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אריה האלוהים 神のライオン  作者: 水色奈月
Chapter #3
14/19

Part 3-4 機密

Temporary Terrorism Countermeasure Analysis Group C.I.A. H.Q.(/Headquarters) McLean, Va. 15:55 Oct. 27th 2013


2013年9月27日15:55バージニア州マクリーン中央情報局(CIA)テロ臨時対策分析班



 イーストステーツエアライン2367便767ー300旅客機が盗難戦闘機に狙われた理由。



 それを至急探し出せと2時間余り前にブライアン・コックス長官からトップダウンの指示があり、ポーラ・ゲージ課長(GM)下に臨時編成された対策分析班の11人のもの達は全員が分析局(D A)に所属する知能局(D I)とも呼ばれるCIAの収集する様々な情報の分析にあたっているもの達だった。



 CIAのほとんどの職員は採用選別時点でその知能指数(I Q)の高さが評価のポイントとなる。合衆国国民の平均値よりも7から15ポイント高い。その中から特に分析能力の高いものが分析局に配属される。



 作業は数多の星をつなぎ合わせ可能性という未来の星座を見抜ける洞察力が要求される。そこに新たで膨大な星が加わったのは分析班が機能し始めて2時間20分後だった。



「アメリカングローバルエアライン895便A350XWBが堕とされたわ。2機の全乗員・乗客・運営航空会社役員を含む職員を突き合わせ共通項リストを作成。次にその範囲を親族に拡大。やる事は膨大です。あなた達の能力を見せなさい!」



 そう命じてポーラは両手を叩き合わせ激を飛ばした。それからわずか7分後に作業にあたる1人が声を上げた。



「課長、2367便には大統領の親族が搭乗していましたが──895便にもオールダム上院議員の親族が搭乗者名簿にあります」



 要人当人でなく、その親族。もちろん大統領は移動に専用機を使うので民間機搭乗は有り得ないが、1つの小さな見過ごせない共通点だとポーラは思った。



「大統領とオールダム上院議員が直に関わった過去3年の政策──国内外政策をリスト化しなさい」



 その指示がアフガニスタンの武装勢力を担当する別部門の分析官の上げる情報と繋がるとは彼女は思いもしなかった。



 分析は乗員・乗客、運営航空会社関係者の資産状況にまで及び始めていたが、調べる範囲が末節に進むにつれ共通する点を見抜く作業が泥沼に入り込んだ様に進展しなくなる。



 だが昨今、人工知能(A I)開発が進み、共通項のリスト化が各段にはかどる様になっていた。様々な情報は局や部門をまたぎCIAのメインサーバーの1つに集約され、自動で共通するものをランク分けし際限なくリスト化してゆく。ギリシャ神話に登場する百の眼を持つ巨人の名──アルゴスと名付けられたそれはあたかも人の繰り返される体験による記憶強化を下支えする脳内のニューロンを繋ぐ重厚なシナプス連接を思い起こさせる三次元の情報の繋がりだった。



 大統領と上院議員の親族が2機の旅客機に搭乗していた事が、大きな共通項として分析サポートソフト・アルゴスにより指摘されるのに分析官から報告が上がりわずか10分もかからなかった。



「課長、分析サポートが大統領と上院議員の最近の政策決定について指摘しています」



「何の政策なの?」



「アフガニスタンにおける政策で、空軍のアルテミスの矢という作戦に絡んでいて開示できません」



 報告を受けポーラは1台の端末からデータベースに作戦名を打ち込み検索を掛け、自分のIDを入れ資料開示を命じたが、パスコードを要求された。



 自分の閲覧資格では確認できないと彼女は知った。



 ポーラ・ゲージ課長(GM)は一瞬考え臨時編成分析班を後に部屋を出て、真っ先に分析局ウィンストン・ナイセル部長の部屋を目指した。彼なら都度対テロ分析に関わっており、情報閲覧に協力してくれるものと思われた。



 急ぎ足で向かう彼女が通路で数人の職員とすれ違っても誰も視線すら振り向けなかった。情報局では他部門へ急ぐ分析官が頻繁に見受けられる。よほど関心のあるものでなければ声をかけるどころか見向きもしない。



 彼女がナイセル部長の部屋の前に立ちノックをしようと右手を上げた寸秒、ドアの反対側から声があり彼女は怪訝な表情を浮かべた。



「入りたまえポーラ」



 ドアを開くと部長はデスクの横に立っていた。



「ウィンストン、撃墜された2機に大統領とオールダム上院議員の親族が搭乗しており大統領と上院議員の最近の関連を調べアフガニスタンに繋がる可能性が」



 彼女が説明を一区切りするまでナイセル部長は押し黙っていた。



「それが高度機密情報にアクセスしようとした理由か」



 アルテミスの矢の中味を見たわけでなく、軍事作戦の名称とアフガニスタンという中東一地域を結びつけただけだった。それをなぜ非難めいた口調で言われるのだとポーラは苛立った。



「しかし部長、旅客機撃墜テロの原因を追求する様に指示されたのは長官です。そのために必要なら情報開示をお願いしたい」



「アルテミスの矢は一連の高度な外交的予防処置作戦の1つに過ぎないが、1つがおおやけになることで合衆国が国際的にたたかれる可能性がある」



 外交的!? 予防処置!? ポーラは嫌なものをそこに感じ取った。だが所詮しょせんCIAの準軍事工作の一部ですら抑止力としての荒事だと彼女は承知していた。 時にCIAは一国の政権転覆すら工作を行う。何を今さらと食い下がった。



「ウィンストン、あなたが隠される理由を何かは存じませんが、この際、関係ありません。合衆国国内で旅客機がテロにより堕とされるという異常な事態収拾をはかろうとするなら、この話を長官に持ち込むまでです」





「君のその子供じみた愛国心が国益を損なうんだよ」







 ウィンストン・ナイセルはそう告げると上着の内からワルサーPPSを引き抜いて銃口を向けてきた。












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