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流星は願いを叶えるか  作者: 瓶s
9/9

林間合宿

俺達の高校から片道約3時間ちょい。合宿に使う施設は、廃校になった小学校。取り壊すのは勿体ないという事から、こういう行事に使えるよう整備されて残されているらしい。林間学校というだけあって、山、川と多くの緑に囲まれている。目の保養に良さそうだが、なにより、


「空気が美味い」


これに尽きた。教室にいるのに関わらず、空気が澄み切っている。テレビなんかじゃよく聞く言葉だが、実際に体験するまでそんなことあるとは思っていなかった。癒しレベルが高すぎて、一家に一林欲しいレベルである。ビバ森林。深呼吸を繰り返していると、部屋に荷物を下ろしてきた須田が言った。


「ほんっと空気キレイだよねぇ。動物もいっぱいいるんだってさー。カワセミ、野ウサギ、狸、狐、猪に…あと確か、熊」


…なんか最後死ぬほど物騒な単語が聞こえたんですけど。その冗談はマジで笑えねぇぞ。


「そ、そんな目で見るなって。多分見間違えだよ。多分」

「うーんいや、本当みたいだよ」

「辰宮が言うならマジだわ…こわ…ていうかどこ情報?」


そ、そんな手のひら返しアリか。でも俺も信じちゃう。


「バスの中で、ちょっとここについて調べてたんだ。そしたら、熊の目撃地の範囲みたいなのに少しだけかかってた。でも、流石にここには入れないように電気柵が設置してあるみたい」

「そうかぁ。それならよかった」

「ちぇ、せっかく熊鍋食えると思ったのに…」

「えぇ…」

「だってサジちゃんも、サジちゃんとおれなら熊鍋コースいけるいけるって言ってるぜ?」


ほんっとそういうとこだぞサジタリウス。絶対狩りに出たりするんじゃねえぞ。俺がそう説得しようとした矢先、須田は体をビクッと震わせて自身をかき抱いた。


「『あっ…うっすごめんなさいスコーピオンさん…うっすうっす…軽いサジタリジョークなんで…』って震えてる…」

「丁寧な訳どうも…ていうか、見てたんだね、スコーピオン。というより志賀か。どこかな?」


きょろきょろと辺りを見回す辰宮。習って俺も教室を見渡すが、志賀の姿はない。ちらりと視界の端に捉えたのは、風に煽られ翻る漆黒のマント…まあ、誰であるかは言うまでもない。ていうかお前Bじゃねえか。なんでここにいるんだ。


「オレの技術もそれなりに上がってきたというわけか。上々だ」


若干嬉しそうな笑みを浮かべ、なんだかよくわからないことをほざきながら御堂が近付いてきた。


「ちなみに志賀なら職員室だ。部屋長会議に呼ばれている」

「詳しいな」

「当然だ。しおりを保存用、準備用、実施用と書き込み用で計4セット書き写したからな」


何してんのこいつ…どんだけ暇やねん。頑なにコピー機を使わないのはこいつなりのポリシーなんだろうが、それにしても無駄な努力…


「オレは無駄を愛するからな」

「おっ…おっそうか…」

「あれ?結局志賀居ないんだよな?なんでスコちゃんの視線を感じたんだろ?」


それは、と言いかけた辰宮を手で遮り、そのまま流れるような動作で指を鳴らして御堂が話し始めた。


「それはオレの『模倣』による蠍座の、『眼』の模倣…気に食わない相手だが、このように影響が大きい。力も大分消費したが、修練を積まない理由はない」

「はーまた大層なことを…というかいいのか?そんなことに力を多く使って」

「オレも最初そう思っていたが、ここには邪気が1匹たりとも存在しないのでな。」


そういえば邪気って、人の悪意とかと関係あるんだっけ。そりゃ、こんな辺鄙な土地じゃあ集まりようがないわな。空気も綺麗だし。


「仕方なく、こうして模倣の鍛錬をしているという訳だ」

「仕方なくって言うか半分くらい遊んでない?」

「そんなことはない」


こうして無駄な言い争いをしていても仕方ないので、話題を変える。


「…そういえば、次は何するんだ?」

「次は昼食。小休憩を挟んで周辺の散策だ。」

「散策!熊いるかな!?食えるかな!?」

「それは諦めた方がいいと思うなぁ…」


ま、まぁ何はともあれ昼飯だ!招集がかかったので皆で移動する。メニューはキャンプの定番、夏野菜のたっぷり入ったカレーライスだ。外で食べるからか、店で食べるのと変わらないくらい美味しかった。2杯目の大盛りカレーをがっついていると、担任がメガホンで呼びかけを行っているのが耳に入った。


「今から言うメンバーはこのあとちょっと集まってくれ。A組、北見、須田、B組…」


何だろう。呼ばれたからには行かなくてはならないが、どうせすぐ終わるだろう。


「…って、思ってたのになぁ…」


廃校舎、最上階。テストで良くない点を取った者、また授業態度の宜しくない者が集められる物理の補習が開かれている。人数はクラスに2、3人ってとこで、結構辛いものがある。クラスの他の奴らが散策している事を考えると余計にだ。くそっ、何がいけなかったんだ。授業中、半分以上意識を飛ばすのは確率で言っても6割程度なのに。近くから寝息が聞こえる。振り返って確認したところ、須田がぐっすり眠っていた。大丈夫か…


「須田さぁん、大丈夫ですかー?」

「んぁ…?」



やっぱり注意されてしまった。しかし結果としてその間延びした緩い声は須田の睡魔の成長を助長し、彼女は再び夢の世界へ旅立っていった。もう先生も諦めたみたいで、他の生徒に声をかけている。


「石渡さぁん、大丈夫ですかー?」

「………はい」


俺の左隣、B組の列に彼女は座っていた。こっちは完全な夢の世界では無かったらしく、シャーペンを握りしめ固まったまま返事を返した。


「ここはテストに出ますので、あとでノートを見せてもらって下さいねー」


石渡の眠りかけてミミズののたくったようなノートを見てか否か、先生はそう言った。その言葉を受け、彼女はこちらをちらりと見、小さな声で言った。


「あとでノート、見せてほしい」


補習終わり、俺は石渡にノートを渡した。俺のノートは綺麗とは言い難いが、寝ていた訳では無いので読むことは可能なはずだった。板書量も少ないので、あっという間にノートを写し終える。


「ありがとう。助かった。えっと、君は?」

「俺は北見雄介。そういうお前は石渡だな?」

「良く知っているな」

「さっき呼ばれてただろ…それに、俺の友達と同じ部活だからな」

「A組だったな。という事は志賀か」

「そうそう。ド天然だってよく話してるよ」

「なっ…天然じゃない!いいか、勘違いするなよ?くそ…奴にはよく言っておかなければ」


本気で怒っているようではないが、石渡は少し気分を害した様だった。これ以上不機嫌にさせるのもなんなので、天然の人は皆そういうと思うんですけど…という言葉は飲み込んでおく。


「これからどうするの?」

「最終日にも少し遠くへ散策に出られるから、今日はもう部屋に戻る。夜の授業にも備えないといけないしな」

「あーそういえばそんなのもあったな…面倒だなぁ」

「明日山に登るから、そんなに遅くはならなかったはずだ。皆と一緒だからって、夜更かしすると明日が辛いぞ。じゃあ、またな」

「お、おう」


なんか保護者みたいな事を言われた…しかし正論なので、今日は早く寝ることにしよう。さて、これからどうしようか。今から散策に出ても、皆を探すうちに夕食になるのは目に見えていた。しかし部屋に戻っても俺にはすることがない。悩んだ結果、俺は学校の裏手にちょっと行ったところにある開けた場所に移動した。遠くに校舎こそ見えど道という道を通っていないので、簡単には見つからないはずだった。


「ふぅー!ここ、とってもいいところだね!」

「レウコスにもわかるのか?」

「うん!なんていうかね、力が湧いてくるーって感じ!」


人目がないと知って顕現したピスケスは、気持ち良さそうに夕陽を浴びている。


「御堂君の言ってた通り、ここに邪気がほとんど無いもの。とっても快適だわ」

「そういうものなのか」

「そーゆーものなんだよ。さ、じゃあさくっとトレーニングしちゃおう!」


ここに来たのは、何もピスケスといちゃつくためではない。いや多少は話とかしたかったけど、本題はトレーニングだ。合宿中は諦めるしかないと思っていたので、素直に嬉しい。心地好い環境に体も軽い。召集がかかる頃には、気持ちのいい汗をかいていた。


「物理の補習おつかれさまー。あれ?随分汗かいてるね。何してたの?」


夕食はバーベキューだった。自由席のため、契約者達でひとつの円卓を囲んでいる。時間的にあまり外に出られていないはずの俺が汗をかいていることに疑問を持ったのか、辰宮が質問を投げかけてきた。トレーニングをした事を手短に伝える。


「なるほどー。偉いね」

「本当は探しに行こうかとも思ってたんだけど、時間が中途半端だったんだ」

「ちぇー、そうなら飛び出さなきゃよかったなー」

「寝てたのはなんだったんだってくらいの勢いだったもんな…」


しかし、その甲斐あってか大層有意義な時間を過ごせたようだった。志賀や辰宮からも今日の散策について話を聞いていると、御堂が黙りっぱなしなことに気がついた。


「どうした?」

「…鍛錬について考えていた。オレが当初、ここで鍛錬をする気だった事は話したな?だが、ここには邪気がおらず、素振りをする程度しか自主練ができなかった。」


そこで一呼吸置いて、また続ける。


「今の話を聞くまで、オレはあと2日我慢しなければならないと思っていた。だが、そんな場所があり、また契約者がこれ程いるなら話は別だ」

「つまり?」

「最終日、校舎裏付近の開けた場所で、模擬戦を行う。案内役と最低人数として北見、お前は参加確定だが…お前たちはどうだ?あぁ、もっとも…自信の無い者は来なくていいぞ?」


そう言ってメンバー各々に視線をやる御堂。煽りよるこの厨二病。ていうか俺強制参加かい…まぁ、トレーニングができるし別に構わないけど。


「自信がどうこうは置いておくとして、行くよ俺は」

「俺も行くー。杖の練習しないと」

「自信無くなんてねぇ!ぜってぇ行くかんな!ボッコボコにしてやっから覚えとけよ!」


あぁーそういう…絶対来させる上、闘気を高めさせるとは流石よくわかってらっしゃる…案の定、御堂は策が上手くいってご満悦だ。


「ふん、まぁ、気負いすぎてその前に使い物にならなくなっても困るからな。程々に力を抜いておけ。ではな」


いつの間に食事を終えたのか、そのまま部屋のある棟への階段の方へ行ってしまった。


「策士だねー。でも御堂君、完全な味方じゃないんだっけ」

「契約者発見には携わらないってだけだな」

「そうなんだ。じゃあ、心強いね」

「おれはアイツ気に入らねーけどな!」


俺達も食事を終え、それぞれの部屋へと戻った。ちなみに、この時点では煽られたことに憤慨している須田だが、後の英語の授業で一眠りしてけろっと怒りを忘れてしまったことは言うまでもないのだった。

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