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אריה האלוהים 神のライオン  作者: 水色奈月
Chapter #3
11/19

Part 3-1予備役

Stonewall County Airport Aspermont, West TX. 13:30 Oct 15th 2012/

Texas Air National Guard 149FW(/Fighter Wing) - F-16 Flying Training Unit SKF(/Kelly Field Annex) JBSA(/Joint Base San Antonio) San Antonio, TX. 10:12 Oct 17th


2012年10月15日13:30 テキサス州西部アスペルモント ストーンウォール・カウンティー空港 /

10月17日10:12 テキサス州サンアントニオ・サンアントニオ共同基地ケリーフィールドアネックス・テキサス州軍第149戦闘空団F-16訓練団



 ザカライアが娘の様子を見に来たのはこの頃元気がないと妻のクラリッサがこぼすように彼に相談したからだった。



 ヴィクトリアは時間さえあるとストーンウォール・カウンティー空港の格納庫(ハンガー)に入りびたる。大概は整備士兼空港管理のデイヴ・アルドリッチの手伝いをしてるか、空港近辺でBe109メッサーか182Sスカイレーンを飛ばしている。



 その飛行機好きがここひと月飛んでないとデイヴも言っていた。



 お抱え運転手がドアを開いてくれてリムジンの後席から下りたザカライアは格納庫(ハンガー)の方へ無言で歩いた。



 開かれたままの格納庫(ハンガー)正面が見えてくると駐機した8機の端にあるドイツ製レシプロ戦闘機の正面に丸椅子に座り広げた両脚の間に両手を下ろし椅子の前に手のひらをついてじっと三枚のプロペラスピナーを見つめている娘に気づいた。



 ザカライアは声をかけずにビクの背を見つめていると、娘が時折ぶつぶつと何か言っているのが聞こえ、彼は何を言っているのか気になりそっと近づいた。



「──そうだよね。お前が悪いんじゃないよね────うん、もっと柔軟で強靭で、力強さが──」



 何の事だとザカライアは眉根を寄せた。大事な1人娘が壊れかかっているのか?


「ビッキー」



 娘が小言を中断し顔を振り向けた。



「ダディ、どうしたの? セスナ使う?」



 彼は遠まわしにせずに単刀直入に問いかけた。



「お前、今、誰と話していたんだ?」



「メッサーと話してた」



 擬人化──子どもによくある縫いぐるみと話すのと同じだとザカライアは思いたかった。鋼の縫いぐるみだ。



「その──お前、よくそうやってBe109や182Sと話しするのか?」



 ザカライアはできるだけ娘を傷つけないように言葉を選んで尋ねた。



「いつもじゃないよ。ときどき、本当に時々。この子達が話しかけてくるの。最近、メッサーがついてゆけないとこぼすようになって」



 ビッキーはまたメッサーシュミットに顔を戻しスピナーを見つめながら説明した。



「ついてゆけない? どういう事なんだ?」



「ああ、ダディ。セスナには無理させないから泣き言言わないけれど、メッサーは私が荒っぽいとよく文句言うの」



 荒っぽい? 確かにビクはBe109でよくスタントをやっているが、まさかストレスで独り言を言うようになったのかとザカライアは不安になった。



「ビク、お前の操縦は確かにアグレッシヴだが、機体限界を越えるような事はしてないだろう」



「してない? メッサーにダディを乗せて飛んだ事ないからね。この子がバラバラにならないように手加減してるの」



 彼は娘が新しい機体を欲しがっているのかと思った。きっとスタント専用機だ。



「お前、ジブコエッジが欲しいのか?」



「ん? あぁ、あれはあれで楽しそう。でもすぐにメッサーの様に風になれないと音を上げる」



 風になれない? 激しいスタントの事を言っているのか? ジブコエッジといえばレシプロスタント専用機だ。それが物足りないと娘は遠まわしに言っているのか?


「じゃあ何が欲しいんだ?」



「ねぇ、ダディ。ダディの伝手つてで空軍のジェット機に乗れないかな? 乗るだけでいいの。欲しいなんて言わないから」



「お前、借りたモーターバイクや車に乗るようには簡単じゃないぞ。座学やシュミレーターで学んで初めてタンデムの操縦席に──」



 ビクが開いた手のひらを上げ言葉を制した。



「知ってる。ブルーエンジェルスの連中に聞いたから。彼ら機種ごとの適性や訓練受けて山ほどの書類にサインして許可をもらって飛ばしてるけれど、ライセンス持ってない事も知ってる。計器飛行や夜間飛行なんかのFAAライセンスぐらいしか持ってない事も知ってるの。戦闘機飛ばせるのに民間空域でビジネスジェットすら飛ばせないのよ」



 ザカライアは腕組みして考え込んだ。



 伝手つてはあるが、恐らくは適性で跳ねられるだろう。いいや、一度タンデムの後席に乗りそれでビクは満足するかもしれない。



「できない事もないが──ビク、本気で言っているのか?」





 問いかけた瞬間、娘が笑顔で何度もうなづいた。











 陽の上りだした早朝に屋敷を出て5時間あまり、テキサス州の南部サンアントニオという人口150万の大きな街に到着した。西部開拓時代より商工業の発展と共に年間1千万の観光客を迎え入れるヒスパニック系白人の多い大都市。



 その都市の中心区に滑走路を1本持つサンアントニオ共同基地ケリーフィールドアネックスがあった。



 基地規模は小さいものの利用する2つの部隊──1つが空軍予備役の通称アラモウイング──第433輸送空軍部隊と、1986年から機種転換しFー16のパイロット育成を担う第149戦闘空軍部隊がある。



 パイロット育成として同部隊隷下(れいか)182dスコードロンを訪れるのはアメリカ空軍新兵パイロットと州軍予備役パイロットに限られ技術向上維持に専従し戦闘という呼称はあるものの実戦には参加しない。



 リムジンのドアを運転手が開いてくれて車から下り大きく背伸びしたヴィクトリアへザカライアが声をかけた。



「いいか無茶だけはやめておけよ。それとくれぐれも伝手つてだと言わないように。知事が困る事になるからな」



「うん! わかってる。予備役パイロットとして楽しくやるから」







 そう返事した頭上を2機のFー16Dが低空で駆け抜け見上げたヴィクトリア・ウエンズディは宿舎の方へ振り返った。












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