Part 3-2 照合
Boeing 767-300 East State Airline #2367 Crash Area Slick Ford RD The William B. Bankhead National Forest, AL. 15:11 Sep 27th 2013/
C.I.A. H.Q.(/Headquarters) McLean,Va. 15:20
2013年9月27日15:11 アラバマ州ウイリアムBバンクヘッド国有林スリック・フォード・ロード イーストステーツエアライン2367便767ー300墜落現場/
15:20 バージニア州マクリーン 中央情報局本部
標準的な乗用車の部品数はおおよそ30万あると言われる。それに対してジェット旅客機ボーイング767ダッシュ300の部品数はおおよそ310万ある。機体サイズの割に少ないのは大きな部品がかなり含まれるからに他ならない。
地上の墜落現場では、その部品の内、多くは部品が組み合わさった形で発見されるので点数は減る。
また墜落に直接関わる部品は限られてくるのでさらに少なくなる。
だが現場で事故調査を行う場合、広範囲にランダムな形で散ってしまった部品の種分けと発見位置情報などの記録を取り、まとまった形で保管するのは容易ではなく、多くの人手と時間を要し早期に中間報告がなされ、月日が経ち最終報告がなされる。
13時16分にウイリアムBバンクヘッド国有林の墜落現場に到着した国家運輸安全委員会アラバマ支局局員のまずの仕事は現場保全をしている地元警察との打合せで、遺体・遺品を捜索するメンバー、広範囲に散った部品の写真撮影と発見場所の記録を取る。
その合間に墜落時の飛行状況を詳細に記録したブラックボックスの捜索が行われ、極めて初期の段階に大まかな墜落原因を特定し、原因究明のために必要があればすべてのパーツを広い整地された場所もしくは屋根のある大型倉庫に原型復帰に近い形で移動される。
2時間近くNTSBのアラバマ支局課長のトラヴィス・マスグレイヴはベテラン部下のエイベル・コールマンを従え機首、主翼、動翼、尾翼、エンジンなどを大まかに見て回った。
エンジン・ナセル──外板類が、機体主要部分──胴体などからかなり離れた似通った場所、進路手前から見つかった。
767は高度を取った状態で第1と第2エンジン両方の推力を失った事が想定できた。
コクピットの右側残骸を腕組みして見つめてトラヴィスにエイベルが声をかけた。
「何か気に病んでるな」
「ああ、ここの調査を命じられた時に支局長が軍用機との接触を言っていたんだが、この時間になっても軍から誰一人来ないのが変だと思ってな」
「まあニアミスだったのかもしれんさ。まだうちのもので旅客機以外のパーツを見つけていないしな」
トラヴィスがポケットから折り曲げたジップロック(:ナイロンファスナー付きビニール袋の商品名)を取り出しそれをエイベルの前で振ってみせた。
「樹脂片1つで────」
言いかけてエイベルは口を噤んだ。飛行中に貨物からエンジンにものが入る事はまずありえない。あるとしたら前方客室の窓が割れ機内のものが吸い出されエンジンが巻き込んだ可能性だ。
だがそれもエンジン・ナセルに多数あった内側に捲れた小穴を解釈できない。
「もしかしたら軍の誰かが理由を知っていて傍観して────」
トラヴィスがそう言かけていると彼のセルラーの呼び出しメロディーが鳴りだし、話しを中断し胸の内ポケットから取りだし通話元を確認し通話アイコンをタップした。
「はい、トラヴィスです。支局長、何ですか? ──え!? コロラドで? 本当ですか? ええ、ペンタゴンが──わかりました。あっ、それとエンジン1基の低圧タービンに767のパーツでない半透明の樹脂片を回収しました。気になるので届けさせます。何なのか調べて頂けますか」
通話を終わるとエイベルが尋ねた。
「国防総省からだと? コロラドで軍用機が堕ちたか?」
尋ねながらのエイベルが懐疑的な表情でいるのをトラヴィスは見つめた。
「いや、旅客機が堕ちたと報せてきたらしい。どうやってそれを知ったか伏せてあるそうだ。気に入らんな。墜落原因がミサイルなら軍の演習で使われたものが誤って命中したか──」
そうトラヴィスが言葉を句切るとエイベルが否定的な意見を述べた。
「おいおい、2発も誤射で当てたことになるぞ」
それは確率的にありえないだろうとトラヴィスは思い残された想定を口にした。
「あとは国外からのテロが考えられる。サンプルをどこに出すか。FBIかDoDか────」
トラヴィスは握りしめていたセルラーの画面に触れ着信履歴からリダイヤルした。
合衆国中央情報局は国内外を含め3万を越える人員で構成される。
そのバージニア州マクリーンに新たな本部をおく庁舎には多くの局や部門があり、長官や役員の所属する事務局を筆頭に、大きな局5つに分かれその1つ──分析局の下に情報の収集分析、作戦立案の部門がある。
地域ごとに分かれる情報収集管理担当官の1人──西アジア・ロシア問題情報統括官(/IANRWA)の下に中近東、アフリカの各地域ごと数十名のスタッフが専従の情報収集分析を行っているが、中でもアメリカ軍の海外展開中または可能性が大きい地域もしくは国の担当官は現地政権関与が絡み合衆国国防総省と密に連絡をとり情報提供を相互に行っている。
それでもDoDは長年CIAと予算獲得で競い独自に情報収集分析の局──国防機密サービスを運営している。
それら競争背景があり、中東部門アフガニスタンの担当官達の仕事には力が注ぎ込まれ膨大なヒューミント情報が集まる。
多民族の長年の紛争国アフガニスタンでは政権汚職や腐敗が蔓延り、市井は現地語パシュトー語でターリバーンと発音するイスラム教武装組織を頼りにしている。
ターリバンの担当官であるコーデリア・カレッジは現地要員から上がってきている多量の書類をデスクに重ね困惑していた。
今年7月13日に アフガニスタン南部ヘルマンド州ラシュカルガー近郊で合衆国空軍の無人機プレデターが行ったピンポイント爆撃以来、生き残ったアブド・サルサビル・ハッサン・アルマスリという男の動向を探っていた。
アブドが買い付けた物資が困惑の種だった。
武器商人を通じイランから2機のFー5E戦闘機と20基の携行防空ミサイルの9M38。戦闘機は機銃弾も購入しており対空兵器と共に政権の航空機移動か北部同盟、米軍への攻撃に使われる可能性があったが、アブドを含めその後の活動が報告として上がって来てなかった。
コーデリアは報告書にあった9M38が、ロシア製の9K38イグラのミスタイプだと思ったが、念のため東側の武器リストを丹念に調べ始めた。
9M38は9K38イグラの攻撃ヘリ搭載型の改良機種だと彼女はこの時点でまだ気づいていなかった。