炎天
暑い。
御堂との1件があったあの日から、数日が過ぎていた。俺も志賀も、注意深く周りの人間を観察していたが、特にそういうアクセサリーをつけたりしてる奴はいなかった。単に校則気にしてるだけかもしれないけど。
しかし暑い。最近異常気象が多いからと言って、4月の下旬でこの暑さはあまりにもおかしいのではないだろうか。教室全体が茹だっているようだ。横の席の、何時もしっかりした辰宮が暑さでぐでーんとなっているレベルである。
「センセーに冷房つけてもらいに行ってくる…」
「どーせ今回もダメだろ…」
「はーったく、アイツらだってここ来たら『あっついなぁ!』とかいうクセしやがってよぉ」
「帰りてぇー」
このとおり、普通の生徒は言うまでもない。ちなみに俺も普通の生徒なので、帰りてぇーってずっと思ってます。仕方ないよね。
あ、志賀が教室に入ってきた。なんか顔顰めてる。
「志賀ぁ~どこいってたの~」
「そういうことすぐ聞くからホモ営業って言われるんだぞ」
「な、なにそれ…」
「それはあとで。それより、この教室。やっぱ特別暑い」
いや、ホモ扱いされてるって結構重要じゃない?もしかして俺だけ?え、そこ気になる…いや、置いとくなら何が出てくるかわからんし追求しないけど。
「気のせいだろ?何処だって暑いぞ」
「これを見てくれ」
志賀の手に握られていたのは棒温度計。それが示す温度は、少しずつ、でも確実に上昇している。現在36℃。
「これ…」
「俺がさっきまで居たのは隣のB組。そこも暑かったけど、ここほどじゃない。証拠だってある」
「と、いうことは、いるってことだよな」
「間違いない」
教室に影響が出ているんだから、きっとまだ契約者では無いんだろう。所謂俺のネックレス状態というやつだ。でもそうなると、決定的な証拠である証もない上、本人の意思もない為探すのは1人1人つけ回るしかない。たいへん困るんだよなぁ…もう変な噂流れてるみたいだし、ここにストーカーまで追加されるのは…
まだ逃げ道はないかと志賀に聞こうとすると、後方でガタンという音がした。
「ちょ、ちょっと颯!?」
「やだ…先生呼んできて!多分熱中症だから!」
女子生徒が騒いでいる。どうやら、暑さで誰か倒れたらしい。彼女はすぐに先生によって保健室に運ばれていった。被害者が出てしまったことで、もうどうこう言っている時間はないと俺達は思い知らされた。もうすぐ6限目が始まる。ひとまず、この授業が終わったらすぐにでも動き出さないと。
「ただいま」
授業が終わると、辛そうな面持ちで運ばれた生徒の須田が帰ってきた。仲のいい女子達が寄っていって世話を焼いている。須田はそれを受けるも、やはり苦しそうだった。そのうち須田は、「ちょっと風を浴びてくる」と言って出て行ってしまった。残された女子は心配でたまらないようで、
「ほんとに辛いみたい…あんな須田見たことない」
「いつもなら、これくらいだいじょーぶだいじょーぶ!って言うもんね…」
「それに、風を浴びてくる、なんて…保冷剤を頭にのっけてるような子なのに…」
と口々に言っている。俺はあまり彼女のことを知っている訳では無いが、奴は自己紹介の時
『おれは須田 颯って言います!はやてって書いておきながらりゅうって読みます!でも一応女です!よろしくっ!』
と言ってのける系女子であり、学校が面倒で保健室に行くくらいなら帰りたい系女子という事は知っている。それを考えると今のはちょっと妙だった。考えていると、突如目の前に棒が出現した。
「北見、これ見ろ」
現在棒温度計の示す温度は30℃。まだ下がりそうな勢いである。
「どんどん正常な気温に戻ってるんだ」
倒れて戻ってきてから様子のおかしい須田。急に下がり始めた温度。それらは確か、本体に戻る為なら何でもする。勿論、本人になりすますことだって例外ではない筈だ。
「あの須田は、アナザーだ」