso de taxi."
(:SKF管制、ヴァイパー1準備完了、タキシング許可を)
’Viper-!? SKF Tower, SAY AGAIN.’
(:ヴァイパー? SKF管制、もう一度お願いする)
"SKF Tower, Viper UAN, I REPEAT. Listo, Permiso de taxi."
(:SKF管制、ヴァイパー1、繰り返している。準備完了、タキシング許可を)
’Viper-1 MAJ ! SKF Tower, If you want an answer, you must speak in English. Deliver recording tape to base commander.’
(:ヴァイパー1 少佐! 返事が欲しければ英語で話してくれ。指令に録音聞かせるぞ)
"SKF Tower 1LT, Is that what you want me to do? I'm not taking you tonight"
(:SKF管制、中尉、ヴァイパー1、いいのか? 今夜連れて行かないぞ)
’Viper-1 MAJ ! SKF Tower, W...Where is it !?’
(:ヴァイパー1少佐、SKF管制、ど、どこにですか!?)
"SKF Tower 1LT, Viper-1 Piedras Negras."
(:SKF管制、ヴァイパー1、ピエドラス・ネグラスだ)※国境沿いの街
’Viper-1 MAJ ! SKF Tower, ACKNOWLEDGE. Traffic-Delta to Runway 16.’
(:ヴァイパー1、SKF管制、許可します。誘導路デルタを滑走路16へ進んで下さい)
許可が出た時点でヴィクは少佐に尋ねた。
「少佐! いつもそんな交信してるんですか!?」
『ああ、民間管制区では止めとけよ、少尉。お前もピエドラス・ネグラス行くか?』
「やりません! し、行きません!」
怒鳴り返し、ヴィクはサイドスティックの|ミサイルステップ《MS L S T E P》ボタンで前輪操作を選択しスロットルを60%までゆっくりと押し込んで左ペダルを踏み込みFー16Dの向きを滑らかに振った。