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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: M:SW

 私はいつも、ヘラヘラした顔をしていました。自分では、そんなつもりはありませんでしたが、皆がそう言うから、そうだったんでしょう。


 人の話を真剣に聞いていないとか、悲しい事があったのに悲しそうじゃないとか、人をバカにしてるのかとか、そんな事はないのに、そう言われてしまうと、何だかそんな気にもなってしまいそうで、私が説明しようとすると今度は言い訳はいいとか、どうせ悲しんでないんだろうとか、結局腹の中でも笑ってるに違いないとか。


 そう言って、殴られるからもう説明するのはやめました。殴られて腫れ上がった顔になってもどうやら私はヘラヘラした顔をしているようで、毎日毎日同じ事の繰り返しです。

 


 どうしてでしょうね。私の話を真剣に聞こうともしない人が、私の悲しみを分かろうとしない人が、わたしの腫れ上がった顔を見て笑ってる人が……わたしにそれを求めるなんて。

 


 いつからか私の心にはもう、何の感情も無くなりました。悲しみも悔しさも怒りも、あらゆる感情は……どこへ行ってしまったのでしょう。どこにもないのです。


 だけど私は、皆をどうやら不快にさせてしまうこの顔を、剥ぎ取る事に決めました。自分の顔に未練なんかありません。むしろ、顔なんかない方が良いのです。だから私は、顔を剥ぎ取る事に決めたのです。

 



 痛みは感じるものですね。感情がなくとも、愛着がなくとも、どういう訳か、痛みで気が狂うかと思いました。


 それでも、これならもう、誰にも不快な思いをさせず、殴られる事も無くなるのではないかと思うと、心は少し落ち着いたのです。



 それなのに、どうしてでしょう。皆が非難したヘラヘラした顔ではなくなったのに、今度は私を恐れ逃げていくのです。殴るどころか誰も、近寄る事すらなくなりました。

 わたしは、わたしは一体どうすればよかったのでしょうか。『わたし』という人間を理解してもらいたい、いいえ、そんな大それた願いなんかではなくただ、ただわたしの話も聞いて欲しかった。どうしたら聞いてくれるのか……誰もそれを教えてはくれませんでした。わたしは何を、どこで間違えてしまったのでしょうか。


 わたしは結局、一人ぼっちになってしまいました。


 けれども殴られ続けるよりは、良かったかのかもしれません。



 ふふっ。


 笑う事が出来た。

 殴られる事がなくなったおかげなのか、感情がどこからともなく溢れ出るようで、あぁこんな気持ちだったのか、わたしにはこんな思いが有ったのか……と、懐かしいような新鮮なような感覚はすぐにわたしを満たしていきました。

 とても尊く、大事にしなければならない。そう、思えたのです。

 これだけは、守らなければ。今の、この気持ちを決して失う訳にはいかない……。わたしにはもう、わたししか残されていないのだから。


 どうせわたしは一人。誰もわたしに近寄らない。

 

 結局どうせ一人。この世に何億人いようともそれは変わらない。

 


 それなら……


 

 わたしの顔を剥ぎ取ったナイフで、みんなの顔も剥いでしまえばいいのではないかしら。

 わたしを殴った人たちも、顔を剥いだらわたしと一緒じゃないかしら。そうしたら、みんな一人ぼっちになるでしょう。



 あぁ楽しみ。皆はどんな顔をしてあの痛みを感じるのかしら。


 誰の顔から剥いで行こうかしら。皆わたしを見ると逃げてしまうから、きっと追いかけなくてはならないわ。まるで鬼ごっこね。捕まえられるかしら。


 

 こんなに心が沸き立つのは初めてかもしれない。楽しみで楽しみで、なんて素敵。皆があの痛みを感じる様を想像するだけで……




 さぁ、誰から行こうかしら。

  

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーと言えばホラーでしょうし、純文学の一形態だと言えばそうとも思えます。 つまりは絶妙のバランスですね。お見事。 何と言うか、イメージ的には、昭和初期とか……そんな感じですね。横溝正史と…
[良い点] こんな物語が好きな私はダークでしょうか……(-_-)笑 人と分かり合えないことは、時に人を変えてしまう。変えてしまう方も、変わってしまう方も、恐ろしいですね。
[一言] 悲しいやつかと思いきゃホラーでしたか。 いや、それでもやっぱり、悲しいですね。 人とわかり合うってことを、諦めるのは。
2019/04/09 11:59 退会済み
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