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流星は願いを叶えるか  作者: 瓶s
7/9

人馬宮

「な…なんだこれ…」


広がっていたのは、信じ難い光景だった。屋上の地面から黒い人影が無数に立ち上がり、須田を取り囲んでいる。囲まれている当の須田はというと、こちらに背を向け燃える何かを構えているようだ。奥の方にはもう1人、弓矢を構えた須田…アナザーがいる。黒い影達は炎のせいか近付けずいるようだが、放っておいていいわけはない。ひとまず須田を救出することにした。


「須田!大丈夫か……ッ!?」


彼女の肩を掴んだ、そう思ったのに、俺は空を掴んでいた。というか、宙を舞っている。後方にいたロズが受け止めてくれたお陰で落下のダメージは無かったが、その衝撃は半端ではなかった。


「大丈夫、雄介!?」

「っう……なにが……」


こちらを向いた須田を、改めて視認する。彼女が構えているのは燃え盛る斧だった。今当たったのは腕だったようだが、もしアレを振られていたらと思うと肝が冷える。


「な…証、ないんじゃ…それに、斧って…」

「話をしている暇はない!来るぞ!」


スコーピオンが吠える。彼女は黒い影も俺達もまるで関係ないかのように、斧を滅茶苦茶に振り回している。狙いは出鱈目だが、その破壊力たるや女子の腕力で出せたものでは無い。斬撃を回避しながら叫ぶ。


「どうすればいいんだ!?」

「ひとまず、暴走を止めるわ!雄介、能力を使ってあの子に接触するのよ!」


したいのは山々だが、飛んでくる斧に影からの攻撃、アナザーからの矢も加わってそう簡単には須田に触れられそうになかった。


「北見!俺達が影を引き受ける。その隙に能力を使え!」


志賀とスコーピオンが前へ飛び出ていく。続いて、


「オレがアナザーを討ちに行く。隙を逃すなよ」


御堂は影を切り捨てながらアナザーへと接近していった。結果須田の攻撃が俺に集中する。しかし、他からの攻撃が無くなったため随分近寄りやすくなった。


「今更だけど、ほんとに殴らないとダメ?」

「彼女を止めないと被害が拡大しちゃうわ…やれる?」

「うん。…大丈夫だ」


覚悟を決める。大振りな斧の一撃が外れたのを見計らって相手の懐に飛び込み、『力』を込めて拳を撃ち込んだ。

実際に能力を使うと、奇妙な感覚があることを知った。まるで小型のブラックホールが手に生じて、熱量や力、何もかもが飲み込まれていくような感覚。一瞬の後、須田は糸の切れた人形のように倒れ込み、動かなくなった。


「え…これほんと大丈夫…?」

「大丈夫だよ。さぁ、はやくー…」

「北見!」


御堂の声。あいつが相手をしていたのはアナザーだったはず。何かあったのかと振り返れば、アナザーが急接近して来るのが見えた。嫌な予感がして咄嗟に須田を抱えて転がり込む。元いた場所には矢が幾本も突き刺さっていた。


「無事か北見!」


体勢を整えた御堂と、影をあらかた片付けた志賀が前に立った。流石に分が悪いと踏んだのか、アナザーは攻撃をやめ言葉を発した。


「小賢しい人間共め…」

「小賢しいのはお互い様だろ」


志賀が返す。アナザーは気にもかけない様子でハッと嘲笑い、須田を指さした。


「今のうちにそれを渡すなら、今、誰にどの星座が宿っているか貴様らに情報を授けてやりましょう」

「そ、その前に…お前らアナザーはなんでそんなに本体と統合したがるんだ?」


立ち上がって質問する。ずっと疑問に思っていたことだった。別個体になってしまうのは仕方が無いが、そのまま行動しても問題ないのにと思っていたのだ。


「願いを叶えるため」

「願い?」

「私は完成された完璧な存在…であるならば、この世界には私だけが存在すれば充分でしょう?あぁあと、他の連中の事なんて知りませんね。どうせ愚かな者たちですから」

「フ…その割には須田1人に随分手こずっていた様だがな」


薄ら笑いを浮かべていたアナザーの顔が凍りつく。忽ち顔が真っ赤になり、激昴した様子で叫び散らした。


「アレはそれの中にいる不完全なそれが悪いのです!アレは私が離れたから暴走なんてしてしまったのです…そう、そうですよ…」

「お前は置いていかれた方だけどな」

「煩い!その小娘の矮小な器の問題なのです!適合率が高いからと言って入ってしまった私とはきっとその頃から離れていたのでしょう!」


こいつ意外と…いや、だからこそ須田の中に入ったのか。適合率とかどうとか言ってたし。よし、ここは思ったままー…


「「「お前アホだろ」」」

「なっ…!何を言っているのです!?貴方達には私の崇高な理念が理解できないようですね!今すぐにでも消して差し上げましょう!」


示し合わせたかのように重なった声に、アナザーは怒りを爆発させ愚直に突進してくる。御堂との1件があってから、俺と志賀はただ無為な日々を過ごしてきた訳では無い。その結果どれだけ強くなれたかはわからないが、はっきりわかることはある。


「感情のまま突っ込んでくるような隙だらけの相手に…負けるわけが無いんだよなぁ!!」


難なく突進をいなして焔の拳を、闇の力纏う斬撃をアナザーの体に叩き込む。アナザーがぐらついた瞬間、志賀が胴体を撃ち抜いた。瞬間、弾丸の当たった部分から焦げる様に黒ずみが広がっていく。驚いた顔のアナザーに、息を切らせた志賀が告げる。


「『必殺』の効果だ。…消耗が激しいが……効果は覿面な様だな…」

「ば…馬鹿な……」


瞬く間にアナザーは焼け落ちてしまった。どうやら、勝ったらしい。実感したとともに一気に疲れが体に押し寄せ、よろめいてしまった。慌てたピスケスが支えてくれる。


「お疲れ様、雄介」

「ユースケがんばった!おつかれさま!」

「あぁ…うん、ありがとう…皆も…」


見渡せば、2人も似たりよったりな状態だった。お疲れ様というようようにサムズアップすれば、弱々しく返ってきた。まだまだ修練が足りないみたいだなぁ、俺達。


「う…うぅ…?ここどこ…?腕いってぇし…」


どうやら須田が目を覚ましたらしく、立ち上がったかと思えば腕を押さえて呻いている。まぁあんな振り方したらな…


「あーっと…北見?と、志賀?おめーは誰かわかんないけど…って、何その人たち?コスプレの方?」

「あ、ああーえーっとその」

「そうじゃないんやで、相棒!」


須田の背後には、いつの間に出現したのか金髪碧眼のケンタウロスが仁王立ちしていた。須田は驚きすぎて言葉すら出ないみたいだ。かわいそうに…


「我、汝の呼び掛けに応えん、っと。えっとなー、ワイらは星座でな?相棒らに呼び出されたんや。ほら、なんやごっつい儀式みたいなんやったやろ?あれの結果や」

「?????」

「んー?ようわかってへんのか?ま、詳しいことはまたあとでもえーがな。あ、遅れたけどワイはサジタリウスいいます。よろしゅうな~!」


須田に向かってにこやかな笑顔を見せるサジタリウス。須田は未だ困惑で固まったままである。これは助け舟を出すべきかと1歩近寄ると、サジタリウスはこちらに向き直った。


「おぉ!もうそんなに集まっとんのか!…初めまして、契約者の皆さん方。私はサジタリウスと申します。よろしくお願い申し上げます。」


意外なほどちゃんとした挨拶が来た。アナザーがアレだったのに本人がこんな調子なので妙に感じていたが、根はしっかりしているのかもしれない。


「んでんでえーっと?ピスケスのねーちゃんらに、ジェミニの坊主ら。で、あっ……スコーピオンさんやないですか……はは…ほなワイはここらで…」

「私がお前を返すとでも?」

「思いません」


根がしっかりしているって思った期間はおよそ5秒でした。流れるように正座するサジタリウス。星座だけにってな。あ、なんかピスケスの目が冷たい。ごめん。


「どういう事か説明してもらおうか」

「あ、じゃあ私達はあの子に説明してくるわね?」

「オレ達も協力しよう」


スコーピオンがこれから何を行うか察したピスケスとジェミニはその場を離脱し、須田に状況を説明しに行った。案の定スコーピオンは説教を始めたので、俺達は一段落着くまで休憩することにした。


「本当にすみませんでした」

「ほ、ほえー」


数分後。こってり絞られてげんなりしているサジタリウスの姿と、わかったようなわかってないような顔をした須田の姿があった。サジタリウスの話をまとめると、

「召喚した相手が素晴らしい適合率だったため面白さを期待して勢いよく入ったはいいが、思ったより須田の器としての大きさが足りず元々多かった力を予想以上に分散させてしまった。そんなこんなで襲われたので力を出したがやり過ぎた」らしい。学校が暑かったり、証が無いのに武器が出てきてたり、暴走していたりしたのはそのせいだという。


「アナザーが力を吸収することで役に立つなど前代未聞だぞ」

「結果オーライってことやないですか」

「……」

「本当にすみませんでした」


な、なんか可哀想になってきた。話題を変えよう。


「す、須田。ちゃんと理解はできたか?」

「正直言ってあんまわかんない!」


ダメじゃねえか。ピスケスとジェミニが少し落ち込んでいるように見える。後でなでなでしてあげよう。


「あ、そういうことなら問題ないで。相棒、本気で知りたい~~!って念じてみ?」

「お、おう?うーーーー……!?す、すごい!なるほどそういうことか!」

「フッフッフ。当然や。ワイの能力は『叡智』。相棒に理解させるなんて楽なモンや」

「おおー…ん?じゃあ、証っての貰わないとダメっぽい?」

「お、せやせや!ほいコレ。大事にしてや~」


サジタリウスが差し出したのは、いて座を象った銀のストラップ。須田はそれを受け取ると、瞬く間に炎を纏う斧に変形させた。


「なぁるほどー。これがおれの武器か」

「せやでー。うまく使えるよーに、練習しよなー」

「おー!」


サジタリウスと仲良さげに話していた須田は、ピシッとこちらに向き直り、言った。


「1年A組須田颯です!…なんて、それはもう知ってるか。これからよろしくな!」


俺達の契約者探しも、また騒がしくなりそうである。

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