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第六章 冬山で遭難した男女がする事

◆ 登場人物 ◆


ダイチ(大地)

 オレ。中学二年生。メガネをかけている。

 風紀委員の副委員長。


ショウビ(薔薇)

 オレの妹。一つ年下。血はつながっていない。

 風紀委員の一人。


スイショウ(水晶)

 オレの幼馴染。同い年。家がとなり。

 風紀委員の一人。


P1(ピーワン)

 赤いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。

 ショウビの下半身に寄生している。


P2(ピーツー)

 青いビキニ型宇宙人のパトロール隊員。

 スイショウの下半身に寄生している。


コハク(琥珀)

 オレの中学で生徒指導を担当する先生。

 実は痴女。



◆ これまでのあらすじ ◆


 中学二年生のオレは、女子生徒の下半身に寄生した宇宙テロリストに殺されるが、宇宙パトロールによって地球の時間が巻き戻されて、生きていた日に戻り、ビキニハンターに任命されてしまう。


 そしてオレと宇宙パトロールのP2は、宇宙テロリストを追っていて罠にはまり、ダイナマイトが仕掛けられた教室で縛られて、絶体絶命のピンチになる。


 するとP2は、ダイナマイトの火を消すためと言って、オレのあそこに触ってアレを飛ばそうとするが、オレがそれに抵抗したために、二人とも死んでしまい、再び地球の時間が巻き戻される。


 ああ、早くこんな任務から解放されたい…………。




 春のやわらかい日差しの中、幼馴染のスイショウに寄生したP2が、早朝の人通りが少ない通学路で、制服のスカートをひらめかせながら文句を言う。


「やっぱり何回考えても、わたしには納得できないニャ! あの時、ダイチが抵抗しニャければ、ダイナマイトの火は消せたのニャ! そしたら時間を巻き戻す必要もニャく、そのまま宇宙テロリストの捜索を続けられたニャ!」


 P2といっしょに歩くオレは、メガネを拭きながら、それに言い返す。


「あのな、オレも何回も言うけど、幼馴染のその身体で、オレのあそこに触るのは二度とやるなよ。次やったら、もう宇宙テロリストを探すのを手伝わないからな…………って言うか、オレたち二人があのダイナマイトの罠にかかった時に、お前も宇宙テロリストに寄生された女子生徒の顔を見ただろ? だったら、もうオレの手伝いはいらないんじゃないか?」


 するとオレとP2の間を歩く、妹に寄生したP1が、風にそよぐ髪を手で払いながら口をとがらせる。


「お兄たん、何を言ってるのぉ! ビキニハンターに任命されたからには、地球にいる全ての宇宙テロリストを抹殺するまで、その任務は続けないといけないんだよぉ!」


「えぇえ! ちょっと待て! 宇宙テロリストって、地球に何体いるんだ?」


「さあ? 何体かなぁ?」


「そんニャの分かる訳がないニャ!」


「くそっ! じゃあオレは、いつまで経ってもビキニハンターをやめられないじゃないか!」


「あのねぇ、お兄たん! 女子のパンツに液体をかける任務を嫌がる男子なんて、お兄たんくらいだよぉ!」


「そうニャ! 今までの男子はみんな…………」


 そう言いかけてから、P2はハっとなって口を両手で押さえ、それを見てオレは尋ねる。


「え? オレ以外にも、ビキニハンターになった地球人がいるのか? そいつらは今、何をやっているんだ?」


「ニャ……そ、それは別の惑星での話ニャ…………。ち、地球人でビキニハンターにニャったのは、ダイチだけニャ!」


「そ、そうだよ、お兄たん! ビ、ビキニハンターが他にもいるなら、アタシたちといっしょに行動していないとおかしいよぉ! あはははは……」


「…………何だか怪しいな……。お前らオレに何か隠しているだろ?」


「あっ、ダイチ! そろそろ校門が近いから、われわれは引っ込むニャ!」


「そ、そうだねぇ! じゃあ、また後で呼んでね、お兄たん!」


「おい、待てよ、お前ら…………」


 だがオレがそう言った時には、もう妹と幼馴染は、本物の意識が戻ってキョトンとしている。


 校門のところには、時間を巻き戻す前と同じように、生徒指導を担当するコハク先生と、風紀委員の生徒六人が立っているので、今から再び宇宙パトロールの二人を呼び出す訳にはいかない。


 それでオレは眉をひそめつつも、家を出てからの記憶が飛んで戸惑っているショウビとスイショウに、素知らぬ顔で話しかけながら、学校へと歩き続ける。


 しかし宇宙パトロールの二人は、オレに何を隠しているのか?


 その事に気を取られながら、校門の前に並んでいる風紀委員たちと、色香があふれる豊満な身体のコハク先生に挨拶すると、前回と同じように先生がオレを止めて聞いてくる。


「…………キサマは今もまだ、ちゃんと童貞のままだろうな?」


 そこから続くやり取りを全て憶えているオレは、前回とは違う事を答えたらどうなるのだろうかと思って、この時の自分が知るはずのない事を、うっかり口にしてしまう。


「……そんな事より先生、何で生徒指導室に隠しカメラが仕掛けてあるんですか?」


 それを聞いて目を細める先生の表情を見て、しまったと思うが、もう遅い。


「…………ほう……。ダイチ副委員長。…………キサマは私が、生徒指導室に隠しカメラを仕掛けていると思っているのか?」


 それは思い込みなんかじゃなく、オレは時間が巻き戻される前、実際にそのカメラで自分のハレンチな行動を撮られているのだが、さすがにそんな事は話せないから口ごもる。


「あ……えーと、ですね…………」


 そんなオレを見ながら、コハク先生は不気味に笑う。


「……ふん。まぁいい…………。後で二人だけでゆっくり話そうじゃないか、ダイチ副委員長。放課後になったら生徒指導室に来い」


 うわぁ。


 せっかく時間が巻き戻されて、コハク先生のパンツに液体をかけずに済んだというのに、何をやっているんだ、オレは…………。


 これはマズいなあと思いながら学校の玄関に向かうと、校門からある程度離れたところで、P1とP2がオレの呼びかけもなしに意識を表に出してくる。


「お兄たん、何やってるのよぉ! 時間が巻き戻される前にしか知り得なかった情報なんか話したら、怪しまれるに決まっているじゃないのぉ!」


「そうニャ、ダイチ! それにそんニャ事をしていたら、バタフライ効果でこの先の出来事が大きく変化して、宇宙テロリストに先手を打てるチャンスが、なくニャってしまうかもしれないニャ!」


「え? あ、バタフライ効果って、あれか。チョウの羽ばたきのような小さな変化でも、そこからの連鎖で、大きな変化につながるっていう……。日本のことわざの『風が吹けば桶屋が儲かる』ってのと同じ意味の…………」


「そうだよ、お兄たん! さっきのお兄たんの言葉で、あの先生の行動が変わればぁ、その影響で宇宙テロリストの行動も変わるかもしれないのぉ! そしたら昼休みにあいつを待ち伏せできる、せっかくのチャンスも、なくなるかもしれないんだよぉ!」


「あっ、そうか! あのダイナマイトの罠を仕掛けていた宇宙テロリストが、前回と同じ行動をするなら、オレたちはそこへ先回りして逆に罠を仕掛けられるのに、オレのせいでそれがパーになったかもしれないのか!」


 あの宇宙テロリストを抹殺できるせっかくのチャンスを、自分がつぶしたかもしれない事に気が付いて、オレは愕然とする。


「ごめん! オレのせいで……」


「まぁ、まだ、そうと決まった訳じゃないニャ! それに今回は、前回やったスカートの中に液体をかける訓練をしニャいし、あの先生がその映像を見る事もニャいから、たとえダイチが前回と同じ会話をしていても、この後の出来事は多少なりとも変わるはずニャ!」


「でもね、お兄たん! その変化をできるだけ小さくするためにも、これからは他の人たちが見ている前では、いつもと違う行動はしないようにするんだよぉ!」


「分かった……。今後は十分に気を付けるよ、P1、P2」


 それから二人は、宇宙テロリストの行動がどうなるか分からないものの、ひょっとしたら前回と同じかもしれないから、昼休みになったら旧校舎に行って待ち伏せをしようと言い、それに同意したオレは、二人と別れてから、できるだけ普段と変わらない行動を心掛ける。


 そして一時限目の授業のあと、休憩時間に本を読んでいたオレは、クラスメイトに肩をたたかれて、幼馴染の少女が廊下で手を振っているのに気が付く。


「どうした、スイショウ?」


 メガネを直しながら廊下に出たオレがそう尋ねると、妖精のように可憐な少女が微笑む。


「……今朝、ダイちゃんがコハク先生に話した事が、気になって来たの…………。生徒指導室に隠しカメラがあるって、ダイちゃんは何で分かったのかなぁって……」


 その質問にオレは言葉を詰まらせる。


 ここで下手にウソをつくと、バタフライ効果がより大きくなるかもしれず、そうかと言って本当の事も話せないからだ。


 それで思わず目を泳がせると、廊下の窓から、宇宙テロリストに寄生されたあの女子生徒の姿が見える。


 そいつは学校を囲んでいるブロック塀を乗り越えて、敷地の外に出ようとしていた。


 その行動は明らかに前回とは違うので、ここで見失ってはマズいと思ったオレは、とっさにスイショウの手をつかんで走り出す。


「ちょ、ちょっと、ダイちゃん、どこに行くの?」


 オレがその質問を無視して階段を駆け降り、靴を履き替えもせずに校舎を飛び出したので、手を引っ張られているスイショウは、


「え! ダイちゃん、上履きのままだよ!」


 と驚くが、オレは構わずに走り続けて、ブロック塀のそばまで来たところで宇宙パトロールを呼ぶ。


「P2! あいつを追うぞ!」


 その瞬間に宇宙パトロールの意識が表に出て、スイショウの表情が変わる。


「分かっているニャ、ダイチ! 今回は『ビキニキラー液』が入った水鉄砲をちゃんと持っているから、あいつに追い付いたらその場で抹殺するニャ!」


 P2はそう言いながら、オレとつないでいるのとは反対の手に持っている、小さなバッグを掲げる。


 オレはそれをちらっと見ながら、P2の手を放して塀につかまり、その上に身体を持ち上げて、P2に手を差し出しながら聞く。


「そんなところに水鉄砲を入れていて、お前の意識が引っ込んでいる時にスイショウが見たら、変に思わないのか?」


 P2はオレの手をつかんで、身体を上に引っ張られながら、それに答える。


「われわれビキニ型宇宙人は、寄生した相手の意識に暗示をかける事ができるニャ! だから、あんたの幼馴染は、ここに入っている水鉄砲を、昔から大切にしているお守りのようニャものだと思い込んでいるニャ!」


 その言葉を聞きながら、オレは塀を飛び降り、P2の身体を受け止める。


「なるほど…………あっ、それより、また罠が仕掛けられているかもしれないから、P1も呼んだ方がいいんじゃないのか?」


 そう言いつつあたりを見回すと、通りの向こうにいる宇宙テロリストに寄生された女子生徒が、ゆっくりと歩きながら脇道に入って行くところが見える。


 どうやらそいつはオレたちが追っている事に、まだ気が付いていないようだ。


 そこへ向かってオレと走りながら、P2が答える。


「今はP1を呼べないニャ! もう授業が始まっていて、その最中に教室を飛び出すと、バタフライ効果が大きくニャりすぎるからニャ! わたしたちみたいに休憩時間中にいニャくなるニャら、それほど大きな騒ぎにはニャらないから、今の授業が終わるまで待つニャ!」


 そんなやり取りをしながらオレたちが脇道に入ると、その女子生徒は、食品工場の看板が出ている古びた建物の、通用口から中に入って行く。


「どうする、P2? P1が来れる時間になるまで待つか?」


「……いや、あの建物の中はモニターできると、われわれの宇宙船は言っているニャ! もちろん前回あったダイナマイトみたいニャ、原始的な罠はあるかもしれニャいけど、緊急時にはP1を呼べばいいから、二人だけで突入するニャ!」


 そう言ってP2は走って行き、それを放っておく訳にはいかないオレも、仕方なくその後を付いて行く。


 そして案の定、オレたちは罠にはまってしまう……。


 …………食品を貯蔵する、巨大な冷凍室の中……。


 閉じ込められたオレたちは、ガタガタと震えながら、白い息を吐く。


「は、は、早く……ピ、ピ、ピ、P1を呼べ…………」


「……ダ、ダ、ダメニャ…………こ、こ、このくらいの寒さニャら……じゅ、じゅ、授業が終わるまで…………た、た、耐えられるニャ!」


 女子生徒を追って巨大な冷凍室に入ったオレたちは、多くのダンボールが高く積まれた迷路のような場所でそいつを見失い、気が付いた時にはドアが閉められていたのだ。


 こんな小学生でも笑うような単純な罠にはまるなんて、本当に恥ずかしい。


 けれど今回は、爆発物が仕掛けられている訳でもなければ、鎖で縛られている訳でもない。


 外からドアのカンヌキを外してもらえば、簡単に脱出できるはずだ。


 だがオレのスマホは教室のカバンの中だし、スイショウはそもそも携帯電話を持っていないから、外の人間に連絡する手段がない。


 この建物の表のシャッターは閉まっていたので、ここは今日が休業日らしく、従業員が来る可能性もかなり低いだろう。


 それでオレはさっきからP1を呼べと言っているのだが、バタフライ効果を気にするP2は、今の授業が終わるまで我慢すると言って、オレの言う事をぜんぜん聞かない。


 しかし人間の身体で、こんな寒さの中に長時間いたら絶対に死ぬ。


「ピ、ピ、P2……オ、オ、オレには…………む、む、無理だ……」


 オレがそう言うと、P2はどこで見付けたのか一枚の毛布を持って来て、二人の身体を包み込む。


「ど、ど、どうニャ? ……こ、こ、これニャら…………も、も、もうしばらく……た、た、耐えられるニャ?」


 そう言いながらP2は、手足をオレの身体に絡ませて、自分の身体を密着させてくる。


 その身体は幼馴染の少女のものだし、ふわふわの髪から甘い匂いがするから、オレは連立方程式の問題を思い出して理性を保とうとするものの、いつまでもつか分からない。


 これはヤバいと思ったオレは、P2が今やっている事が、いかに危険かを伝えようとする。


「ま、ま、待ってくれ……こ、こ、この状態は…………べ、べ、別の問題が……」


 けれどP2は、オレの話なんか聞いてない。


「お、お、思い出したニャ………………ち、ち、地球の……ふ、ふ、冬山で…………そ、そ、遭難した男女は……は、は、裸で…………あ、あ、温め合うんだったニャ!」


 そう言いながら、オレに身体を密着させたまま、毛布の中で制服を脱ぎ始めるP2。


 いくらオレでも、こんな状況で正気を保つのは厳しいんだが……………………。

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