Part 4-1 不明機
AWACS E-3 D Sentry 960th AACS(/Airborne Air Control Squadron) Over Northwest Williams B Bankhead National Forest, Birmingham, AL. 15:32 Sep 27th 2013
2013年9月27日15:32 アラバマ州バーミンガム北西ウイリアムBバンクヘッド国有林上空第960空挺航空管制飛行隊早期警戒機 Eー3Dセントリー
14のコンソールの1つ全域制空管制卓で作業にあたるハワード・レミントン少尉は290マイル(:約467km)の警戒円内に出ては消える殆どの民間航空機の中から1機の最新型戦闘機が上空に出るのを探るのが任務だった。 アメリカ上空を飛ぶ民間機は実に多い。アラバマ州の限られた領域でさえこの一瞬旅客機だけで68機も空中にいる。さらにこれに低速のレシプロ機やヘリコプターを入れれば簡単に100を越す。
旅客機は固有の識別信号を発しているのでレーダースクリーンに映し出されると識別された固有のアルファベットが付される。だが290マイルを探るすべて表示させるととんでもない事になる。縦になったレイセオンの20インチ・モニターの暗い画面に緑の小さなクロスが蠢く事になる。まるで夏場
の薮蚊の大群を見つめているような気になる。
通常、警戒空域を指定し、特定の動きをする──例えば特定の空域に向かって来る航空機を脅威判別フィルターで抜き出しその航空機だけをモニターできるし自動で敵機として登録し強調表示と追尾が可能だった。
さらにモニター上で範囲を指定し拡大すると民間機か軍用機または未確認とアルファベットの1字で識別されレーダーが捉えた順に通し番号が割り振られ同時に移動するポイントマーク際に表示される。
その個別のマーク番号を指定し全域警戒を続けながら絞り込んだビームを飛ばす事もできる。絞り込んだビームは航空機のレーダー反射率やエコーの波からエンジンの数やそのブレード数までわかる。そこから自動でデータベースと比較され航空機の機種など詳細が得られる。
問題はそれらが最大警戒空域ですべての航空機に対し可能だと思われている事だった。
実際は違う。
様々な条件で、近距離でも詳細不明機となるし、遠距離でも小さな巡航ミサイルを拾える事がある。場合によってはカモメの大きさの鳥さえ捕らえられる。
新型の兵器はより小型化しレーダーで捕らえ難くなっており、早期警戒機は機器をヴァージョンアップし対応し続ける。
だがそこへさらに混乱をもたらす航空機が登場してきた。
第5世代といわれるステルス戦闘機だった。
これらの最新型は距離にもよるがレーダー反射断面積がゴルフボール大にまで落ちる時がある。そうなれば戦域で、余分なエコーを切り落とすフィルターにより、敵機が盲点になりリスクとなる。
早期警戒機の新しい改修ブロックには、第5世代に対応するため、反射率が低く移動速度の速いエコーを振るい残すルーチンがある。
それにも例外が存在した。
地上付近を移動する小さなエコーは、地上から反射してくる多量のごみに紛れ込み判別ができない。ちょうど直射日光の中心にあるものが眩しく見えなくなると同様に。
それでも機器の改良により巡航ミサイルの大きさなら遠方からでも見つけだす事ができた。
だがゴルフボールは上空でも地上付近でもゴルフボールだ。
第5世代戦闘機は極めて近い距離に来るまでクラッターに隠れフィルターに弾かれた。
ハワード・レミントン少尉は全域を見ながら、強調されるマークがないか絶えず神経を張り詰めて監視にあたっていた。
時折、不明機が見つかるとトラックボールを操りカーソルボタンを向けエリアをズームし、彼は正面の狭い奥行きのデスクに置かれた通常の5分の3の大きさのキーボードで通し番号を指定し、ビームを絞り込み送りつける。
十分なエコーがあれば機種が判別でき、警戒としてマークするか、しないかを手動で指示する。
大統領から緊急指示を出された国防長官は国防総省に命じACC──航空戦闘軍団のアメリカ本土のティンカー空軍基地で保有運用する27機のAWACSからアラバマ州を含め近隣6の州に8機を飛ばし、旅客機を堕とす強奪されたF35Ⅱの捜索に躍起になっていた。
だが警戒任務にあたるハワード・レミントン少尉は任務があまりにも後手で、これでは砂浜に落とした色の違う砂つぶを捜してる様だと思っていた。
見つかるわけがない。
その思いが違う形で裏切られた。
警戒空域の際を、未確認航空機が低空で駆け抜けているのを彼は見つけ、絞り込んだビームでスイープした。
軍や民間機の識別信号も発してないFー5戦闘機。
すぐに彼はクルーチーフの少佐に声をかけた。
「問題が発生しました」
他にコンソールを操作員と共に見ていた少佐がレミントン少尉の傍らに来て尋ねた。
「どうした少尉」
「方位225距離245海里(:約454km)不明機に絞り込んで掃引しましたらFー5みたいなのですが圏内でいきなりエコーが消えました」
「高度は?」
「常に700フィート(:約213m)を維持していました」
戦闘訓練空域でもなく、飛行制限高度を下回っていると少佐は気づいた。
「ルイジアナ北部だな。仮想敵機じゃないのか、IFFは?」
「識別信号を出していませんでした」
少佐はSAMV──エコーの反復スパース漸近最小分散信号処理の推定処理が誤っていなかったかと考えたが、ルーチンにそぐわない変数値を扱った場合、コンソール・モニターに警告表示が出るのを知っていた。だが少尉はビームを絞り込みドップラー高度スキャンで掃引したので不明機はクラッターでなかった可能性が非常に高い。
それに絞り込んだスイープは相手機に知られている可能性上、さらに高度を落とした事が想定された。その様な飛行は合衆国本土の飛行圏内では明らかに異常だった。
セントリーの通常任務は役割は、空中監視、指揮統制通信(C3)であったが、緊急の作戦指示は盗まれたFー35CLightning Ⅱの警戒索敵で、指令書にはF-5の記載はなかった。だが早期警戒機要員の常で掃引圏内に入った不明機を放置しておくつもりはなかった。
スイープした記録すべてはリンク16の通信網でリアルタイムに国家軍事指揮センターへ上げられており、IFFを切るもしくは故障した該当機を即座に調査しているはずだった。少佐はそれでも警戒範囲を西へずらす判断を下し機長に飛行ルートの変更を指示するために操縦室へ向かった。
その判断が、盗まれた戦闘機を早期に捕らえる結果になろうとは少佐は思いもしなかった。