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流星は願いを叶えるか  作者: 瓶s
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先駆者

「はぁ…はぁ…」


全速力で走ってきたとはいえ、それほど学校との距離は近くない。かなり汗をかいてしまった。生徒はほぼ帰ってしまい、いるのは部活終わりの体育系がチラホラと言った感じである。そういえば、証はちゃんと返してもらえただろうか?LINEを確認する。

俺達がちょうど走っていた頃辺りに、何件かのメッセージがある。


『奴らはオレの心がわからない…』

『まあ、あんなものくれてやっても構わない』

『だが貴様が欲しがった理由を知りたいと俺の眼球が疼く』

『屋上で待つ』


証はダメだったのか…でも、どうやら無事ではあるみたいだ。御堂の無事を志賀に伝えると、志賀は安心したように息を吐いた。職員室の明かりがついていることは確認したので、御堂も連れてそれは返してもらうとする。まずは屋上に行かないと、と階段を登り始めた頃、着信音がした。御堂からのメッセージだ。


『屋上に来てはいけない』


志賀と顔を見合わせる。俺の中のピスケスが警戒の色を深めているのがわかる。


「急がないと」


俺達は再び走り出し、屋上までの階段を駆け上がった。階段を登るにつれて、上から微かな金属音が聞こえるようになってきた。まさか、もう襲撃を仕掛けてきたっていうのか!?御堂に証がない今、状況は一方が押し切る最悪のものになっているはずだ。分の悪い初戦闘になることを覚悟して、屋上の重い扉を開くと―


確かに繰り広げられていたのは一方が押し切る戦闘だった。しかし押しているのは敵ではなく、2人の御堂だった。彼らが相手取っている黒い霧のような者達は忽ち、華麗な連携を決める御堂達に切り捨てられ、塵となって消えていった。粗方それらを片付けた御堂達は、手に持った紫に輝く双剣を下ろしこちらに向き直り言った。オッドアイが暗闇に輝いている。


「見てしまったか…」

「忘却するがいい。貴様らにはオレも出逢わなかったものとする」

「お前…証、ないんじゃ…」

「どういうこと!?ジェミニ!」


動揺を隠せないピスケスが、俺の横に立ち並ぶ。志賀も同じだった。


「何…?貴様らも契約者だったということか?」

「ならば話は早い。アレは証ではない。偽物(フェイク)だ。」

「何故そんなことをするのか?と聞きたそうな顔だな。答えは簡単、アナザー、そして証を奪いに来た者達を釣るためだ。」

「オレは力を欲している。そうやって釣った者を蹴散らし得た経験は、間違いなく俺の血となり肉となる…」

「まぁ、今回釣れたのは証を奪おうとした雑魚だったがな。」

「これも力を持つものの運命。割り切るだけだ」


ここまで全部御堂が交代で喋った。なんでこんなまどろっこしいことをするんだろうか。こんなことするくらいなら1人で喋ればいいの…に…って


「なんでお前2人いるんだ?」

「それはオレ達の『能力』だ。」


片方の御堂がニヤッと笑みを浮かべると、その御堂は2つに分裂し、結果白と黒の半々野郎が2人出来た。2人とも男性で、歳は俺達とそう変わらないくらい。御堂と同じく、紫と金のオッドアイをしている。彼らの間の見た目は全く同じで、どっちがどっちとか見分けは全くつかない。


「オレ達の能力は『模倣』。対象と全く同じように姿を変えることが出来る」

「ちなみに貴様が朝方屋上でなく調理室に来ていたら、オレ達と邂逅することになっていたのだ」

「…なんで調理室?」

「与一が調理部だからだ。」

「えぇ…」


えぇえ…お前なんなのそのチョイス。入るなって言ってる訳じゃないが、こいつが料理するところとか全く想像出来ないんですけど。御堂はポケットから何かを取り出し、掌に載せた。袋入りされた黒いカップケーキだ。


「今朝ジェミニが作ったものがこれだ」

「お、おぉ…?チョコ味か?」

「ふ、その様な甘ったるいものは入れていない。これには禁断の果実を刻み入れ、焼き上げた。」

「禁断の果実…ってリンゴか!?なんでこんな真っ黒になってんだよ!」

「魅惑的だろう?興味を持ったようだな、そのままこの味の虜になるがいい。1つくれてやろう」


ずい、と目の前に突き出されたそれは、余計にこれは食べたら絶対にやばい奴だと本能に知らせてくる。✝︎永久の眠り✝︎につくであろうことが、ほのかに漂うなんとも言えない臭気から簡単に察知できた。


「完全に暗黒物質(ダークマター)じゃねえか!いらねぇよ!」

「美味かった時……も在ったんだぞ!」

「いらねぇっつってんだろ!」

「……そうか…」

「そ、そんな落ち込まんくても…うまくいってそうなやつ、1回くらいなら食ってやるから…」


俺としては、また今度な、とかそんな感じでなあなあにして誤魔化したかったんだけど、どうやらうまくいかなかったみたいだ。


「!本当か!!」

「では腕によりをかけて作らねばならんな!」

「今から計画を練るとするか!」

「え、えぇ…勿論志賀も食うよな?」

「いや?俺は食うって言ってないし」

「この薄情者おお!」


ガン。騒ぐ俺達の間に冷たく無機質な音が響く。音の主は、眉間に皺を寄せたスコーピオンの様だ。自分の暗器を壁に打ち付けたらしい。


「戯れはそこまでだ。ジェミニ、貴様にはいくつか質問がある」

「なんだ?蠍座の神よ」

「質問は2つ。1つ、貴様がこれまで契約者に出会ったかということ。2つ、他の契約者を見つけることや、アナザーを討伐する事に協力が見込めるか、だ」


ジェミニは黙り込んだ。それはただ思い出しているだけのようにも見えたし、思考を巡らせているようにも見えた。数秒たった後、片方が口を開いた。


「1つ目の質問だが、オレ達が他の契約者を見たのはお前達が初めてだ。」

「そうか。では2つ目に関してはどうだ?」


もう1人のジェミニが口を開く。

「契約者を見つけることに関して手を貸す気は無い。何故なら、オレ達にとって無意味だからだ。だがアナザーを屠る事には手を貸そう。何故なら、オレ達にとって意味があるからだ」

「どうして、そこまでして力を求めようとするの?」


ピスケスの追求に沈黙するジェミニ。そうして、何も語ることは無いというように頭を振ると、御堂の方へ振り返った。


「与一。オレ達はもう下がる」

「あ、あぁ」


彼等の姿は薄暗闇に消え去った。御堂は若干腑に落ちない様子で双剣の形を変えていく。それは最終的に1対のイヤーカフとなり、御堂の耳に納められた。ちょうど髪で隠れている。双剣がイヤーカフに変わったのと時を同じくして、御堂のオッドアイに輝いていた瞳は黒くなった。御堂は志賀の方を向いて言う。


「北見、ピスケス。貴様はスコーピオンだな。貴様の名は?」

「志賀和彦。知る必要あったか?」

「ふん。知見とは広げておくものだ。オレは御堂与一。アナザーが出たらオレを呼べ。ではな」


御堂は振り返ることなく階段を降りていった。その後ろ姿がどことなく寂しそうだったのは気の所為だろうか。どことなく息苦しい空気が流れる。


「…ひとまず、俺達も帰ろう。」

「あぁ、そうだな…」



その晩。俺とピスケスはまた脳内質問会を催していた。


『そういえば、ピスケスやジェミニは2人で1つの神って扱いになってるけど、それぞれに名前ってついてるの?』

『ジェミニにはあるんだけれど、私達には生憎ながら無いのよ。私達元はお魚ですからね』

『ユースケ、このままだとピスケスの事呼びづらいよね?』


困る程ではないが、あった方が楽なことは事実だ。幼女を撫でてる時ピスケス~って言ってるとお母さん困っちゃいそうだし。あ、変な意味じゃないから。


『じゃあじゃあ!ピスケスのこと名前つけて!』

『えぇ!?それって大丈夫なの?』

『空の上でも同じ人を別の名前で呼んでいるし、構わないんじゃないかしら。渾名みたいなものだと思えば。』


神様割と適当だな…許可はもらったものの、俺にネーミングセンスを求めるのは間違っている。うーん。


『じゃあ、2人の髪の色をとってキミがレウコス。あなたはロズ。…で、どうでしょう…』


ぶっちゃけると、英語の授業で教師がこれ書かなくていいからー的な感じでオマケ程度に出てきた雑学だ。ギリシャ語で白とピンク。神々ってギリシャとかのイメージが強かったので、このチョイスにしたんだけど、適当過ぎたかな?


『レウコス!ピスケス、レウコス!』

『ロズですって、素敵ね。ありがとう。雄介』

『お、おう。喜んでもらえたなら良かったよ』


ピスケスは本当に喜んでいるようだ。単に、渾名をつけてもらえた事を喜んでいるのかも知れないけど。と、時間はすぐ過ぎる。本題に入らないと。


『これから、どうしたらいいんだろう。証は見せられないし、いよいよ聞き込みするしかないのかな』

『そうねぇ…まだ召喚自体されていない可能性だって充分あるのだし、周りをよく見る程度でいいと思うわ』

『ユースケ、急に聞き込みしたらもっと変な目で見られちゃう。レウコスそんなのやだから』

『ありがとう、レウコス。何もしないことにスコーピオンは怒りそうだけど、やることがないのは事実だしな』


ピスケスは揃って苦笑する。しかし、彼女に対して怒ったり不満があるといった感じではなさそうだった。あ、そういえば。


『ピスケスの能力って、なんなんだ?』

『私達の能力は、『抑制』。行き過ぎた感情を抑えたり、仲間内の調和をとるための能力よ。貴方がどれだけ能力を使うかに力を注ぐかだけど、喧嘩の仲裁くらいは簡単に出来るわ。』

『力を注ぐっていうのは?』

『んーとね、ユースケの体力を10ってしたとき、お魚を食べるのに体力は1も使わないよね?でも、全力でお魚を捕まえようとしたらいっぱい使うでしょ?それで、頑張りすぎたら倒れちゃう。そんな感じだよ』


能力を使ってやることが大掛かりになればなるほど、俺は消耗していくってことかな。確認をとると、ロズは同意を示した。


『尤も、体力ではなくて精神力…生気の方が近いかしらね』

『えっ…それ倒れちゃうってレベルじゃないじゃん…✝︎永久の眠り✝︎についちゃう…』

『だ、大丈夫よ。能力だって慣れれば消費も少なくなるわ?これから、御堂くんみたいに練習しましょう?』


ついさっきの御堂の姿を思い出す。ジェミニの能力、『模倣』の精度は、俺が今日御堂と初めて会ったことを踏まえて判断してもかなり高かったはずだ。それに、剣の扱いも慣れていた。いつから訓練を繰り返してきたんだろう。俺は、いつ襲ってくるかわからないアナザーを倒せるだけの強さを持てるんだろうか。黙り込んでしまった俺に、ロズは優しく語りかける。


『今日はもう遅いわ?明日も学校があるのだし、もう寝ましょう?』

『…うん。おやすみ』

『おやすみ、ユースケ』


先のことに不安は感じるが、今できることは何も無い。色々なことが頭を圧迫していたが、全てに蓋をして寝ることにした。

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