Part 3-3 2nd Lt. 少尉
149FW(/Fighter Wing) SKF(/Kelly Field Annex) JBSA(/Joint Base San Antonio) San Antonio, TX. 11:05 Oct 19th 2012
2012年10月17日10:12 テキサス州サンアントニオ・サンアントニオ共同基地ケリーフィールドアネックス第149戦闘空団
「──よってコクピット内の酸素供給装置は機動が4G以上になると耐G加圧モードによりパイロットの耐G性を補い意識を維持させようと切り替わる。この装置は耐Gベントからコンバット・エッジ・システム──ヘルメット、酸素マスク、耐Gスーツへ与圧調整を行い──」
教鞭を続ける少佐の声が頭の中をぐるぐる回り続ける。
ヴィクトリア・ウエンズディは胡乱とした眼差しを教室前のホワイトボードに向けていた。
基地に来て初日に予備役訓練パイロットとして申請し色んなものを受け取った。パイロット・スーツもあったが、マニュアル類の多さに彼女は眼を丸くした。
何で600ページもあるマニュアルが数冊もあるのだと恐れを感じた。パラパラと捲ると細やかな指示と解説や参考図絵が並び、それらを混乱させる様にいたるところに例外事項が記されている。飛ぶのも例外かとビッキーは皮肉った。
ジェット戦闘機パイロットがこれらすべてを頭に入れているはずがないと彼女は思った。
そして3日目も技術指示マニュアルでの座学、座学、座学! 20時間余り通しでコクピットだけの講義を受け続けていた。まだエンジンや動翼の説明も受けていないしエンジン始動手順すら教わっていない。
Fー16に触らせてもくれない。
これではシートに座る頃にお婆さんになっている。
熱心に講義を受け続ける他のもの達がどうなっているのかとビッキーは顔をしかめた。
Fー16C/Dのマニュアルを適当に捲ると飛行制御コンピューターのセクションを見つけ飛ばし読んだ。
バイパーはすべての動翼が速度、高度、迎え角に基づく可変リニア制御による逸脱した飛行状態に入り込まない範囲での連携制御がされているらしい。最大での条件でもプラス9Gを越さない様に操作を反映する。
機動限界だけれど構造強度は実際、もっと高いと思った。だけれど連続したGに堪えれないのは肉体限界の方だった。それが一般に9Gとされているが、ビクは実体験からもっとそれが高い事を知っていた。瞬間的なら人はもっと高いGに堪えられる。
レシプロでもスタントの最中に11、12Gはザラだった。
誰かエンジニアにリミッターの外し方を教わりたいとニヤケた。
「何が可笑しい、少尉!?」
「機上酸素発生装置の警告灯が灯ったらキャノピィを少し開いてリフレッシュしていいのかなと」
少佐に問われ、ビクは真面目にとんでもない事を答えた。
「酸素発生装置が不調をきたした場合、予備酸素供給装置──プレナムから供給される。少尉その供給可能時間は?」
「パイロットの呼吸数により5分以内です。切れる直前に右グレアシールドの警告灯が点灯します」
「それはどこにある?」
「計器パネル右肩の警告灯群最下段5灯目です」
「よろしい。ただし少尉飛行中キャノピィを開くのは600ノット(:約1111km/h)以下で脱出プロセス時だけにしろ。首が飛ぶぞ」
ビッキーが首の前で手のひらを水平に振ると皆の笑い声が広がり彼女は微笑んで頷いた。
食事を終わらせ格納庫を覗き込んでいたビッキーは背後から声をかけられ驚いて振り向いた。
「少佐──」
「少尉、君はいささか若く見えるが幾つなんだ?」
「女に歳を聞くんですか?」
「まあ、書類上の年齢は確認したが8歳は嵩上げしてる様に感じる。その──もっと若いだろう」
ビッキーは両肩をすくめ答えた。
「教えたらヴァイパーに乗せさせてくれますか? いいえ、乗せてくれたらお教えします」
「皆、いずれ上に行かせる。どうして焦る?」
「飛ばすためにここへ来たんです」
「そうか──。少尉明日、覚悟をしておけ」
その含みある通達にヴィクトリア・ウエンズディは満面の笑みを浮かべた。




